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ランディスの手記(上)

ランディスの手記は(上)(下)の2話構成になっています。

ランディスの手記(下)は今執筆中なので、数時間後には更新できると思います。

 ランディスとの死闘から一日が経過した。

 俺はと言うと、包帯でグルグル巻きにされ、ベッドの上で絶対安静中だ。

 

 昨日、ランディスを倒した俺は、そのまま気を失ってしまい、気づいたら、ここ、防衛省敷地内に設置されている医療センターの病室の一室に寝かされていた。


 昨日は本当にやばかった。

 イドラさんがランディスのあの血を操作して抜き取ってくれなかったら、俺は死んでいた。いや、俺だけじゃない、紗奈もイドラさんも死んでいたのだ。


 考え方や心構えを改めないといけない。

 

 俺は最近、魔法が使えるようになり、師匠に勝てる様になっていい気になっていた。

 それに加えて、以前のランディスを知っていた事もあり、そのイメージでランディスなんて余裕で勝てると思っていた。何が「わりぃけど、こっからは俺が相手だ」だ。顔から火が出るくらい恥ずかしい。

 世の中には、俺より強い奴はごまんといる。そう思って対処していかないと命がいくつあっても足りない。


 何度そう心に刻んでも俺ってやつはすぐ油断してしまう。本当に良くないクセだ。


 ランディスの最期を思い出す。

 しずくという人物と生きると約束したって言っていた。

 だから、死ぬわけにはいかないと言っていた。

 

 正直、ランディスは悪人だ。そんな奴の約束なんて俺にとってはどうでもいい。

 だが、凄く引っかかる。

 この世界にきて、ランディスに何があったのだろう。

 俺は手に握られている黒い革製の手帳の様な物に目を落とす。


 先程、美也子さんが持ってきてくれたものだ。

 ランディスの部屋にあったもので、中身を開いたらこの世界のどの国にも当てはまらない文字で綴られていたらしく、もしかしたらあっちの世界の言語では?と俺に持ってきたという。「どうせ暇なんだろ? 内容確認したら報告を頼む」という指示つきで。

 

 それと、もう一つ。

 俺達をランディスの元に案内したグールの巽の姿がきえていたらしい。ただ、巽が着用していた服一式とその横には白い灰の山があったらしく、恐らく主であるランディスが死んだことで、眷属である巽も灰になったのだろう。


 北陸地方で、急に人がいなくなって、その現場にその者が着用していた服一式と白い灰の山が残されていたという事件が多発しているのをみると、そいつらも恐らくランディスの眷属の可能性が高い。

 これで実質【ピエロの晩餐】は壊滅したと思って良いだろう。


「さて……」


 俺は黒皮の手帳を開く。

 中身は、経年劣化により所々黄ばんでいるが、文字の羅列は綺麗に残っていた。


「やっぱり、あっちの世界の文字か」


 ランディスが書いたモノに間違いないだろう。


 ――この国にきて季節が一周した、今日から手記を綴ろうと思う。


 どうやら、中身はランディスの手記の様だ。

 俺は、手帳を閉じ、「ふう~」と一度深呼吸をし、再び手帳を開いた。


 

 この国にきて季節が一周した、今日からの事を日記に綴ろうと思う。

 今日という日が、暦の上でいつなのかは分からないため、このページを始まりの一ページとする。


 ここまで、色々な事があった。

 その中でも一番の出来事は、しずくとの出会いと、そして……別れだろう。

 いや、しずくとの一件は、私の人生の中でも一番の出来事だと言っても過言ではない。


 それほどしずくは特別な存在だった。


 どうやってこの国に来たのかは未だに分からないが、私は、このニッポンという国に来てしまった。

 気が付いた時には、宝石を散りばめたかの様な満天の星空の下に私はいた。

 薄暗い牢獄から解放され、数年ぶりに現れた満点の星に瞳を奪われ、涙が溢れ出た。

 ジメジメとした生暖かい風がやけに心地よく、嗅ぎなれたはずの青々とした草木の匂いが、やけに新鮮に思えた。


 そんな干渉に浸っている私を数名のブシが私を囲いカタナを向け威嚇し、終いには私に襲い掛かって来た。あまりにも懐かしいこと尽くしで、レウィシアの件で罰として魔法を封じられていた事を忘れてしまっていた私の左目に忌々しいブシのカタナがめり込みこのキズができた。


 次の日、私はしずくの声で目を覚ました。

 しずくは垢抜けていなく、決して容姿が整っているとは言えなかった。

 驚くことに言葉が通じた。今でも、何で私がニホンゴを使えるようになったのかは不明だ。

 しずくは若干の警戒心を見せつつも、私に飯をくれ、ブシに斬られた目の手当てしてくれた。

 私は自分の名前を教えるのだが、発音が上手く出来ず私の事をらんですと呼ぶので、もう、らんですで良いと言ったときの、しずくの笑みに心が洗われるようだった。


 生まれて初めて、他人から笑みを向けられた気がした。


 その日から私はしずくの世話になる事になった。

 しずくの両親は、数年前に流行り病によって他界しており、しずくは一人で作物を育てて生計を立てていたという。また、他の民家とも離れているおり、めったに人が訪ねて来ないため、私の身を隠すにはもってこいだった。

 

 しずくは、朝日が昇る頃に家を出て、夕暮れ時に戻ってくる。

 そのあいだ私は一人で留守番をしているのだが……そんな何も出来ない、しずくにおんぶに抱っこな自分が情けないと思っていた。だが、それ以上にしずくとの毎日は心地よかった。

 

 次第に私としずくは、お互いを求める様になった。


 そして、しずくとの生活が数ヶ月過ぎたある日。

 しずくの妊娠が発覚した。

 私が人の親になるのだ。あれ程、喉から手が出る程欲しかった――家族が出来るのだ。

 私は歓喜し、しずくを抱き上げた。

 

 しずくの妊娠が発覚して、数ヶ月が過ぎた。


 しずくのお腹はかなりの大きさになっていた。

 タイミングが良いというか、季節は冬季に入っており、しずくは畑仕事を休んでいたため、村でしずくの妊娠を知る者はいなかった。

 私はというと、しずくとお腹の中の子に栄養をつけてもらうため、夜な夜な獣を狩っていた。


 良かれと思っていた事――それが、良くなかったなのだ。


 私がしずくの元を、出入りしている事がバレてしまったのだ。

 

 狩りから戻ってきた時すでに遅し……ブシ共は、私を殺すために我が家を占領していて、しずくはッ!

 隠れていたブシからの攻撃から私を守るために…………。


 しずくは、最後の力を振り絞って私に言った。


 私に出逢う事ができてうれしかったと。

 私と一緒にいれて幸せだったと。

 元気な赤子を産めなくてごめんなさいと。

 私の事を愛していると。

 そして、私に生きて……と

 

 失いたくなかった……ずっと、一緒にいたかった……。


 だから、私はしずくの血を吸った。


 グールでもいい、生きていてさえくれれば。

 そう思い、禁忌をおかした……が、しずくは戻らなかった。


 その晩、私は領主をはじめ、この件に関わった全ての者達に復讐を遂げた。


「ランディス……お前……」

 

 少し目頭が熱くなり、俺はランディスの手記から目をそらす。

 ベッドからおり冷蔵庫を開け、ボトルの水を取り出し一気に飲み干す。


 さぁ、続きを読もう……。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

最近ブックマークや評価ポイントが伸びてきて、凄くやる気が出ております。

ブックマークが剝がれない事を祈るばかりですw

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