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帰ってきた元王子⑥

 やはりここはオルフェン王国だった。

 

 そう確信したのは、ある男の存在だ。

 ボボルッチ・オルフェン。私の前世、ダリウスとしてこの世界を生きていた時には、オルフェン王国第一王子の肩書を持っていた男だ。何度か面識があるので間違いないだろう。

 

 以前と比べて、体型は更に丸くなっているが、あの他人に不快感を与える卑しい顔は一度見たら忘れられない。

 

 ボボルッチは、私を含め、ここにいる者達を奴隷と称し、戦場に送り込めと吐き捨ててこの場を去った。


 つまり、我々は戦闘奴隷としてこの世界に召喚されたという訳だ。


 以前、ガーランド帝国が異世界人を召喚しこの大陸を支配しようと企てた事がある。

 多大な被害を被った各国が手を組み、結局ガーランド帝国の目論見通りにはいかなかった。


 それにしても、まさかこの私がオルフェン王国の様な弱小国の奴隷になるなんてな。

 

 国力で考えたら、私の前世の故郷であるディグリス王国と比べれば、オルフェン王国など木っ端みたいなものだ。前世ではありえない状況に陥っている自分に自嘲の笑みがこぼれる。


「ステータスオープン! ステータスオープン!」


 私の横で、急に叫び出す中年の男。

 体型や見た目がボボルッチに似ている。


 男は、息を荒くして呪文の様にステータスオープン!と叫び続けている。


 恐らく、異世界に転移してきた事で、物語によくあるステータスとやらを呼び出そうとしているのだろうが、残念ながらこの世界にはそんなものは存在しない。経験値やレベルなんてものもな。


 案の定、男は兵士達にぼろ雑巾になるまで、殴られその口を閉じた。


 それから、私達は順に奴隷紋を刻まれた。

 奴隷紋をよく見ると、二十五という数字が刻まれ、これが私のこの国での呼び名になるのだろうと自然と理解した。


 それから二十五人いた私達は五人ひとグループでまとめられ、牢屋につれてこられた。

 ここが私の寝床となるのだろう、最悪な環境だ。

 

 悪臭ただよう狭い空間には、虫共が這いずり回っている。

 前世は、城暮らし。現世は、先進国である日本暮らしの私だ、耐えられるだろうか……。


 牢屋の前で、足が止まってしまった私の背中に衝撃が走り、その勢いのまま牢屋に倒れ込んだ。

 何事かと後ろを振り向くと、ホームベース型の顔をした底意地の悪そうな兵士が蔑んだ様な目を私に向けていた。


 一介の兵士如きにこんな目を向けられとは、私も落ちたモノだと怒りよりも悲しさが勝り、牢屋の端っこで縮こまっていると、同じグループのスキンヘッド中年の男に「そこの、こっちにきて自己紹介といこうじゃないか」と誘われ、重い腰をを上げ、他の四人が座っている牢屋の中心部分へと移動した。


 何故か、肌と目の色が違うのに言葉が通じている。実に興味深い。


「言い出しっぺのおいちゃんから。おいちゃんの名前は、レフ・ヴォルコ。ロシア出身のぴっちぴっちの四十五歳だ。ちょいといけない仕事の幹部やってたんだけど、相棒に嵌められてな殺されかけた時にあの黒い渦に呑み込まれたって訳よ~まぁ、気軽にレフと呼んでくれ。じゃあ、次にそこのお嬢ちゃんいこうか」


 自己紹介を終えたレフは、私の左隣に座っているまるでフランス人形の様に美しい青い目をした少女にウィンクをする。


「私は、ジュリエット・ローベル二十歳。ポーランド出身で体操選手をしていますわ。それにしても、皆さんこんな場所にいれられてよく平気な顔をしていますわね?」


 とジュリエットは、身体を縮こませる。

 別に平気な訳ではないと弁明しようとすると、メガネ姿のマッチョなアジア人の男が手を上げ立ち上がる。


「僕は、オ・ミンギュ。二十五歳で韓国出身です。兵役を終えたばかりの大学生で、復学の準備をしていたらここに来てしまいました。ミンギュが名前なので、皆さん、そっちで呼んでください」


 因みに、各自の奴隷紋に刻まれている数字は、レフが二十一、ジュリエットが二十三、ミンギュが二十四だ。


「ねぇ、アナタは?」と私の左隣に座っているジュリエットが興味深々に話しかける。

 その視線は、私を通り越して、私の右隣に座っている切れ長な目をした長身のイケメンに向いていた。こういう時は、普通真隣に座っている私が先ではないのか?と悲しくなるが、あえて考えない様にし、私は右方向に目を向ける。


「……上守かみもり高次たかつぐ。二十四歳、日本出身だ」

「それだけですの? 職業は?」

「……話したくない」


 上守の煩わしいそうな返しで、場の空気が悪くなりそうになるのだが、


「まぁ、こういう状況ですし、話したくなった時に話してくれればいいじゃないですか! 次、最後にあなたどうぞ」

 

 とミンギュが何か言いたげなジュリエットを宥め、私にふってくる。


「私は、竹本司。年は十五歳で、そこの上守さんと同じ日本出身の中学生三年生です」


「まだ、子供じゃないか! 東洋人は幼く見えるから、顔はそんなんでも年はいってるかと思っていたが見た目通りの年齢だとは……」


 レフをはじめ、みな憐みの表情を私に向ける。上守ですら。

 前世を加算したらレフとあまり変わらないのだが……。


「確かに、私は皆さんと比べたら子供ですが、置かれた状況は一緒にです。この際、年齢は考えず対等に扱って欲しいです」


 私は守られる立場ではないという事を明確にしたいのだが……彼らの表情を見る限り、それはまだ、無理のようだ。


『早く使える様にして、戦場に放り込め』とボボルッチは兵士達に命令した。

 つまり、私達はこれから戦闘奴隷として訓練を受け、戦場に赴くのだろう。

 私の力を示す機会は沢山ある。


 それよりも、母上は大丈夫だろうか?

 私が消えた事で、服部に何かされるという事はないと思うのだが……私がいなくなった事で心労を掛けてしまうだろう。

 凛についても、心配だ。私がいなくてもちゃんと受験勉強をするだろうか? 私がいなくなった事で、また変な輩に絡まれないだろうか?


 私の今の状況がどうであれ、元世界に戻って来た事は嬉しい。なんせ、叶わないと思っていた、バルカンに復讐ができるのだからな。そして、ずっと気がかりだったグレイスの事も。


 だが、それだけだ。

 ダリウスとしてやり残した事をやるだけだ。

 私はもうダリウス・ディグリスではない。竹本司なんだ。そして、私がいるべき場所は、日本なんだ。

 

 何としても日本に帰還しよう。


 私をこの世界に連れてきたあの黒い渦の解析は、今は無理だ。

 せめてもう一度あの渦をじっくり見れる機会があれば、何とかなるだろう。


 まずはここからの脱出が先だ。こんな狭い牢屋では、何もできない。

 外に出て、あの渦について調査する。

 これは、竹本司としてやるべきことだ。


 そして、ダリウスとしてやり残した事を成し遂げる。

   

 そのためには、この私の肩に刻まれた奴隷紋。これの解呪が最優先だ。

 幸いあの渦とは違って、奴隷紋はじっくり見る事ができるので、少し時間をかければ解呪は問題なくできるだろう。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

当分、竹本司の話が続きます。

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