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未知との遭遇

 訓練所から廊下に出て奥に進むと駐車場らしき場所に辿りついた。駐車場らしき場所と言っているのは、車が数台停まっているからだ。


 ミニバン、セダン、SUVなどなど様々な車種の国産車があり、神田川さんはSUVの運転席に乗り込む。


「服部、助手席に乗れ。紗奈たんは私の隣だ。ぐひひひ」

「半径三メートル以内に近づいたら分かってますよね?」


 迫りくる美也子さんに対して紗奈は凍るような目を向けていた。半径三メートルって……車に乗っている時点でアウトじゃん!


「大丈夫か? この人……」

「うふふ。いつもこんな感じだからね、直に慣れるよ。それよりシートベルト締めてくれるかな?」

「あ、はい。えっと……シートベルトは」


 いつの間にか細い縁の眼鏡を掛けた神田川さんは、イケメンスマイルを浮かべながらシートベルトを締めるよう促してきたので、法令遵守のため、そして、何より安全のために俺は神田川さんの指示に従う。


「出発するけど後ろの二人もいいかな?」

「出してくれ!」

「はい。美也子さん近いです!」


 後部座席の二人に確認した後、神田川さんは「オーケー! 恵美ちゃん、ナビよろしく!」とハンドルの上に付いている小型マイクに向けて声を発すると、

『メンドいけど……りょーかい』と車内に気怠そうな東城さんの声が響いた。

『とりあえず、職安通りを北に向かって』

「はいよ!」


 車が動き出し、百メートルくらいはありそうな暗い上り坂を駆け上ると、防衛省の敷地の裏手から俺達を乗せた車が顔を出し、勢いそのまま走り去っていった。



 ――都内某所


 経年劣化による建て替えの為に解体作業が予定されている廃ビルの屋上。そこに男は佇んでいた。

 どこにでも居そうな普通の中年サラリーマン。

 ただ、普通と違うのは男が着用している白いYシャツが、時間が経って乾いているのか赤黒い返り血で染まっている事だ。


 それを更に隣の、またもや廃ビルの屋上から覗き込む三つの影。


くろさん。どうしますか?」


 三つの影の内、中性的な顔をしているスーツ姿の女が、ジッと双眼鏡を覗き込む坊主頭の巨漢の男に意見を煽る。

 

「課長が来るまで俺達は対象を監視する。それが課長の命令だ。俺達はそれに従うだけだ」


 玄さんと呼ばれた男は双眼鏡から目を離すことなく返す。


「相手一人だし。俺達でもやれそうじゃん? てか、俺一人でもいいぜ?」

「駄目だよ兄さん!」


 今にでも飛び出しそうな青年をスーツ姿の女が止める。

 兄さんと呼んでいる所を見ると、スーツ姿の女と青年は兄妹のようだ。


「止めんなよ早紀! 俺の実力はお前が一番知ってるだろう?」

「それはわかってるけど! 課長は監視しろって言ってたんだよ?」

「真紀。課長の命令は絶対だ」

 

 玄と早紀は、真紀を止めようとするが……。


「だけど、無理そうだぜ? ほら」


 そう言って真紀は双眼鏡を覗き込みながら隣のビルに向けて指をさす。

 そんな真紀から、早紀は慌てて双眼鏡を奪い取り覗き込むとその二つのレンズの先には、まるで飢えた獣が獲物を見つけたかの様な、歓喜の表情でこちらを見ている男がいる。


「――ッ!?」


 早紀は驚きのあまり双眼鏡を落としてしまう。


「来るッ!」


 玄の声でその場に緊張が走る。


 ダァンッ!


「あそこから飛んできただと……化け物め」 


 隣のビルから飛んできた男を見て真紀は引きつる様な笑いを浮かべる。


「クソッ! 貧弱な身体がッ!」


 男は隣のビルから跳んできた事により、両足を負傷したのかまもとに立てずに這いずりながら悪態をついてくる。


「は……ははは! 二人とも見てみろよ! コイツ足が潰れて這いずり回ってるぞ!」


 真紀は男を指差しながら馬鹿にしたように笑うが、次の瞬間、それがピタッと止まる。


 まるで壊れたロボットの様なぎこちない動作で、男は潰れた足を支えに立ち上がり真紀達の元へとゆっくり歩いて来ているのだ。


 歩く度に男の足からは血飛沫が飛び散り、地面を赤く染めていく。


「マジかよ……」

 真紀をはじめ、玄、そして早紀はその様子をただ眺めるしかなかった。


「なんて脆くて不便な身体なんだ! まぁ、いい。やつに教えてもらった事をすれば……」


 男は自分の胸に五寸釘のようなものを突き入れる。


「ぐおおおおお!」


 男の雄叫びと共に突き刺した五寸釘のようなものから、目視できるほどの濃い紫色の霧が発生する。

 すると、男の身体は徐々に大きくなり、着用していた衣服もその伸縮性の許容範囲を越えたのか、ビリビリに引き裂かれ、その下から現れ男の素肌は、人間にしては明らかに毛深く、まるで獣の様な毛むくじゃらな身体が現れた。


 そして男の顔も徐々に歪んでいく。

 口と鼻がどんどん前に伸びていき、その口には鋭利で獰猛な牙が姿を現す。

 彼の姿は本やテレビとかで見た事がある、狼男の様な姿に変貌していた。


「あ……ああっ……」

「うそ……だろ……?」

「……」


 そんな化け物と呼ぶにふさわしい風貌の男と対峙している三人は驚きと未知との遭遇による恐怖で動けずにいた。


『素晴らしい! 力が溢れてくる! ヤツが言っていたのは本当だったのか! グハハハハハハハ!』


 男は自身の両手を開いたり閉じたりして感触を確かめ、お気に召したのか上機嫌に笑い出した。

 その声は先ほどの声とは違い禍々しい。


「手を上げろ!」


 真紀は震える手を必死にこらえて、男に向けて拳銃を突き出す。

 真紀に合わせて、玄と早紀も同様、男に銃口を向ける。


『おいおい。そんなオモチャが我輩に通用すると思っているのか?』


「強がるなよ化け物!とっとと手を上げろ!」


 真紀の口調が段々と荒くなっていく。


『断る! 貴様らの様な弱者ごときの命令をなぜ我輩が聞かないといけない!』


「後悔するなよ!」


『後悔するのは貴様らだ!』


 男は三人向けて駆け出だす。

 常人では目で追う事が出来ないそのスピードは、三人に更なる緊張を走らせる。


 パンパンパン!


 真紀は堪らず男に向けて発砲するが、銃弾が男の身体に当たる直前何か見えない膜の様なモノに阻まれる。


 男が一瞬で真紀との間を詰める。


『虫けらが舐めた口をききやがって!』


 声を荒げる男は真紀に向けて、右手の鋭い爪を振り下ろす!

 真紀は動く事が出来ず、ただその場に立ち竦んでいた。


「真紀!」


 間一髪だった。


 玄が両手を頭の上で交差させて男の攻撃を止めていた。

 玄の両腕には金属製の篭手の様なモノがつけられているが、男の爪によって深く抉られた痕があった。

 篭手がなかったと思うとゾっとする。


「く、玄さん助かった……」


 玄は真紀のその言葉に静かに頷く。


『ちっ! 雑魚共が! うん? クククッ!』


 男は怒りを顕にしていたが、一人ポツンと孤立している早紀が視野に入ると上機嫌になる。どうやら次の獲物が決まったかのように。


「早紀! 逃げろおおおッ!」

『我輩が逃がすと思うかああ!』


 男の鋭い爪が今度は無防備な早紀に襲い掛かる。

 早紀は全て諦めた表情でゆっくりと目を瞑る。


「兄さん、ごめんなさい!」

「さきいいいいいいい!」



『き、貴様……』


 未だに襲ってこない死と明らかにうろたえている男の声に疑問を抱いた早紀は恐る恐る目を開く。


「え……ッ?」


 そこには見知らぬ青年が化け物の鋭い爪を片手で受け止めていた。


「大丈夫ですか? こいつは俺に任せて下がってください!」

「あ、は、はい!」



 よかった~間に合って! 少しでも遅かったらこの人ヤバかったな。


『き、貴様、何者だ! たかだか人間風情が我輩の攻撃を!?』

「へぇ~犬畜生の分際で人間様の言葉がしゃべれるのか? 賢いな~」

『貴様! 我輩を犬なんかとおお!』


 沸点低いなぁ。こんな挑発に乗るなんて。


「何だそれは!?」


 遅れて到着した美也子さんの驚きの声が聞こえる。


「これ憑依者ですよ? あのサラリーマンの」


「馬鹿なッ! 今までの憑依者はそんな獣みたいな姿ではなかった! 我々と同じ()()姿()だったのだぞ!?」


『ククク……我輩をあんな出来損ないと一緒にするなよ? やつらは所詮意思を持たずこの世界に放たれた有象無象。我輩はあの方に選ばれた戦士なのだ!!!!』


 男は高らかに声を上げる!


「あの方とは誰の事だ!?」


『ここで死ぬ貴様が知る必要はないッ!!』


 男は無理矢理俺に掴まれていた手を振り解いてバックステップで俺との距離をとる。


「サク!」


 心配そうな表情で紗奈が俺の名前を呼ぶ。


「心配するな紗奈。俺の強さはここに居る誰よりも知っているだろう?」


「知っています」

「なら任せてくれ」

「はい!」

「さて。遊んでやるから掛かってこい」


 さぁ、躾の時間だ。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

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改稿しました。大まかなストーリーに変更はありません。(21.7.13)

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://ncode.syosetu.com/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 『あの方』 なんだかチープな展開に 残念
2021/03/21 10:56 退会済み
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