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【閑話】親と子(中)

更新が遅れてしまい、すみません。。。

誤字修正いたしました。(21.6.13)

 爺さんの暴走により、ご近所さん達が何事かとちらほら各々の庭先からこちらの様子を伺っていたので、母ちゃんと俺、そして何故か紗奈まで、「お騒がせしてすみません!」とご近所さんに頭を下げ、サングラスの内側に隠された未だ見ぬ双眸から大粒の涙を滝のように垂れ流し、おんおんと壊れたスピーカーの如く、大音量で泣いている爺さんを連れて家の中へと逃げる様に入って行った。


「もう~いつまで泣いてるのよ、いい加減泣き止んでよッ」


 爺さんをソファーに座らせた母ちゃんは、未だに泣き止まない爺さんを叱咤するが、そこに怒りや鬱陶しいさなどはなく、泣いている子供をあやすかの様なそんな感じだ。


「ほら、鼻水出てるよ! みっともない」と母ちゃんが爺さんにティッシュを渡すと、爺さんは「うん」とその言葉と似つかないややしゃがれた重厚な声で返事をし、ブオオオオオンとまるで象の鳴き声の様なダイナミックな音を出して鼻をかむ。そして、「はい」と母ちゃんに使用済みのティッシュを渡すと、まるで流れ作業の様に母ちゃんはそれをそのまま受け取りゴミ箱へ捨てる。


「父ちゃん、落ち着いた?」

「うん……」

「はい。じゃあ、みんなに自己紹介して」


 母ちゃんの指示に頷き、爺さんはソファーから勢いよく立ち上がる。

 そして、内ポケットから厚さ十センチほどはありそうな鉄製の名刺入れを取り出し、俺と紗奈に一枚ずつ手渡す。


「ごほん。ワシは服部幸咲。服部ハウジング代表取締役会長だ。よろしくな咲太と彼女さん」

「服部ハウジングって、あの手裏剣マークの?」


 服部ハウジング。

 ハーバルハウスや友住林業などよりは劣るが、俺でも名前を聞いた事がある総合ハウスメーカーだ。

 ちなみに、会社のロゴが手裏剣の形をしている。

 おそらく服部半蔵とかけているのだろう……俺の事をはんぞうと呼ぶ恵美さんのような発想だ。


「そうよ。元々服部工務店というローカルな工務店を父ちゃん達が一代で上場企業までに成長させたのよ」


 母ちゃんの話によると、服部家は元々はしがない町の工務店だったのだが、高度成長期の波に乗りこの爺さんが東証二部上場企業にまで育て上げたらしい。

 こんななりだが、凄い人だったんだ。


「まぁ、父ちゃんというよりも沙江子さんの力が大きかったけどね」

「沙江子さん? 誰それ」

「ワシのワイフだッ!」


 ワイフって……ん? 待てよ……。


「爺さんのワイフって……俺の婆ちゃんってこと?」

「うむ! その通りだ!」

「だけど、母ちゃん、なんで婆ちゃんの事は名前呼びなんだ?」


 爺さんの事を父ちゃんって呼んでるなら、母ちゃんの性格からして婆さんは母ちゃんって呼ぶはずなんだが……。


「それはね、私は服部家の養子なのよ」とさらっと答える母ちゃんに

「まだそんな事言っとるのかあああ! 舞ちゃんはワシの娘だあああ!」

 と爺さんは立ち上がり激しく主張する。


「父ちゃん……それでも、私が父ちゃん達とは血が繋がってないのは本当でしょう?」

「血なんか関係なああああい!」

 

 いや、ちょっと待て。

 整理がつかない! 

 ちらっと紗奈の事をみると、あぁ……紗奈も何か頭こんがらがってますって感じだし!


「ちょっと、もっとちゃんと説明してくれる?」


 俺はたまらず母ちゃんに説明を要求する。 


「ママの本当の父ちゃんと母ちゃんは、ママが二歳の時に事故でなくなったの。それで、本当の父ちゃんの親友だった、今の父ちゃんが養子として引取ってくれたのよ」

「そ、そうなんだ……」


 母ちゃんがあまりにもさらっと言うもので、それ以上の言葉が口から出なかった。


「で? 何で今更逢いにきたの? 咲ちゃんを授かった事が発覚した時、あれだけ咲ちゃんを産むことを反対していたのに」

「舞ちゃんがあの忌々しい軟弱男と別れたと聞いて迎えに来たんだ。さぁ、家に帰ろう! もちろん、咲太も一緒に!」

「なんで、あのクソ野郎と別れたのを知ってるの?」


 クソ野郎って……まぁ、クソ野郎だけどさ。


「家を出てからの舞ちゃんの動向は、部下に逐一報告させていたからなぁ……ほれ、心配だし」

「はぁ~家を出ても結局私は父ちゃんの手の平の上ってやつだったのね」


 待てよ? 部下に逐一報告を受けていたなら、母ちゃんが狭山組の連中から嫌がらせを受けていた事も知っているはず……。 


「何で母ちゃんが借金取りから嫌がらせを受けていた時、助けてあげなかったんですか?」

「うっ……」


「それは、私が父ちゃんに泣きつくまで待ってたんじゃないかな?」

 

 俺の問いかけに答えづらそうに言葉を飲む爺さんの代わりに、母ちゃんが淡々と答える。


「さすが舞ちゃん……その通りだッ」

「どういう事ですか?」

「いや……ワシはすぐにでも助けてあげたかったのだが、婆さんが『家族の反対を押し切ってまで家を出たんですよ? 舞子さんの性格からしてすんなりと私達の援助は受けるとは到底思いません。待ちましょう。舞子さんが私達を頼ってくれるまで』って言ってなぁ、舞ちゃんの連絡を待ちつつも、心配だから監視だけはさせていたのだ」

「あはは、沙江子さんらしいね。私が悪かったと頭下げるまで家に戻る事を許さないってか……」

「いや、別に婆さんはそんな事思っていないのだが……」


 母ちゃんの顔を見る、

 何だか寂しそうな表情を浮かべている。


 俺が生まれてきたから、母ちゃんと家族の関係を壊してしまった……。

 そんな事を思っていたら、

「なんか、その、俺が生まれたせいで……」という言葉が自然と口から洩れ出した。


「何バカな事いってるの!?」


 そんな俺に向けてすぐさま母ちゃんの叱咤が飛ぶ。


「いや、俺が居なかったら母ちゃんが家を出る事もなかったし……」

 

「それは違うぞ咲太。確かにお前は舞ちゃんが家を出るきっかけにはなった……が、家を出て、家族と絶縁になっても良いと思うほど、お前の存在は舞ちゃんにとって特別で、掛け替えのないものだったのだ」


 母ちゃんは爺さんの言葉にうんうんと頷きながら、

「咲ちゃんは、この世で唯一ママと血を分け合った家族なのよ? あの時は、沙江子さんに対する反発もあったけど何よりもそれが一番嬉しくて、今でもあの時と変わらない気持ちで、咲ちゃんを授かった事を毎日感謝してるの。だから、そんな悲しいこと言わないで」と俺の頭を撫でる。

「母ちゃん……」

 

 やばい、目頭が熱くなってきた。

 必死に込み上げてくるものを塞き止めていたら、「あのぉ」と紗奈が控えめに右手を挙げる。

 

「それ、凄く分かります……。アタシ、捨て子で、血の繋がった家族なんていなくて……だから、舞さんの立場になったら、多分同じ事を思っていたと思います!」


 紗奈は以前、将来の夢が“お母さんになる”事って言っていた。

 捨て子である自分が味わった事のない親の温もりというものを子の親になる事で分かるかもしれない、という思いが“お母さんになる”という夢には詰まっていた。


「紗奈ちゃあああん!」とそんな紗奈に飛びつく様に抱き着く母ちゃんは、

「今すぐうちに嫁に来なさい! そして、早く咲ちゃんと子作りをするのよおおお!」と紗奈に向けて凄い事を口走っている。


 いつも冷静沈着な紗奈も母ちゃんの言葉に「えっ? えっ?」とテンパるしかないようだ。


「ちょ、母ちゃん! 何言ってんだよ!? 紗奈はまだ高校生だし!」

「何言ってるの? ママは、紗奈ちゃんよりも若い時に咲ちゃんを産んでるんだよ?」

「いや、まぁ、それはそうだけど……」


 母ちゃんにそれを言われたら、ぐうの音もでない。

 

 ピーンポン、ピーンポン

 一瞬、会話が途切れたそんな時――その間を埋めるかのように家のチャイムが響き渡る。


「おぉ、来たな! 待っておれ」と勝手知ったる様子で爺さんが走るように玄関に向かう。


 それから、程なくして戻ってきた爺さんの隣には、上下ダークグレーのスーツを纏った、目つきは鋭いが、品の良さそうな顔立ちをした年配の女性が立っていた。


「さ、沙江子さ……ん」


 驚いた様子の母ちゃんに向けて「お邪魔しますよ、舞子さん。お久しぶりですね」と年配の女性は淡々と返した。


 

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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