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【閑話】親と子(上)

 イドラさん絡みの案件を全て済ませ、数日後にはあっちの世界に行く事になっている俺はそれまでの間美也子さんから夏季休暇をもらっていた。


 元々六課には、美也子さん以外に定時や休日と言った規定が無い。

 美也子さんからの呼び出しがなければ、何をしていてもいいので、今の俺の置かれている状況と何一つ違いはないのだが夏季休暇という言葉で少しばかり口許が緩んでしまうのは、俺の隣にいるマイエンジェルのせいだろうか?


「何をそんなにニヤニヤしてるんです?」とマイエンジェルもとい、紗奈は俺の顔を下から覗き込む。


 くりっとした黒目の目尻がややつり上がった双眸は、下から覗き込んでいるため自然と上目遣いになっており、その可愛らしさにドキドキが止まらない。


 いかん、俺はアダルトなメンズなのだ。

 いくら紗奈の上目遣いの破壊力が凄くても、ここはクールにいかないと。


「ごほん。ほら、何か夏季休暇って特別な感じがして、素敵やん?」

「やん? そうですか? アタシみたいに長い夏休みなら特別感があるかもですが、サクのは数日ですよね? いつもとあんまり変わらないような……」

「かぁー、これだから学生様はッ! いいか? 特殊な職場環境だからこそ、休暇っいう言葉がつくだけですこぶる特別感満載って思わないか?」


 毎日が休みで、毎日が出社みたいなものだがら休暇という概念うちの職場にはないのだ。


「言ってる意味がよく分かりませんが」と首をこてんと傾けた後、「こういう時はアタシと一緒にいるからとかいって欲しいです!」と紗奈は俺に向けてあっかんべーを披露する。


 何だこのコンビネーションは……俺を恋の病で殺すつもりか!?

 

 さて、紗奈の夏休みも残りの僅かで、予備校の夏期講習も一段落ついたので、俺はあっちの世界に行ってた時間の穴埋めをしている。俺の少ない夏季休暇を紗奈に捧げるのだ。


 ということで、今日は紗奈と映画館デートをした。

 それも映画を二本連チャンで観るという、中々普通のデートではやらない荒業だ。

 まぁ、見たかった映画がたまたま良い時間帯に並んでいたので、また映画館にくるのも時間が勿体ないような気がしたからなのだ。

 

 二本の映画に大満足したのち、これからどうする?と次のスケジュールに悩んでいたら、母ちゃんから紗奈に対して夕飯を食べにきなさいという、有無を言わさないお誘いがあったため、俺達は我が家に向かっている。というよりは、角一つ曲がれば我が家なのだが……。


「サク、あれ」

「うん……」

 

 電柱に隠れて、いや、ガタイが良くて隠れきれて無いのだが……白いハットを被り、ハットの同様白のスーツを纏った男が我が家の方角を除き見している。

 ひとまず、繋いでいた紗奈の手を離し、そっと怪しさマックスの男に近づく。


「あの!」

「うぉお!」


 俺から急に声を掛けられた男は、身体をビクンとして驚きの声を上げる。

 その声は、ややしゃがれた重厚な声だった。


「急に声を掛けるとは、お主はワシをショック死させる気かあああ!」

 

 何か知らないけど、めっちゃ怒鳴られた……理不尽だ。


 男は、黒いサングラスをかけておりハッキリとは分からないが、顔中に刻み込まれた深い皺を見るところ、還暦はとうにすぎた老人のようだ。傍からみたら、どっかのマフィアのボスといっても過言ではないほどの貫録を持っている。


 でも、そんなのにビビる俺ではない。

 

「紗奈、くりさんに電話してくれ。不審者がいるって」

「はいッ」

「どぅあれが不審者じゃあああ! 馬鹿者があああッ!」


 鼓膜を突き破るかの様な至近距離で発せられた怒鳴り声に、俺はたまらず耳を塞ぐ。てか、マジでうるさんだけどこの爺さん……。


「電柱に隠れて人様の家をのぞき見しているなんて、どうみても不審者にしか見えないでしょ?」

「なるほど、確かにそうじゃな! がははははッ!」


 今度は一人で納得して笑い出した……なんなんだ、本当にこの爺さん。


「サク、くりさん電話にでません」


 ちッ、使えない国家権力め……。


「うん、お主……顔をよくみせろ」


 と爺さんは俺の眼前にせまり、舐める様に俺の顔を確認する。


「いや、近い、近いですって! 本当に何なんですか貴方は!?」

「うむ……あの忌々しい軟弱男が混じっているのが癪だが、よく似ておる……お主、名前は?」


 あの忌々しい軟弱男……オヤジの事か? この爺さん、オヤジの知り合いか?


「……服部咲太です」

「そうか……咲太というのか……うぅ……」


 今度は泣き出した!

 怒鳴って、笑って、泣く。喜怒哀楽の激しい人だな。

 そんな事を思っていると「何の騒ぎって、咲ちゃん? 何してるの家に入ってこないで」と外が騒がしかったのが気になったのか、母ちゃんが庭先から顔を出していた。


「いや、この爺さんが、家の方を覗いていてさ」

「うおおおおおおお、舞ちゃあああん!!」


 爺さんが、凄い勢いで涙を流し母ちゃんの方へと突進していく。


「えっ? えっ?」と驚いている母ちゃん。


 このままだと爺さんの魔の手が母ちゃんにッ!

 そう思った俺は、「紗奈母ちゃんを頼む、俺はあの爺さんを抑える」と紗奈に指示を出し猛スピードで爺さんに追いつき、羽交い絞めにする。


「ちょっと、何考えてんだあんた!!」


 目上の人ではあるが、ここまでされて声を荒げない訳にはいかない。


「離せえええ、離すんだああああ、舞ちゅわああああん!」

「離せるわけないだろおおお! あんた、母ちゃんに何する気だ!」


 と爺さんと押し問答をしていると紗奈と一緒に母ちゃんが庭先から俺達のいる車道に出てくる。


「はぁ~~咲ちゃん、離していいわよ」

「えっ、でも……」

「いいから、いいから」


 母ちゃんに言われて、俺は爺さんを解放する。

 紗奈も控えているし問題はないだろう。


「舞ちゃん……」

「こんなところで何をしているのかしら?」

「あの、忌々しい軟弱男と別れたって聞いたからワシの元に戻ってきてほしくて……」


 やっぱり、軟弱男はオヤジか! てか、なんだよワシの元に戻って欲しいって!

 この爺さん、母ちゃんの何なんだ!


「母ちゃん、この爺さん何なんだよ!」


 俺の悲壮感漂う反応に、母ちゃんは「はぁ~~」と深い溜息を吐き爺さんを指さす。


「この人は、服部 幸咲こうさく。私の父ちゃん」

「うん? 私の父ちゃん? という事は俺の?」

「じいちゃんよ」


「ええええええッ!?」



いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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