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帰ってきた元王子⑨

「待たせたな、今からお前たちの奴隷紋を解除する」


 私の宣言に仲間達が各々の方法で肯定する。


 仲間達が声を発していないためなのか、私の耳には人の叫び声や鉄のぶつかりあう音がやけに煩く聴こえてくる。それもそのはず、なぜなら私達は、戦真っ只中、戦場から離脱し廃墟となった村の教会の中で円を描く様に立っている。


 私の目論見通り、三度目の戦場は、ディグリス王国との戦いとなった。

 つまり、これから私の復讐が始まる。


 私は、一人一人オルフェン王国で施された奴隷紋を解呪し、そしてその上に被せる様に新たな奴隷紋を刻む。


 この新しい奴隷紋に大した制約はない。

 ただ、私を裏切らない事……それだけだ。


 もちろんこれを勝手に刻んでいるわけではない。私の復讐が終わったら解呪するという約束をし、四人には了承を得ている。


 最後の一人であるミンギュに新たな奴隷紋を刻んだその時だった。


「貴様らあああ、こんな場所で何をしているッ!!」


 我が小隊の隊長と隊員達だ。まぁ、前線で命を懸けて戦わないといけない私達(戦闘奴隷)が、こんな場所でさぼっているのが気に入らないのだろう。


 所属している戦闘奴隷の活躍が自分の小隊の評価に直結するんだ、それは気が気ではないのだろう。


 過去二戦、我々の隊は一番の戦果を挙げているからな。ただ、それはあくまでチームでの事。個としては、No.11、服部咲太が群を抜いての戦果をあげている。正直負けたくはないが……今はそれどころではない。


「何をしているかって? お前には分かっているだろうグリス。私達は、さぼっているのだ。みな、そうであろう?」


 私はあえてバカにするように、高圧な態度で小隊長であるグリスに返す。

 そして、そんな私の言葉に肯定する仲間達にグリスは人を不快にさせる様なドヤ顔を浮かべる。


「分かっていないようだな? 貴様らは、私の奴隷なのだ。私の命令に背くということがどういうことか今一度その身体で味わうがいいッ!」


 グリスはブツブツと呪文の様なものを唱える。その後ろでニヤニヤしている他の隊員達の面も気に喰わない。特にあのゴリラ……そうだ、ここでゴリラに対する復讐を果たそうとしよう。


「おい、グリス。私達はいつまで待っていればいいんだ?」

「な、な、なぜ……なぜ、奴隷紋が発動しない……」

「なぜ? あぁ、すまない。この悪趣味な奴隷紋は、消させてもらったよ」

「消した? そ、そんなこと、ありえ、ない」

「ありえないも何も実際に私達はお前の命令に背き、何の罰も与えられていない。それが答えだ」


 私達は、各々がまさに一騎当千の強者だ。

 オニール殿や第三王子であるミルボッチ殿が相手であればわからんが、正直オルフェン王国の戦力など、我々五人でも壊滅に近い程の被害は出せると自負している。


 グリス達を絶望に落とすには程よいだろう。


「さて、そこのゴリラ」

「――ッ!?」

「私は寛大だ、が、少し執念深い所があってだな……いつしか、お前の事はただじゃ置かないと心に決めていてな。私の腹いせに付き合ってもらおう」

「い、いや、あれは、訓練で――」

「そうか、お前がそういうのであれば、そうだな、私も訓練として相手してやろう」


 私は魔力を全開放する。

 水色の魔力が全身に纏う。やっとだ、生前の私の魔力値に届いた。

 異世界人特有の強力な身体能力にこの世界の人間特有の魔力。私は唯一無二の存在になったのかもしれない。

 

「な、なんで、魔力が、異世界人には、使えないハズでは」

「そんな事、今から死ぬお前には関係のない事だッ!」


 右手を挙げると、私の背後に水色の巨大な魔法陣があらわれ、魔法陣から無数の氷の塊が次々と現れる。


 その光景に、グリス達だけではなく、レフ、ジュリエット、高次、ミンギュの四人も口を大きく開け、驚きの表情を浮かべている。


「世話になったな、グリス隊」


 最後のお別れの言葉と共に右手を振り下げると、私の背後に現れた無数の氷の塊がグリス隊に降りかかる。

 

 そして、ものの数秒でグリス隊は物言わぬ屍の隊と化した。


「すっごおおい、ツカサ」

「これは、おいちゃんもビックリだわ」


 興奮気味のジュリエットとレフが近づいてくる。


「私にも魔法、教えてください!」

「ミンギュ、すまないがそれはできないのだ。オニール殿の言っていた通り、お前が魔力の器を形成するためには、少なくともあと十年以上は必要だ」

「そうですか……」


 ミンギュは肩を落としながら近づいてくる。


「司……。もう一度確認する。お前、日本に帰る気があるんだよな?」


 珍しく、高次が真剣な面持ちで私に問いかける。


「あぁ、残してきた大切な人達がいるからな」

「……俺も、残してきた人がいる。必ず帰らないといけない……それまで、この命、お前に預ける」


 私は、そんな高次に頷く。


「では、皆の衆ディグリス王国に向かおうではないか」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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