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帰ってきた元王子①

 私は大きな思い違いをしていた。

 ダリウス・ディグリスは、生きながらえてなんかいなかった。

 

 どうやら私はあの時カシウスに殺され、生まれ変わったらしい。

 

 目を醒ました後、日が経つ毎に大きくなるこの違和感にうすうす勘付いていたが、私はどこかでこの可能性を否定し続けた。


 ――生まれ変わりなんて冗談じゃない!

 ――私は、一日も早くバルカンに復讐しなければならないのだ! 


 そう思っていたからだ。

 

 だが、ある日を境に私はこの事実を受け入れるしかなかった。

 

 それは、私の目がハッキリ見える様になった際に視界に入った鏡に映った私の姿が赤ん坊そのものだったからだ。首が座ってないせいで上手に首を動かすことはできないが、二度見、三度見、四度見までした、が、間違いなく赤ん坊だった。


 ディグリス家の象徴である氷河の様に美しかった青色の髪が淡い栗色に変わっていただけじゃなく、頭のてっぺんに申し訳ない程度の髪の毛しか生えていなかった。誰もが口を揃えて近寄りがたいと言わしめた私の鋭い双眸は、駄肉のせいで開いているのか閉じているのかの区別もつかない。そんな駄肉に埋もれた双眸を持つ顔だ、想像はつくだろう。まぁ、四六時中横たわって、飲む、出す、寝るしかしていないのだ。こんな身体になるのは当たり前だというものだ。


 目がよく見えていなかったのも、体をうまく動かせなかったのも、ちゃんとしゃべる事ができなかったのもこれで辻褄が合う。


 ついでに私が漏らした事も赤ん坊であれば、仕方ない事だと弁明しよう。

 

 そうそう、私の世話をしてくれていた女だが、彼女は私の新たな母上だ。

 彼女は決して巨人族の末裔などではなく、私が赤ん坊だったため、母上が巨大に見えたのだった。


 まぁ、そんなこんなで私は大きな病気やけがもなくすくすくと育ち、三歳になった。

 動けるようになった事で、身体の全体的な駄肉は自然とどっかに消えていった。

 まぁ、見てくれは今の所悪くない。


 さて、改めて自己紹介をすると、私の名前は、竹本司というらしい。母上は私の事をつーくんと呼ぶ。ちなみに母上の名前は朱里(あかり)だ。


 三歳にもなると色々な情報がインプットされる様になる。

 そして、色々の中で一番驚いたのは、この国、いや、この世界が前世とは別物だったという事だ。

 それが分かったのは、読み聞かせと言うものがあると母上に連れて行ってもらった近所の図書館で借りた地理の図鑑によって、この世界が私が元いた世界と全く異なるという事を認識した。

 

 その日を境に私は好奇心の奴隷となった。


 ありとあらゆる図鑑を借りてきては読破し、借りてきたは読破するそんな日々を送った。幼いが故に物覚えが明らかに良い。

 そして、私のアドヴァンテージとして考えられる、生まれた時から自我があるため、言葉の覚えも早く、おむつも早々に卒業した。そして、早々に自分で出来る事は出来るだけ自分でやるようになった。そんな私を見て母上は「うちの子天才!」といつもぎゅっとしてくるので、はず、ゴホン! 煩わしいので一度やめるように言った事があるのだが、その時ひどく泣きそうな顔をされたので、甘んじて受け入れる事にした。


 まぁ、母上には世話にもなっているし、親孝行の一環としてこれくらいはいいだろう。

 決して母上に褒められて抱きしめられて嬉しいとかじゃないぞ?


 ごほん、話を変えよう。

 この家にはある人物がいない。今までの話の中で、普通なら出てきてもおかしくない人物。だけど、出てこない人物。そう、私の父上たる人物だ。

 

 ――この家に父上はいない。


 一度、父上の事を聞いてみたが「みゆきさん、ううん。あの人はね、つーくんが生まれるちょっと前に事故でなくなったの……」という返しがきたのだが、おそらく嘘だろう。


 なぜなら、父上の痕跡が何もない。写真一枚すらないのだ。

 愛しい人であれば、写真の一つや二つ残っていて、私に見せてくれていただろう。

 また、私の質問に答えた母上の表情が明らかに愛する人を亡くした人の表情ではなく、仇を思うかの様な憎しみの籠った表情だったのだ。

 

 それ以降、私は父上の事を母上に聞くのはやめた。

 母上は、私を大事にしてくれている。それだけでいいではないか。

 前世の私は、物心つく前に母上を亡くし、父上からは厄介者扱いされていたため、ちゃんとした親の愛情というものに触れた事がないため、母上のこれが親の愛情なのか分からないが……悪くない気分だ。

 

 そんな母上だが、家を作る会社で事務職として勤めている。

 母上の会社は、幼い子供のいるシングルマザーに寛大で、時短勤務はもちろん、会社に出る必要がない場合は在宅勤務を推奨してくれている。


 この日本にこういう女性が働きやすい職場は少ないらしいので、特に女性職員は、会社にしがみついてでもという気概で仕事をしているんだとか。


 母ひとり子ひとり、私達はそれなりに幸せな時を過ごしていた。

 だからなのか、私の心の中に醜く渦巻くバルカンに対する復讐の炎は徐々にその影を小さくしていった。まぁ、異なる世界という時点で諦めたというのが大きいだろう。

 

 どうにもできない。そう思っていた。


 それがまさかこんな事になるなんて……。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今週中にもう1話書きます。

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