帰ってきた元王子④
誤字修正致しました。ご指摘ありがとうございます。(21.8.14)
あの男の登場から数年の時が過ぎ、私は中学生三年生になった。
強くなろうと決心した日から、私は魔力と身体能力を徹底的に鍛えぬいた。
魔力に関しては、前世の半分くらいになり、身体能力はオリンピックでどの種目に出ても世界新記録を大幅に塗りかえられるくらいにはなった。
こんな私だ。誰かの下でこき使われるなんて性に合わないため、あの男の件が終わったら、それを目指すのも悪くない。
金メダル総なめ! 報奨金とスポンサー契約で一生食うには困らない生活ができる!
すばらしい、親孝行ができるだけでなく、一生働かずに本だけ読んで暮らせる!
「つーくん、何か楽しい事でもあったの?」
「どうしたのだ急に」
「だって、さっきからニヤニヤしっぱなしだよ?」
「き、気のせいだ」
おっといかん、自分でも気づかないうちに口元が緩んでいたらしい。
「ふ~ん、変なの」
そう言って、私の歩幅に合わせるのは、私の家の隣に住んでいる所謂幼馴染の凛だ。
いつも、口を開けばおままごとの話しかしなかった凛は、中学三年生になって大分大人っぽくなった。まぁ、大人っぽくって言ってもまだ子供は子供だがな。
凛は、非常に可愛らしく育ってくれて、校内でもトップクラスの人気を誇る。
毎日の様に交際の申し込みがあり、「もう、うんざり! そうだ、つーくんが凛の彼氏って事にしてくれない? 男子避けって事で」という提案をされ、断る理由もないので、首を縦に振って以降、校内で凛に交際を申し込む男子は激減した。私の男子避けの効果は発揮されているらしい。
何故か私も女子に交際を申し込まれる事が多々あったので、凛の存在が上手い具合に女子避けになってくれているのでお互い様だろう。
そんな事を考えていると、私達の前にゾロゾロと他校のガラの悪そうな少年らが現れる。ひぃ、ふぅ、みぃ……八人か。
あの男の差し金ではなさそうだな。
そう思うのは、あの男がこんなちんけなガキ共は使わないからだ。
あの日以降、私は何度かあの男の差し金だろう襲撃に遭った。
最初は、どこかのチンピラから始まったのだが、私に通用しない事がわかり、今となっては、その道のプロを差し向けている。まぁ、すべて返り討ちにしているがな。
「つーくん、またニヤけてるよ? ホントどうしたの今日は」
凛の指摘におっといかんと表情を整えていると、目の前の少年の集団からややウェーブ気味の金髪長髪の少年が集団から抜けて凛に近づいてくる。
「四葉中の神谷凛だよな?」
少年は、結構な高身長であるため、私達を見下ろしながら訊ねてくる。
そんな少年に警戒する凜は、サッと私の背中に隠れ、顏だけをひょこっと出し「そうですけど?」と、短く返す。
「俺は、天高の森山拓。正直、あんたに一目惚れなんだわ。俺の女になれ」
天羽高校。通称天高。県内でも有名な不良の掃きだめだ。卒業生の大半がカタギとはほど遠い道に進み、同窓会を開く度に、同級生の数がどんどん減っていくという逸話がある。
高校生にまで交際を申し込まれるなんて、我が幼馴染みの人気はすごいな。
それにしても「俺の女になれ」かすごい告白だな。自分が振られる事なんぞ微塵も思っていないんだろうな。
「私、この人と付き合っているので。すみませんが、お断りします」
「あぁん!? てめぇ、誰よ!?」
森山が凄んでくる。そして、森山の仲間達も一斉に私に睨みを利かせる。
一般人であれば怖くて震えるだろうが、あいにく私には、子犬の群れが虚勢を張っている様にしか感じられない。
「彼女の言った通り、凛の彼氏ですが?」
私は、凛の腰に腕を回し、グイッと私の身体に寄せる。
「つーくん……」と頬を赤らめている凛。実に演技上手だ。
そんな私達を目の当たりにした森山はプルプルと小刻みに震えだす。
「一回だけチャンスをやる。今すぐ、凛と別れてここから消えろ。そうすれば、見逃してやる」
「凛と別れて消える? それの何がチャンスですか?」
余談だが、ここ数年で口調も改められるようになった。
「死にたいらしいな?」
「死にたくはないですね。人生始まったばっかりですし、まだこれからやりたい事が沢山あるので」
「このクソガキがッ!」
森山は堪忍袋の緒が切れたのか、顔を真っ赤にして私に殴りかかる。
凜に何かあるといけないので、私から離れるように指示し、森山に視線を戻すが、あまりにもお粗末な森山の攻撃に私はワザとらしく欠伸をしながら、ひょいひょいと攻撃よける。
今の私なら、ボクシングで階級がヘビー級でも四団体統一王座になる事も容易いだろう。それも良い稼ぎになりそうだ。候補にあげるとしよう。
「にやついてんじゃねえええええ!」
おっと、またもや自分の知らない内に口元が緩んでいたらしい。
こんな茶番にいつまでも付き合ってやる義理も時間もないので終わらせる事にしよう。
「ボディーががら空きですよ?」
私は言葉の通りがら空きになっている森山のボディーに拳を突き刺す。ちなみに身体強化の魔法は使っていない。そんな事したら、腹に大穴が空いてしまうからな。
「ぐひゅっは」
森山はこの世の物とは言えない、呻き声を漏らしその場にくずれ落ちた。
「嘘だろ? 森山さんがあんなチューボーに」
「森君は、天高の番長なんだぜ?」
外野がざわざわしだす。
森山の仲間達が言っていることが本当なら、森山は、県内でもトップクラスの不良校のトップらしい。
てか、番長って……いつの時代だよ。
「つーくん、かっこいい……」
我が幼馴染だけは、違うベクトルなのが殺伐した私の心をいつも潤してくれる。
「さぁ、帰ろう」
「うん! 帰ったら何しようか?」
「受験があるんだから、受験勉強だろ?」
「……勉強嫌だ」
私達は、日常会話を交えながら、何事もなかったかのようにその場を後にした。
◇◇
いつもの様に母上の帰宅まで凜の家で過ごした私は自室で魔力操作の鍛錬をしていた。受験勉強はどうしたかって? 正直、今の私なら大学受験も難なく受かる程の学力を持っている。受験勉強は凜のために一緒にやっているのだ。凛は、私がいないと勉強のべの字もないのだからな。
「今日も来たか……まったく凝りもせず」
このマンションを取り囲む様に敵意剥き出しの者達が私の探知に引っかかっている。
「あら? おでかけ?」
自室を出て、玄関で靴を履いている私に気付いた母上が声を掛けてくる。
「コンビニに行って参ります」
「じゃあ、なんか甘いものお願いしてもいい?」
「かしこまりました。いってきます」
玄関を出た私は、マンションに隣接している公園へと向かう。
この時間であれば、人目につかないうってつけの場所だからだ。
「出てきたらどうなんだ?」
無人の公園に私の声がこだまする。反応がないようにみえるが、奴らはすでに公園に踏み入っている。
そして、奴らの居場所は把握済みだ。
「ちッ、クソガキが」
そう言って姿を現したのは、私の父上と言われるあの男、服部三幸だ。
「珍しいですね、貴方がくるなんて」
「忌々しいガキめッ、お前のせいでどれだけ金を無駄にしたかわかるか?」
「さぁ。貴方が勝手にやらかした事ですし、興味ないですね。それより、もう放っておいてくれませんかね? 私も母上も貴方の家を乗っ取ろうなんて微塵も思っていないのですよ。貴方もこんな無駄な事をしなくて済むと思うんですがね」
「ちッ! 余裕ぶりやがって。まぁ、いい。今回のやつらは今までの奴らとはレベルが違う。おい、頼んだぞ!」
服部三幸がそういうと、ゾロゾロと物陰から黒いパーカーを着たひと昔前のギャングのような者達が現れる。黒いパーカーの背中の部分には、フォークとナイフを持った気味の悪いピエロが描かれており、服部三幸の言う通り今まで私に差し向けた奴らよりも明らかに強者の雰囲気を醸し出していた。
「あんた、本気か? こんなガキ相手に俺達ピエロの晩餐を使うなんて」
この集団は、ピエロの晩餐と言うらしい。
「うるせぇ! 高い金払ってんだ、さっさとこのガキを殺せ!」
「まぁいい。もらった金の分は働いてやろう」
集団の中で唯一フードつきのパーカーを着ている男は、服部三幸にそう答え私の方に視線を向ける。
「という訳で、悪いな坊主。これも仕事なんでな。野郎共、苦しめる必要はない、楽に死なせてやれ!」
フード付きの指示に、パーカーの者達は静かに頷き、一斉に私に襲い掛かってくる。
「どう考えても楽に死なせる気はない様子だな。それにしても……」
服部三幸のドヤ顔がかなりカンに触る。
せっかく姿を現してくれたんだ、二度とふざけた事が出来ない様に痛めつけてやろう。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
もう1話帰ってきた元王子の話が続きます。