表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/269

最後の仕事

これで、この章は終わりです。

誤字修正しました。(21.5.27)

誤字修正しました、ご指摘ありがとうございます。(21.5.28)

 ランディスによって負った怪我は三日で完全回復し、俺は今日この医療センターを出る事になった。

 俺の怪我は本来なら全治二ヶ月の見通しだったらしく、担当の美人お色気医師のすみれさんは、驚きを通り越して俺の身体を調べさせろと躍起になっていたところ、美也子さんの渾身のラリアットで俺は、難を逃れた。ちなみに美也子さんとすみれさんは同期らしい。


 まぁ、身体中穴だらけにされておきながら、数日で治るなんて我ながら化け物じみた自己修復能力だと思う。


 昨日は、母ちゃん、明美さん、美咲、そして、なぜかくりさんが見舞いに来てくれた。


 明美さんと美咲とみんなが来る前から俺と一緒にいた紗奈の三人は何故かバチバチと火花を散らし、何をとち狂ったのか分からない母ちゃんからの「何なら三人ともうちのお嫁にくれば?」の一言で、明美さん、美咲、紗奈の三人が顔を真っ赤にしているのを見て俺は「えっ? そういうこと?」と初めて明美さんや美咲の気持ちに気付いた。


 俺にこんなモテ期が来るとは……だが、俺には紗奈という死をも分かち合える唯一無二の存在がいるのだ、明美さんにも美咲にも不義理な行動は出来ない。


 そう伝えようしたら、「ねぇ、これ、痛い? 痛いの? あはは、痛いんだぁ~」とくりさんが俺の傷口を指先でツンツンしてきたため痛みにもがき、俺は言葉を飲まざるを得なかった。


 まぁ、昨日はそんな感じで何だかんだ楽しい時間を送る事ができた。


 そして、退院当日――。


「ねぇ~さくちゃ~ん、おねぇさんの一生のお・ね・が・い」


 薄いオレンジ色のショートのソバージュに、顔の右半分は隠れているために、強調される左半分の顔は疲れていそうだが、やけにイキイキとしている。それは、俺というモルモットを見つけたからだろう。彼女から放出される、(あふ)れんばかりの探究心と、白衣の内側から露になっている(こぼ)れんばかりの母性によって俺は四苦八苦していた。


「い、いや、まじで勘弁してくださいよ、すみれさん! 近いし、胸当たってるし、目怖いし!」


 彼女の名前は、夏野すみれ。

 防衛省所属の医師兼研究者であり、我が六課の課長である美也子さんとは同期だという。


「だって~さくちゃんの身体、調べたいんだも~ん。ねぇ~少しでいいからぁ」

「その少しが怖いんですって! なにやろうとしてるんすか?」

「さくちゃのね、ここからここまでメスですぅ~って」


 すみれさんはそう言って、右手の人差し指の先端で、俺の喉仏辺りからへそまで一直線になぞる。

 ぞぞぞっと、俺は背筋が凍るようは感覚に陥る。

 怖い……こんな、怖い人は九つの戦場にもいなかった……。


「いやいやいや、そんなオッケーするわけないでしょうに!」

「えぇ!? ちゃんと中身調べたら元の場所に戻すから~」

「あんた、俺の臓器を弄ぶ気だな!」

「医学の発展のためだよ~さくちゃん一人の命でこれからこの世界に芽吹く数えきれない命を救えるなら安いものでしょ~?」


 だめだ……話が通じない……と頭を悩ませると。


「こらっ! すみ!」

「きゃん」


 我らが頼れる?ボス、美也子さんが、すみれさんの首根っこを掴んでいた。


「美也子さん!」

「ったく、患者相手になにしてんだお前は」

「みーちゃん、すみれは~医学の発展のため、いたっ」


 美也子さんの拳骨が、すみれさんの頭上に落ちる。


「馬鹿か、だーれがお前の私的好奇心に大事な部下を犠牲にするかよ!」

「み、美也子さん……大事な部下って……」


 泣きそうだ。


「ばっ、バカ、お前、何で泣きそうな顔してんだよ!」

「だ、だって、美也子さんにそんな事言われたの初めてだから」


 美也子さんはやれやれと言った表情で、


「お前がいたから、憑依者にも太刀打ち出来たし、加代も助けられた、あれ程頭を悩ませた紗奈たんもすんなり見つけられた、それに長年謎に包まれていた北陸地方の裏組織を壊滅してくれた。お前は凄い事をしてくれたんだ。私は、私になりにお前を頼りにしているし、凄く感謝もしている。お前は私の課にいなくちゃいけない存在なんだよ」と男前な顔で俺にそう語る。


 いつも俺に対するツンが凄いせいか、課長のデレは破壊力が半端なさすぎる……。

 

「もう、すみれのこと、のけものにしないでよ~~~」


 こうして、俺の短い入院生活が幕を閉じた。

 

 それから、少し経ったある日。

 俺とイドラさんは、再び北陸地方にいた。場所は、新潟県燕市。

 時間は、朝日が昇り始めたばかりだ。


「イドラさん、どうです?」

「はい、ち、父です……」


 イドラさんは、両目に涙を溜めて答える。


「じゃあ、イドラさんのやり残した最後の仕事に取り掛かりますか!」 

「はいッ、お願いします!」


 俺は、イドラさんに笑みを向けると、トレーラーの荷台から鉄のコイルを下ろそうとしている、熊の様な髭面の男に近づいた。

  

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

一先ず、これでこの章は終わりです。

というより、一連の憑依者関連の話が終わりました。(長かった……)


次回は、数話閑話をはさみつつ、その間に新章を考えようと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://ncode.syosetu.com/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ