ワタルの提案
新章開始です。
少し短めです。
「直接会う? どういう事だ?」
何を言ってるんだこいつ……
「うん? 言葉の通りだけど?」
「意味がわからん、ハッキリ言ってくれ」
「ふふふ。端的に言うと、あの世界に戻って直接魔王を説得したらどう? という話だよ」
えっ……?
「ふふふ。電話越しでも君の今の表情が予想出来るよ。実際に見れないのは残念だけどね」
「あっちの世界に行ける……のか?」
「僕を誰だと思っているんだい? これでも魔法大国ユーヘミアで天才と呼ばれた男だよ僕は。僕が実際に体験した転移魔法に心踊らない訳がないじゃないか?」
「おま、まさか……使えるのか? その転移魔法を……」
「ふふふ。天才と呼びたまえ、なんてね」
マジか……こいつすご過ぎだろっ!
「君は僕にひとこと言ってくれればいいんだよ咲太、分かるよね?」
「ワタル、頼む! この世界を救うために、俺を今一度あの世界に連れてってくれ! 魔王に会わせてくれ!」
俺は電話越しに深く頭を下げる。
「それが君の望みならば」
なんだ、この男前は! 惚れてまうやろ!
「助かる! それで、いつから行けるんだ?」
「とりあえず、後一週間そこらで文人が夏休みに入るからそれからでいいかい? 魔大陸は僕も行った事がないからね。転移先は僕が訪れた事がある所にしかいけないんだ。そうなると、僕が訪れた中で一番魔大陸に近い場所は、船の発着所があるハーヴェストという町なんだけど、そこからだと魔大陸に渡るまで最低一週間はかかるんだ。流石に出席日数が足りなくて文人を留年させる訳にはいかないからね。あ、心配しないで、こうなる事は文人に事前に伝えてあるから、彼もこの国を救えるならって事で夏休みの間だったら亜希子ちゃんと離れ離れになるのを承知しているよ」
もうそこまで話をつけてたのか……うん?
「って事は、お前も一緒に来てくれるのか?」
「なーにを言っているんだい君は、僕がいなかったらどうやってこの世界に帰ってくるのさ? 帰って来なくても良いというなら、君だけを送るけど?」
「いやいやいや! 助かる!」
俺は電話越しに更に頭を下げる。
「そんなに恩を感じなくてもいいよ。この世界は、僕の親友とライバルが住んでいる。そして何よりも僕が一番尊敬している祖父の故郷さ、守りたい気持ちは君と一緒だよ咲太」
「感謝する!」
「さて、そうと決まれば君は紗奈ちゃんの説得をしないとね」
あぁ、紗奈だったら絶対についてくると言いそうだな……。
「因みに、紗奈も一緒にと言うのは難しいのか?」
「無理ではないよ、ギリギリって所かな? 魂だけを送るならまだしも身体全体を送るにはそれなりの魔力が必要なんだ。知っていたかい? ランダムでも君達を召喚するために一人当たり百人の命が犠牲になってるんだよ?」
「えっ……な、何を言っているんだ……?」
「やっぱり知らなかったんだね。君達一人を呼び出すために百人の魂が犠牲になったんだよ」
うそだろ……くそっ、あいつら! 何て事を!
「それだけ莫大な魔力を必要とするんだよ、異世界転移というものはね。しかも、指定した場所へ……となるとランダムに転移するより何十倍もの魔力が必要になる。まぁ、僕の魔力はあの世界では限りなく上位に入るからね……それでも、僕が転移させられるのは三人が限界だろうね」
「そうか……」
やっぱり凄いなワタルは。
魔力を魂が尽きるまで絞りつくすまで絞った数千人分の魔力を持っているのか……剣術も凄いし……俺こいつに勝てねぇんじゃね?
「ただ、君が留守の間誰が『憑依者』の相手をするんだい? 僕の知る限りでは彼女以外に適任はいないと思うんだけどね」
それは、俺も同感だ。
「紗奈の事は、俺がちゃん説得するよ。俺とお前ふたりで行こう。夏休みが終わる前にちゃっちゃか終わらせて、田宮には亜希子ちゃんといちゃいちゃしてもらおう」
「ふふふ。気が合うね咲太、僕もそう思っていたよ」
これからの方針が決まった。
俺は、今一度あの世界に戻って魔王アーノルド・ルートリンゲンを止めてみせる!