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親子の再会、新しい命

「うん? ここは?」


 ワタルの魔法によって地獄城から転移した俺達が辿り着いたのは、鬱蒼とした木々が立ち並ぶ自然豊かな場所だった。

 また森か?と思ったのだが、一瞬にしてその考えは消え去った。

 理由としては、森にしてはやけに人の通りが多い事と、ベンチや噴水、子供達が遊べるような備え付けの遊具などの人工物が多々あったため、この場所の正体が何なのかいち早く気づいたからだ。


「公園、なのか?」

「正解! ここは国立公園といって、我がユーヘミア王国の王都、ユーヘミアの中心部にあるみんなの憩いの場さ」

「何で公園に?」

「僕の実家は、この公園からみて東の方面にあるんだけど、オニール殿のご令嬢が嫁いだクレーリア伯爵家は、僕の実家の反対方向、つまりこの公園からみて西の方面にあるんだ。西の方面はあまり行く事がないから転移が使えなくてね」


 ワタルの転移魔法は、実際に訪れた事がある場所しか行けない。そう、ルー〇みたいなものだ。この公園がオリビア小隊長が嫁いだクレーリア伯爵家にもっとも近い目印だったのだろう。


「すまんのぅ、ワタル殿も早く家族に会いたいだろうに……ワシを優先してもらって」


 申し訳なさそうな表情をワタルに向け、そう洩らす師匠にワタルは、柔らかい面持ちで、「オニール殿、気にしないで下さい。僕の実家までは転移を使って一瞬で行けますし、僕は事前に家族に向けて報せを出していますので問題ありません。ここは、早くオニール殿の無事をお嬢様に知らせる方が先決ですし」と返すと「ありがとう、ほんにありがとう」と師匠は、ワタルの両肩を掴み何度も感謝の意を込めて頭を下げる。


 そんな師匠に苦笑いを浮かべるワタルは、少し困ったような顔で俺に助けを求めてくる。


 やれやれ、仕方がないな。


「ほら、師匠。ワタルも困っていますし、そのくらいにして早くオリビア小隊長に会いにいきましょう!」と師匠を力づくでワタルから引き離す。


「すまん、つい感情が高ぶってしまってのぅ。では、道案内を頼めるかのぅ?」

「任せて下さい、こちらです」


 国立公園には東西南北各一ヶ所ずつに入口があり、俺達は西の入口から国立公園の外へ出る。


 きちんと整備された路面は、馬車四台が余裕で行き出来る程の広さがあり、歩道と馬車道がちゃんと区分されている。また、そんな路面を囲むかの様なレンガ造りの建物は、高さの制限があるのか一定の高さで、見る者に統一感を感じさせていた。

 

 次に行きかう人々に目を向けると、あきらかにローブ姿の者達の比率が高い。さすが、大陸一の魔法先進国と言ったところか。


「ほぇ~綺麗なところでしゅ」

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」


 思わず感嘆の声をあげるグレイスのフワフワの頭をワタルは上機嫌になでる。


「グレイスのいたディグリス王国はどんなところだったんだ?」


 ディグリス王国には行った事がない。北部にある寒さが厳しい場所だというのは聞かされていたのだが。


「ここに比べたら、人も街も暗いところでしゅ」

「暗い??」

「ディグリス王国は一年の半分が雪に埋もれていると言っても過言ではない大陸一の豪雪地帯だからね、陽が出ている時間が他国に比べて圧倒的に少ないのさ。そんな環境が自ずと人を、人が住まう街を暗くしているのかもしれないね」

「そんなもんかねぇ……」



「オニール殿、ここがクレーリア伯爵家になります」


 国立公園を出て歩くこと半時間、俺達は、目的地であるクレーリア伯爵家に到着したのだが、屋敷の門は固く閉ざされており、どうやって中に入ろうか模索していると、「何者だッ!」と厳つい門番が現れ、門越しに俺達を威嚇する。


 どこぞの馬の骨か知らない者達が屋敷の前をうろちょろしていたらそれは警戒するが当たり前だろう。

 弁明しようとすると、ワタルが「ここは僕に任せて」と言って門番に近づく。


「僕達は、怪しい者じゃないよ」


 いや、それ怪しい奴が言うセリフだから!とワタルにツッコミを入れようとすると、門番の様子がおかしい。


「そ、そんな……ワタル様……」

「やぁ、ミケル。元気そうだね」

「ワタル様はお亡くなりに……なって……」

「うん、生き返ったんだ」


 門番、ミケルの目に涙が溜まるのが分かる。


「知り合いなのか?」

「うん、僕のファンクラブの会員さ」

「はぁ? ファンクラブ?」

「うん、この国では僕公認のファンクラブがあるんだ」


 おいおいマジかよ……。


「ほら、ミケル。泣き止んで」

「だ、だっで……ワダルざま、いぎでて」

「今日は連れもいるから、積もる話は次のファンミーティングの時にね」


 ファンミーティングって……どこからどうツッコめばいいのか分からん……。


「ぐすッ、分かりました。本日は、当家にどの様な用件で……?」

「アポなしで悪いんだけど、クレーリア伯爵夫人に用があって来たんだ」

「奥様にですか?」

「うん。こちら、オニール・カラン殿。クレーリア伯爵夫人オリビア様の父君であらせられる。取り次いでもらえるかな?」

「な、な、な、なんとおお!? 鉄拳のオニール様でありますかッ!? 恐れ入りますが、このままこちらでお待ち下さい! すぐに奥様に知らせてきます!」

「うん、お願いね」


 ミケルは、ビッと敬礼を向けたのち足早に屋敷の方へと走り去っていった。


「それにしても、ファンクラブまであるとは……お前ってやつはどれだけ引き出しが多いんだ」

「ふふふ。ファンクラブが無かった時はファン達の統率がとれなくて、周りに迷惑をかけていたんだ。苦情とかも結構あってね、それだったらちゃんとルール付けさせた方が良いと思ってね」


 それで、自らファンクラブを立ち上げたという。

 やっぱり凄いやつだ。


「お父様!!」


 ワタル凄いとしみじみ感じていると、耳になじむ声が聞こえてくる。

 いつも、師匠にぶっ飛ばされ寝床である牢屋に運んでもらった時に色んな会話を交わしていた。一番きつい時だったから、余計彼女の声が耳に残っていたのか、一瞬にして声の主がオリビア小隊長だと理解できた。


「奥様、走ってはお身体に!」

「ええい! ミケル離しなさい!」

「いけません! 私が皆様をお連れしますので!」


 とミケルはオリビア小隊長をその場に留まらせ、ダッシュで門を開ける。


「はぁ、はぁ、皆様、お待たせいたしました。どうぞ、お入りください」

「ありがとう、ミケル」


 感謝の意を述べるワタルに、息を切らしつつも、照れているのかボリボリと頭を掻いているつもりのミケル。だが、本人が兜をかぶっている事はこの際ツッコまないであげよう。


「オリビアアアアアア!!」


 ミケルに気を取られている間、師匠は両手を広げ、猛ダッシュでオリビア小隊長に突進しようとしているが……ちょい待てええぇ!


「師匠ッ、ストオオオップ!」


 駄目だ、聞いちゃいねえ。


「ワタルッ、魔法で師匠の足止めを頼む!」


 俺は、足元に魔力を溜め一気にそれを開放し、猛スピードで師匠を追随する。

 ドコッ、ドコッと、地面が凹む音がするが、今はそれどころじゃない。


 ワタルの魔法で地面から蔦が伸び師匠の足を絡み取ろうとするのだが……「よッ」と軽い掛け声で飛び越えてよけやがったあのオッサン! まったく、そういう感の良さは流石と言うかなんというか。だが、これで時間は稼げた! 

 俺は一気に師匠との距離を詰める。


「タックルは腰から下あああ!」

「うぉおおお!」


 タックルは成功、何とか師匠を止める事ができた。


「いてッ!」


 ホッと一息ついていると、頭上に衝撃が走る。


「ばっかもぉぉん! いきなり何をするんじゃああッ!」


 頭をさすりながら顔を上げると、師匠は鬼の形相で自身の二つ名の代名詞である拳を握っていた。

 だけど、ここは言わせてもらおう!


「いきなり何するんじゃああッ、じゃないっすよ! ほら、オリビア小隊長のお腹」

「うん? オリビアのお腹だと?」


 師匠は、オリビア小隊長に近づきお腹当たりをマジマジと確認する。


「大分肉がついたのぉ、オリビア、お主鍛錬を疎かにしておるな?」


 駄目だ、このオッサン、脳みそに筋肉しか詰まってねぇ。


「まったく、お父様は……相変わらずですね」


 そんな脳筋父親に、オリビア小隊長は頬を緩ませそっと抱き付き、続ける。


「赤ちゃんがいるのです、双子の。お父様の孫です」


 そう、臨月が近いだろうか、オリビア小隊長のお腹はかなり大きくなっていた。先程、ミケルが走りだそうとしているオリビア小隊長を引き留めたのも、これが理由だろう。


「孫? ワシに孫じゃ、と……? うおおおお、よくやったああああ!」

「きゃッ!」


 師匠は、喜びのあまりか、オリビア小隊長を持ち上げる。


「ちょ、師匠。ダメですって!」

「おぉ、そうじゃった、嬉しくてつい」

「ったく、まじで気をつけて下さいよ……」

「がっはははは」

「さて、オリビア小隊長、お久しぶりです。俺のこと、覚えていますか?」


 師匠を落ち着かせ、俺は改めてオリビア小隊長と対面する。


「忘れる訳がない。よく生きていたな、サクタ」

「はい、何とか生き長らえて今は、自由な生活を送らせてもらっています」 

「国を離れた際に、家族の次にお前の事が気掛かりだった、その黒い瞳の輝きが戻ったようで本当によかった」


 師匠がいなくなってから俺の目、いや、俺達戦闘奴隷の目は死んだ魚の様に変わり果てた。オリビア小隊長はそれを言っているのだろう。


 オリビア小隊長は師匠と同じく社交辞令なんて言えない人だ。そんなオリビア小隊長が、俺の事を気にかけてくれていたなんて、正直嬉しい。


「オリビア小隊長も幸せそうで何よりです」

「もう、小隊長ではないだろうに。オリビアでいい」

「あはは、そうですね。では、改めてオリビアさん」

「それでよい。さて、サクタ」

「はい。何でしょう?」

「この惨状はどうするつもりだ?」

「えっ?」


 オリビアさんが、俺の背後を指さす。

 顔は笑っているのだが、額に浮かぶ血管がぴくぴくしている。あかん、これは、怒ってるやつだ……。


 俺は、恐る恐る後ろを振り向く。


「あッ……」


 屋敷の敷地内は、至る所にクレーターの様なものや、伸びた蔦などが散乱しており、言葉の通り滅茶苦茶になっていた。


「す、すみませえええん!」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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