合流
片瀬達が来ると車に乗り切れないため、俺達は二つのグループに分かれて輸送機の出発地である羽田空港へと向かう事になった。司、そしてなんと田宮も手を貸してくれるという事でその二人は、海さんの運転する車で羽田空港に向かっており、俺は紗奈と一緒に片瀬達を迎えにいくために東京駅へと向かった。因みに元戦闘奴隷仲間の高次さんも、専用の輸送機で北海道から羽田空港に向かっていると司から連絡が入った。
俺をはじめ、紗奈、司、高次さんという元戦闘奴隷が四名。そして、ベルガンディ聖国の元勇者である片瀬、丸山、柚木さん、菊池さんの四名。最後に、ワタルから力の授かった田宮。地球をも支配できそうな錚々たるメンツだ。まぁ、そんな事はしないけど。
東京駅八重洲中央口の車寄せに車を停め片瀬達の到着を待つ間、俺と紗奈はひっきりなしに流れている浮遊島【楽園】の報道番組を見ていた。急に現れた空飛ぶ島。禍々しくはあるが、そんなファンタジー感満載の現象をカメラに収めるため、まるで漁船にたかるウミネコの様に【楽園】の周りを飛び回っている。
「こいつら近づき過ぎじゃないか?」
「一応、各放送局にはあの島から半径500メートル以上近づかない様に注意は促している様ですが……まったくと言っていいほど守られていませんね」
「何の基準何だか……それに、上空で半径500メートルも何もないだろうに……あッ!?」
とボヤいでいると一台のカメラが【楽園】から数十メートルほどの距離まで近づいているのが見える。ヘリについていた放送局のマークを頼りにチャンネルを変えるとアナウンサーは誇らしげに間近にした【楽園】についてマイクを通し、電波に乗せて日本全国に発信していた。報道に携わる者としては危険を省みず己の仕事に全うしていると褒められた事かもしれんが、俺から言わせてもらえばただのルール破りの大馬鹿者だ。
この報道クルーに負けじと他の報道ヘリ達も【楽園】に近づこうとしたその時、中継の画面が光ったと思ったら瞬時に画面は砂嵐に変わり報道番組のスタジオは騒然としていた。何が起こったのかは大体予想はつくのだが、答え合わせをするために俺は再び他のチャンネルに変える。
「やっぱりこうなりましたね……」
「あぁ」
テレビの画面に先程、【楽園】に近づいた報道クルーの最期が記録されていた。【楽園】から一直線に放たれた閃光の様なもので消滅したのだ。その様子に他の報道ヘリは一目散に【楽園】から逃げるように距離をとるのだが、これで終わりかと思ったら、一定の距離を保ち一斉にドローンを放つのだが、そのすべてが先程のヘリ同様チリと化していった。
「この人達の執念だけは凄いな」と感心していると、コンコンと運転席の窓ガラスをノックする音が耳に入り、窓ガラスに目をやると爽やかイケメンが立っていた。片瀬だ。
俺はすぐさま車から降り、紗奈も俺に続く。
「咲太さん、お待たせしました!」
「ありがとうな、来てくれて」
片瀬に右手を差し伸べると、片瀬はイケメンススマイルで握り返してくれる。
「アニキ、俺もいるぜ!」
片瀬の背後に丸山と菊池さん、そして柚木さんが立っていた。
「誰がアニキやねん! でも、丸山も菊池さんも柚木さんも来てくれてありがとう! 助かるよ」
「国のいち大事ですから」
「そーそー。それに本当にあの浮島に魔物がいるんだったら、魔物との戦闘経験があって、それに抗える力がある私達が行くのが当たり前なんだし」
「菊池の言う通りです、僕らの力を存分に役立てて下さい。それで……そちらの方は?」
片瀬が紗奈の存在に気付く。
「あぁ、紗奈とは初めてだったな。ほら、自己紹介」
「アタシは、室木紗奈と申します。サクのフィアンセです」
「「「「フィアンセ!?」」」」
「おい! 色々と端折りすぎだろ」
「でへへ。アタシはサクと同じくあっちの世界に召喚されていた者です。まぁ、アタシの場合は、サクとは違いあの世界で処刑されたんですけどね」
そう言い終わったあと、苦笑いを浮かべる紗奈。
「あっ、もしかして。あの処刑台で服部さんの前に……」
そう言えばこいつらはあの処刑の場にいたんだっけな。
「そうです、サクの前に首を落とされました」
「でも、外見がまったく違うんだけど」
菊池さんは、前の紗奈の事を覚えていたらしい。
「アタシの場合は、魂だけがこちらの世界に渡りこの身体の持ち主が死ぬ間際に身体を譲りうけたので、あっちの世界にいた時とは容姿が全く別ものになっているのです」
「そんな事が……で、フィアンセって?」
「それはな――」
紗奈が俺のフィアンセになった経緯を話すと菊池さんと柚木さんはロマンチックだのとキャッキャはしゃぎ、丸山は「男だぜアニキ」とわけの分からん事を口走る。
「それにしても、咲太さん。こんなにのんびりしていていいんですか?」
「あっ、そうだった。さすが、片瀬。話は移動しながらしよう。さぁ、みんな車に乗ってくれ」
「「「「はい!」」」」
全員が車に乗り込んだ事を確認し、俺は羽田空港へと車を発進させた。
◇
【楽園】それは、漆黒の殺戮者であるケイタロスの居城であり、その名の通りケイタロスの理想郷だ。楽園から見た天は果てしない青に包まれ、踏み入れた足が埋まるように大地には緑が生い茂っていたとされていたが、そんな安らぎに満ち溢れていたかつての姿はそこには存在しない。天は墨をぶちまけたかの様な黒に包まれており、大地はあらゆる生命体の生存を許さないかのように枯れ果てている。そして、かつてケイタロスが愛していた彼の眷属達は腐り爛れた身を引き摺りながら、禍々しい空と枯れ果てた大地を彷徨う生きる屍と化していた。
「ニクイ……タダ、タダ、ニンゲンガニクイ……」
エデンの中央に位置する城と言うにはやや控えめな建造物。先の戦の所為で見るに堪えないほどにボロボロなソレは、ケイタロスの居城である。そんな居城の一室、ケイタロスの自室では、漆黒の殺戮者の名に相応しい全身が黒に染まった見目のケイタロスが自身の爪を齧りながら恨み言のように人間に対する憎しみを吐き出していた。
「ケイタロスさま……」
その傍らで、気が遠くなるほどの転生を繰り返し、やっとの思いで恋焦がれた想い人との再会を果たしたクミカは、この楽園と同じ様にかつての面影を失った想い人の変貌に恐れをなしつつ、ケイタロスの様子を窺っていた。
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