ランディスの手記(下)
残酷な描写を含みますので、苦手な方はご注意下さい。
誤字脱字修正いたしました。(21.5.25)
誤字脱字修正いたしました、ご指摘ありがとうございます。(21.5.26)
復讐を果たした私は、しずくと我が子の墓を作った。
そして、しずくに“生きる”と再度約束した。
ここで、予想外の事が起きる。
朝日に照らされた私の身体が燃えようとしていたのだ。
私は慌てて、そこら中に積もっている雪に身体を埋め熱を逃し、未だにブシの死体が寝そべっている我が家で身を潜めた。
夜の帳が辺りを支配する頃、私は恐る恐る家に外へと出る。
私の身体は燃えなかった事で、太陽の光によって私の身体が燃えるという現象が起きた可能性が高いと思った。もう一度、陽が昇った時に検証する必要がある。そんな事を思っていると、もの凄い空腹感と喉の渇きに襲われる。
私は、まず、喉の渇きを潤すために甕に入った水をがぶがぶと飲むのだが、喉の渇きは一向に解消しない。それならばと、今度は腹を満たすために芋を頬張るのだが……まるで粘土を食べている様な感じがして、戻してしまった。
芋を全て戻した時に視野に入るブシ共の死体を見て、自然と私は喉を鳴らした。
そこで私は理解し、恐る恐る死体の一体に近づき、脹脛に歯を立てる。
死体は死後硬直による筋肉の硬化によって固い、が私は力任せに嚙みついている武士の脹脛の肉を噛み千切った。すると、真っ赤な、大量の血が噴き出した。
死体は、血の循環が滞り、下半身に血が溜まるという事は本当らしい。
私は理解した。
これが私の喉を潤す水であり、腹を満たす飯なのだと。
しずくの血を吸った事による副作用で、私の身体は変化してしまったのだ。
おそらく、太陽の光に焼かれたのも同じ理由だろう。
私は、恐る恐る武士の脹脛に口を近づける。
そして、ペロっと舐めた血によって、全身の毛細血管が開かれる様な錯覚におち、私は貪るように血を飲んだ。
こんな事になってしまった事を嘆き、それでも生きる為に血を飲んだ。
翌日、案の定太陽の光によって私の身体は燃えた。
禁忌を犯した罰なのだろう。
私はもうお天道様の下を歩く事を許されない、私が進むべきは漆黒の闇。
それでもいい。生きてさえいられれば、私は闇の中に埋もれよう。
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初めて、眷属が出来た。
男は、辻斬りによって瀕死の状態だった。
いくら私が人並はずれた力を持っていたとしても、一人で何もかもをするには少々限界があったため、いい機会だと思い私は瀕死の男に問うた。
「生きたいか?」と。
男は、泣きながら死にたくないと言っていた。
自分には、年老いた母とまだ育ち盛りの兄弟がいると。自分が死んでしまったら、家族が飢え死んでしまうと。
再び私は男に問うた。
「おそらく、私はお前を助ける事ができる。その代わり、お前は人としての生を失う。それでも生きたいか?」
男は、それでも生きたいと即答した。
これが私の第一の眷属、巽鍛治との出会いだった。
そこから私は徐々に眷属を増やしていき、荒事専門の組織を作った。
腕っぷししかない我らには、これくらいしか飯の種がなかったのだ。
それでも、人間離れした力を持つ眷属達によって、徐々に我が組織は越後国の裏側で着実に勢力を伸ばしていった。
そして、私は今日も生きている。
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世の中は大政奉還により江戸時代が終わり、明治時代に時代が移り変わった。
昨日、私は初めて、このニッポンという国が、いや、この世界が私がいた世界とは違うものだと知った。偶然手に入れた世界地図によって、だ。
私は、いつかは魔大陸に戻るのだと思っていた。
だが、それは叶わない……。
それでも、私は今日も生きている。
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第二次世界大戦によりニッポンが敗戦国となった。
最近、私の身体に異変が起きた。生き血だけでは腹を満たすことが出来なくなってしまったのだ。
喉の渇きは潤う……だが、腹が満たされない……。
今日も生きた女を眷属が攫ってきた。
いつもなら、幾ばくかの血を抜き取り金銭を渡し帰すのだが……今日の私は頭がどうにかしていた。
私は、女の腹をナイフで引き裂き、腸を貪り尽くした。
私の腹は満たされた。目の前には、私に腹を引き裂かれ、腸を喰われ恐怖の表情を浮かべた女の死骸が横たわっていた。
「私は……私は……こんな事をしてまでも生きないといけないのか……しずく……」
だけど、生きないといけない。しずくとそう約束したのだから……。
そして、私は今日も生きている。
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日本は戦後の復興による高度成長期に入り、人々に活気が戻ってきていた。
今日も私は、差し出された若い女の臓物を喰い、生き血を飲み干す。最近は、この行為について何も考えなくなってきた。慣れたのだろう。
そして、私は今日も生きている。
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今日は、不思議な事が起きた。
私の身体から赤黒い触手の様な物が現れたのだ。
これが血による物だとすぐに理解した。
そして、色々と姿を変えるそれに私は興味を持ち研究に没頭した。
そして、私は今日も生きている。
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研究の末、私はこれを自由自在に操る事が出来る様になった。
変幻自在、まるであっち世界で武器を魔法で具現化していた幻魔ノ装の様だった。
これは、私の最強の武器となるだろう。
そして、私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は今日も生きている。
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私は、いつまで生きていればいいのだ……。
この世界に来て、百年以上の時を生きた。
私は、もう生きなくてもいいのではないのか?
もう、この生を終わらせ、愛するしずくと我が子の元へと行きたい……。
そして、私は今日も生きている……。
――ページはここで終わっていた。
「ランディス……お前も色々な事があったんだな……お前の境遇には同情する。だけど、やっぱり俺はお前の行いを許す事は出来んよ……。お前とは、もっと違った形で出逢ってみたかったな」
俺は、そっと手帳を閉じた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
ランディスも、境遇が変わっていれば、出逢った人が違っていればこういう人生にはならなかったのかなぁと思います。