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イケメンすぎてまぶしいんだよ

「なんと、ランディスがそのような事を」

 

 イドラさんとのやり取りを終えた魔王様に、ランディスの件についても報告する。

 ランディスの実の妹であるレウィは、自分を貶めた憎い兄の所業とその最期に悲しそうな表情を浮かべている。レウィは心の優しい子だ。 

 

「はい。それで、こちらがランディスの手記になります」


 と俺は、黒い革製の手帳を懐から出し魔王様に手渡す。


 魔王様はそれをパラパラと数ページ捲ったのち、「これは、あとでじっくり読ませてもらうとする」とランディスの手記を玉座のひじ掛けの部分に置き、魔王様は玉座から立ち上がり俺達の方へ近づいてくる。

 そして、俺とワタルの肩に手をのせ、「咲太、ワタル。今回の件、二人ともよくやってくれた」と俺達にお褒めの言葉をかけてくれるが、それを聞いたワタルは、首を横に振る。


「イドラさんに関しては、この身体の持ち主である文人の生活もあり、咲太に一任していましたので、僕はその言葉をいただけません」


「いや、それはないだろ。そもそも、お前がいなかったら、俺はこっちの世界に来ることが出来なかったんだから、今回の件は俺とお前で成し遂げたんだよ」


 俺一人ではどうしようもなかった。


『直接会いに行って説得する?』


 ワタルのこの言葉がなかったら何も始まらなかった。


 ワタルがいなかったら、今でも俺は日本で憑依者と不毛な闘いを強いられていただろう。俺は、一度ためを作って再度ワタルに向かい感謝を述べる。


「お前のおかげだよ、ワタル」


 他の言葉は必要ない。この言葉だけで十分だ。

  ワタルもそれを理解したらしく、俺の感謝の言葉にワタルの目尻が下がる。


「フフフ。君がそこまで言うのなら、今回はそういう事にしておくよ」


「実に良い関係であるな。元は互いに殺し合う仲だった貴殿らが、今となっては友情という言葉では事足りないほど固い絆で結ばれている。あぁ、貴殿らの事を見ているとカケルとの日々を思い出す」


 俺達の様子を傍観していた魔王様は、懐かしそうに眼を細める。

 その表情で、ワタルの祖父カケルさんの存在が魔王様にとってどれほど大きなモノだったのかが想像できる。


「さて、約束を果たせねばな」と魔王様がパチンと両手をぶつける、そして、何もない空間に手を伸ばすと、その手の先の空間が不自然に歪みはじめる。


 魔法の様だが、複雑すぎて俺には何が何だか分からない。

 だが、隣にいるワタルの口から「まさか……」という言葉が漏れているのをみると、この魔法の正体が何かわかったのだろう。


「何なんだあの魔法は?」

「凄いよ、咲太! 僕の見立てでは、あの歪みは、どこか別の空間につながっているんだと思う!」


 ワタルは目をギラギラさせながら興奮止まないといった様子だ。


「別の空間?」

「おそらく転移魔法の応用だと思うんだけど。ほら、あっちの世界の異世界系の物語でアイテムボックスや、空間収納たるものがあるでしょ?」

「うぉ!! マジか!? アイテムボックスなのあれ!?」

「実際にそうとは言えないけど、それに近い物だと思うよ! とにかくすごいよ!」

 

 この世界には、物語でよくあるアイテムボックス的な便利なものは存在しない。

 だからなのか、今起きている現象をただ黙って眺めているしかなかった。


「うむ……中々堪える。もっと改善が必要だな」と苦笑いを浮かべている魔王様の目の前に、俺の背丈をはるかに超える筒状のガラス管が現れる。


 ワタルの身体が入っているガラス管だ。


「今の術は、この場所とどこか別の空間をつなげたのですね?」

「流石であるな、ワタル。初見でそこまで分かるとは。その通りである。転移魔法の応用で私室とこの場所を繋げ、私室にある物をこの場所に移したのだ。我は空間移動と呼んでいる」

「本当になんというお方だ……」

「まぁ、まだ試作段階だがな。このままだと空間と空間の強いイメージが必要なため発動してから時間がかかるのと、莫大な魔力が必要で中々使い勝手がよくないのだ」


 確かに魔王様、結構しんどそうにしていたし。

 てか、この人がしんどがるんだ、凡人では想像もつかない程の魔力を使っているんだろうな。

 おそらく、新しい魔法を披露したくて使ったのだろう。みんなを驚かせたくて。

 魔王様のドッキリに成功した少年の様な表情をみて、俺は自然とそう思った。


「アーノルド様、僕にこの空間移動についての研究のお手伝いをお許しいただけないでしょうか?」

「勿論だとも、貴殿の様な優秀な魔法士に手伝ってもらえれば完成までの道のりはぐんと縮まるだろう。こちらこそお願いしたい」

「そう言って頂けるなんて光栄です。ぜひとも、よろしくお願いいたします」

「うむ。だが、その前にやる事があるがな」


 魔王様はガラス管の中に浮かんでいる魂の抜けたワタルの亡骸を指さす。


「ふふふ。ですね」


 ついにこの日が来るのか。

 ワタルの復活。


 俺はガラス管の中に浮かんでいるワタルの亡骸を見る。

 あの戦場での死闘。たった一度しかこの顔を見た事がないのだが、決して忘れる事はなかった。

 それほど、あの闘いは俺の記憶に刻まれているのだ。

 上品なプラチナブランドの髪は、あの頃よりはるかに伸びている。魂がなくても髪って伸びるんだなぁと単純に関心してしまう。


 ワタルは、なんというかかなり整った顔をしている。人の良さそうな双眸から映し出される黒い瞳はカケルさん譲りで本人も気に入っている。そして、嫌味を感じさせない程よい高さの鼻すじ、少し小さめの口。田宮が美少年というのなら、ワタルは美男子といった方がしっくりくるだろう。


「ちょっと、咲太。恥ずかしいからそんなにまじまじみないでよ」


 俺がじっとワタルの身体をみていると、ワタルがデレてくる。


「変な言い方すんなよ、誤解されるだろ!?」

「ふふふ、冗談だよ」

「さて、そろそろいいかな?」

「あっ、すみません! どうぞ」


 俺は、ガラス管から距離をとる。


「イドラ、力を貸してもらえるか?」

「もちろんでございます。ワタル様の魂を身体に戻すのですね?」


 イドラさんの回答に魔王様はこくりと頷く。


「では、ワタル様。文人様と入れ替わってもらえますか? この状態でワタル様の魂を操作すると、文人様の魂が消滅する可能性がございますので」

 

「それは困ります。すぐに文人と変わります」


 そう言って田宮と入れかわった事を確認したイドラさんは、田宮の胸元に両手をあて、何かを引っ張りだすかのようにゆっくりと両手を引く。


「うッ…」と田宮から苦しそうな声がもれる。


「大丈夫か田宮!?」


 俺が田宮を心配していると、「集中が切れますので、静かにして下さい!」とイドラさんから叱咤され、俺は「すみません」といってシュンとなる。

 そんな俺に田宮は、大丈夫だと右手の親指を立てるのだが、苦しそうなのは変わらない。


 イドラさんの額から汗が滲み、その汗が一滴床に落ちたタイミングで、「ふぅ、抜けました」とイドラさんは、息をもらす。俺には、ワタルの魂が見えないが、イドラさんの両手の上に何か存在している感じはする。それがワタルなのだろう。


「アーノルド様、ワタル様の身体をお願いいたします」


「うむ」と頷く魔王様は、ガラス管に手の平をくっつける。

 すると、ガラス管の中にあった液体が天井に向かって吸い込まれるように昇っていき、一瞬でガラス管内の液体は消滅し、その次にワタルの身体が入っているガラス管がその場から消え、魔王様はワタルをお姫様だっこの要領で持ち上げカーペットの上に寝かせる。


「では、魂を戻します」


 イドラさんは、今度は押し込むように両手をゆっくりとワタルの胸元へと近づける。

 先程よりも大量な汗が、イドラさんの顔に滲み、ぽつ、ぽつとまるで振り出した雨の様にカーペット濡らしてく。


「もう少し、頑張ってくださいワタル様!」


 イドラさんの両手がワタルの胸元にピタっとくっつくと、ワタルの身体が発光する。神秘的な光が周りを包み込む。その光はとても暖かく、柔らかく、心が落ち着く。


「よく、頑張りましたね、ワタルさ、ま……」


 発光が収まると、イドラさんはそう言って倒れそうになるところ、魔王様に支えられる。そして、「イドラ、感謝する」と魔王様から労いの言葉をもらったイドラさんは、笑みをうかべそのまま両目を閉じた。


「やぁ……咲太……。きみの目に映る僕はどうだい……?」


 この声は……。

 俺は、声のする方へと目線を移す。

 長い事動かしていなかった身体に、少し、辛そうだが、相変わらずのイケメンスマイルを浮かべている友の姿に目頭が熱くなる。


「イケメンすぎてまぶしいんだよ」


 俺はそういって、止めどなく溢れてくる涙を隠すように両目を手で覆った。

 


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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