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気にしておらぬ

誤字脱字修正いたしました。(21.10.12)

 俺達は魔王様の待つ最上階へと向かうために昇降柱と言われる大理石の巨大な柱、俺達の国で言うエレベーターに乗り込む。


 前回ララがやっていたのと同く、レレが中心部に置かれている透明な半球状の置物に右手をかざし「最上階」と口にすると、ウィーンという音と共に無重力感が身体を支配される。


 最上階へと向かう最中、レウィの城での生活が気になり聞いてみると。


「基本的には、リリディア様から魔法について教えてもらっています。

 まだ、魔力操作と座学がメインですけど、立派な魔法士になるためには疎かにしてはならない重要な過程だと仰って、みっちり鍛えてもらっています」


 レウィの言葉に、魔法に関してプロフェッショナルであるワタルが、うんうんと頷き反応する。

 

「その通りだね。これは魔法に限った事ではないけど、何事も基盤がしっかりしていないと、応用を利かせた時にそれをちゃんと支えられなくなってしまう。だけど、大半の魔法士は派手好きな所があるから、それを疎かにして基礎を飛ばしてしまう傾向が強いんだ。これは、優秀な魔法士の数が少ない原因でもあるんだよ。レウィは、いい師匠に出会えたね」


「はい!」


 レウィは、魔法以外にもレレから体術を、ララから商いについてなどなど、沢山の事を教わっていて、実に充実した毎日を過ごしていると嬉しそうに語る。ちなみに、俺達が地獄城に到着した頃は、レレに稽古をつけてもらっていて、俺達の事を耳にしたレレが稽古の最中に飛び出して行ったらしく、レウィは急いでその後を追ってきたという。


 まったく、弟子を放り出して何をしてるんだか。


 ちなみにララは商談のために不在らしい。

 ララに会えないのは残念だが、魔大陸一の商会の長であるララだ、タイトなスケジュールで動いているに違いない。

 

 そんな会話を交えていると時間というものはあっという間に過ぎていくもので、俺達は地獄城の最上階へと到着する。


 昇降柱から降りて早々――

「父上は玉座の間でお前達を待っておられる! 俺についてくるのだ!」と言って、先頭を切りズカズカと廊下を奥へと進んでいくレレの後ろに続く。


 そう言えば、玉座の間は初めてだな。

 前回は、魔王様の執務室での会談だったからな。それにしても、あの執務室には驚いたなぁ、まるで森にいるかのようなそんな空間だった。


 玉座の間はどんな感じなんだろうと勝手にワクワクしていると、レレの歩みが止まり、それにつられて自然と俺達の脚が止まる。

 

 立ち止まったレレの目の前には、重圧感のある両開きの扉あり、その扉の中央部分には魔王様の執務室と同じ模様だが、執務室の倍はありそうな、顎を目一杯開いた獅子の頭部が模ってある。


「父上! サクタ達を連れてまいりました! 入室の許可を!」


 広い廊下に響くレレの声の余韻が終わらないうちに「うむ。許可する」と扉の向こうから、威厳と落ち着きを加えたダンディーな声が返ってくる。魔王様の声だ。


 ギィィィィ――っと、重厚な両開きの扉が左右に開かれ、扉の向こうに一歩も足を踏み入れる事なく、俺は室内の様子に驚きのあまりに立ち止まってしまう。 


「まじかよ……ここ、地上百メートルはあるって言ってたよな?」

「ふふふ、毎度想像の斜めをいってくれるね」


 俺が驚くのも無理はないだろう、魔王様の玉座の間は、360度四方八方海なのだ。

 いや、海というのは言い過ぎか……天井や壁の至る所が一つ繋ぎの水槽になっており、水族館の様にありとあらゆる海の生物が悠々と泳いでいるのだ。海の生物の種類や大きさはピンキリで、中にはバスくらいの大きさの生物もいる。


 太陽の光に照らされた天空に存在する海の楽園にしばし目を奪われていると、「ちょっと、咲太」とワタルに肩を揺らされる。


「お、おう」

「魔王様の御前に他の事に気を取られるなんて不敬だよ」

「あ、そ、そうだな。失礼しました、魔王様」

「あっははは、良いのだ咲太、ワタル。この場は、そうだな日本でいうドッキリの様なものだ。咲太の様な反応をしてもらった方が我は嬉しいのだよ」


 魔王様は、まるでいたずらが成功して喜んでいる子供のような、本当に嬉しそうな表情を俺達に向けている。


「この間の、森の執務室も驚きましたが、まさか、こんな水族館みたいになっているとは」

「この場は、日本の記憶にある水族館をイメージして作ったのだからな」


 記憶と言うのは、幸さん、つまりイドラさんの記憶の事だ。


「さて、改めまして、急な訪問にも関わらず、お時間をいただきましてありがとうございます」


 俺は、まずはアポなしでいきなりきてすみませんを言い換えて進言する。


「良い。今日はそこまで忙しくないのでな。さて、久しいなイドラよ」


 魔王様の視線が俺の後ろに控えているイドラさんに向くと、イドラさんは俺の前に出て膝をつき頭を垂れる。ここからは俺の出番はないため、口を噤む。


「はい、アーノルド様。このイドラ、ただいま帰還いたしました」

「うむ。面を上げよ」

 

 イドラさんは、魔王様の言葉に従い、ゆっくりと顔を上げる。


「貴殿の言い分を聞こう」


 決してその言葉に怒気は含まれてはいないが、言い難い威圧感を感じる。


「言い分などございません。アーノルド様を拐かした罪、この安い命で償う所存にございます」


 命で償う!?


「ちょっと待ってください。イドラさん、何を言ってるんですか! 俺に生きるって約束したじゃないですか!」

「咲太様。私は、私の主人であるアーノルド様を騙したのです。本来であれば、こんなちっぽけな命を捧げるだけでは足りません」

「でも、イドラさんにはそうしなくてはいけないという理由があって!」

「それでもです。いや、そうだからなのです。私は個人的な事に主を巻き込んだのです。決して許される事ではございません」


 いや、分かるよそんな事くらい! 分かるけどさ!

 あぁ……だめだ。イドラさんの顔。これは絶対折れない。それならば!

 俺は魔王様の方へと振り向く。


「魔王様ッ! 魔王様の持っていた幸という人物の記憶、それは、イドラさんの記憶なんです、イドラさんは――「待つのだ、咲太」」


 魔王様は、俺の言葉を断ち、そして玉座からすーっと立ち上がり、一歩一歩とイドラさんに近づき、イドラさんの目線に合わせるよう腰を落とす。


「それで、貴殿の復讐は成し遂げたのか?」

「はい、こちらの咲太様のおかげで、全て終わりました」

「そうか」

「アーノルド様、私は「気にしておらぬ」……ッ……」

「……そんな訳にはいきません……ここで私を無罪放免などにされては他の者達にしめしがつきません」

「他の者? あっははは。今件について知っているのは、ここにいる者達とララディア、リリディアのみ、しめしも何もないのだ」

「それでもっ!」

「イドラ。確かに貴殿の言っている通り、我に対しての貴殿の行いは万死に値するだろう。だが、貴殿は先代がこの座についた頃から休む暇なく、我が国のために尽力を尽くしてくれた。それと相殺といこうではないか」

「そんな……」

「頑固な性格は変わっておらぬな……では、貴殿の命は我が預かる。その命が尽きるまで、我の傍で我に仕えよ」


 魔王様の言葉にイドラさんは、一瞬息を飲み、すぐさま口を開く。


「……この命が尽きる最期の瞬間まで、このイドラ、アーノルド様にお仕えいたします」


 深々と頭を下げるイドラさんの翡翠色の双眸からは涙があふれていた。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


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