臓器密売組織をぶっ潰せ!終
「わりぃけど、こっからは俺が相手だ」
「くっくっく、誰が掛かって来ようと同じ事だ。貴様らでは、この私には勝てんよ」
自信満々なランディスの顔がやけに癪に障るが、それよりもランディスの身体から伸びているあの赤黒いものは何なのだろう? まるで槍の様に伸びて攻撃をくりだし、触手のように相手の身体を掴み、盾のように攻撃を防いでいる。まさに変幻自在とはこう言う事だろう。
変幻自在、まるであっちの世界の一流魔導士が武器を魔法で具現化している幻魔ノ装に似ている。
それによって紗奈の攻撃が全く通用しなかった。
それだけじゃない、あの殺戮者一のスピードスターである紗奈が、信じがたい事に手数で負けていた。
そして、さっきの紗奈との戦闘を見る限り、あの赤黒いものはランディスの身体の至る所から意思をもって出現している。
「どうしたのだ? 掛かってこないのか?」
ランディスは、指をクイクイして俺を挑発する。
この野郎……まぁ、難しい事をごちゃごちゃ考えていてもしょうがないか。
「そんなに慌てるなよッ!」
瞬く間にランディスとの距離を詰めた俺は、挨拶代わりの一発をランディス顔の中心部分に叩き込む!
ドゴッ!という鈍い音と共にランディスは、数メートル後ろへと後退るが
「ちっ、手応えゼロかよ」
盾状になった赤黒いものによって俺の攻撃は遮られる。
「馬鹿力が……だが、しょせんこんな物だ。貴様の攻撃は私には通用しないのだ!」
「たった一撃防いだだけでいい気になるなよ! てか、腹立つからそのドヤ顔やめろッ!」
俺は再度ランディスの懐へと飛び込む!
ドゴッ、ドスッ、ボスッ、ドンッ、ボコッ、ゲシッ、ビシッ、バシッ、ドスッ、ドスドスッ!!
拳と蹴りを織り交ぜてランディスに攻撃を繰り出すが、やはり全て赤黒い盾状の物で防がれる。だが、俺の攻撃は紗奈よりスピードが遅いが、その分、力がノッているため、赤黒い盾状のものは、紗奈の時のそれとは明らかに厚さが違う。
口ではあんな事を言っていたが、俺の攻撃を警戒しているのだろう。
ランディスに対して、若干の油断があったのかもしれない。それによってほんの一瞬手が緩まってしまった。
「あっ」
赤黒い盾状の物から触手の様なものが伸び、俺の腕が上に弾かれる。
「死ね!」
赤黒い盾状の物の中央部にぽっかりと穴があき、そこから現れる血色の悪いランディスの顔はまるでホラー映画の一場面のようだ。そんな、ホラーランディスの口が開かれ、赤黒い槍が現れたと同時に俺の顔に迫ってくる!
カチッ!
「なんと、馬鹿げた……」
攻撃を歯で受け止めた俺を驚き半分、呆れ半分といった表情を浮かべるランディスは赤黒い槍状の物を自分の身体に戻し、バックステップで俺と距離をとる。
「ぺッ、ぺッ、うえぇ」
口の中に錆びた鉄臭さが広がる。
「これって……血、なのか?」
何となく予想はしていたが、赤黒い槍状の物を歯で受け止めた事でハッキリした。
「くっくっく、その通りだ。私がこの世界に来てから取り込んだ何万もの人間の血だ」
「ちっ、何万って軽く言ってくれるよな。てか、なんでそんな気色悪いモノを使っているんだ? お前、腐っても魔族の中でも上位の存在なんだろ? 魔法はどうしたんだよ?」
「ちっ、貴様には関係のない事だッ!」
ランディスは急に声を荒げ、身体の至る所から血の槍を具現させ、俺に向かってくる。
「おいおい、多すぎるだろ? 貧血でぶっ倒れちまうぜ? ただでさえ顔色が悪いのによ」
俺は迫りくる血の槍を、避けたり、手で叩いたりして免れる……が、ランディスは段々とその数と形態を増やしていく。
槍が剣に、剣が斧に、斧が鎌に姿を変え無数の攻撃が俺に襲い掛かる!
ちッ、手数が多すぎる。
全てを捌ききるのが難しいと感じ、俺は致命傷にならない攻撃は無視する事にシフトチェンジする。
徐々に俺の身体に傷が増え、血しぶきが飛ぶ。
「咲太様ッ!」
「大丈夫です、イドラさん。サクは負けません!」
紗奈が今にも飛び出してきそうなイドラさんを落ち着かせる。
そうだ、その通りだ。俺は負けない。
「どうした、人族! 避けるだけで精一杯か? ほらぁ! ほらぁ! ほらぁああああ!」
こいつ、ちょいちょいドヤ顔するのやめてくれないかな。ムカついてしょうがないッ!
「うっせええ、調子に乗ってんじゃねええええッ!」
俺の拳が真っ黒に染まる。
ドッガアアァッ!
俺に迫りくる攻撃を、拳一つで粉砕し、ランディスに叩き込む……がまたもや手応えがない。
また、あの血の盾に阻まれた。
「ちッ、どうなってんだそれ」
あのタイミングでどうやって……防げるんだ。
「危ない、危ない。まさか、魔法を使ってくるとはな。しかも、なんだその不格好な魔法は?」
「不格好いうな!」
「まぁ、貴様が魔法を使うか使わないかなんて関係のない事。貴様は、決して私を傷つける事ができないのだからな」
「なんでそう言い切れる?」
「私のこれは、厳密に言えば私が発動しているわけではないのだよ」
ランディスは血の盾を俺に向け、更に続ける。
「第六感、シックスセンスというべきかな? 少しでも私に脅威が迫れば勝手に私を守るために自動発動してくれる。これはそういうものだからな! くっはははは!」
「そんなの、ぶち抜けばいいだろうが!」
一気にランディスとの間隔をゼロにした俺は、身体全体に魔法をかけ、攻撃をしかける。
ドッゴォッ、ドッスッ、ボッスッ、ドォンッ、ボッコッ、ゲッシッ、ビッシッ、バッシッ、ドッスッ、ドスッドッスッ!!
さっきより、明らかに速く、重い攻撃なのだが、一撃たりとも手ごたえを感じられない。
「くっそおお、何だよそれえええッ!」
「ぐっははははは、無駄だって言っているだろおおおお」
「ぐふッ!」
腹部に猛烈な痛みを感じる、久方振りに味わうこの感覚。
俺の腹にランディスの血の槍が突き刺さっている。
こんなまともな攻撃を喰らうのは、どれくらいぶりだろうか……。
正直、ランディスの事を舐めてた。俺の力があれば、ランディスの血の盾なんて軽く突破できると思っていた。
くそ……ッ、油断した奴から死んでいくのが戦場だろ!
それで死んでいった仲間達をお前は何人も見てきただろ服部咲太ッ!
「ぐはッ! ぐッ……」
更に数本の血の槍が俺の身体のあっちこっちに刺さる。
たまらず俺は、片膝をついてしまう。
「咲太様ッ!」
「サクッ! 嘘です、よね? よくもサクをおおッ!」
紗奈は、漆黒のアーミーナイフを両手に構える。
「やめろッ、紗奈、イドラさんを、連れて、逃げろ」
紗奈じゃこいつに勝てない。
「サクを置いて逃げるなんてありえません!」
シャキッ!
「もう、いいだろうか?」
ランディスは、血の鎌を俺の首元に添える。
「こんのおおおお! サクから離れるんですうううう!」
紗奈がもの凄いスピードで突っ込んでくる。
「このッ! このッ! このッ!」
目で追えない程の攻撃を繰り出す紗奈、だが、すべて血の盾によって防がれる。しかも、ランディスは全然紗奈の方を見てもいない。完全に無視しているのだ。
ランディスが言っていたシックスセンスという戯言の信憑性が深まる。
このままやられる訳にはいかない。
俺は、力を振り絞ってランディスに向けて攻撃を仕掛けるのだが、
「くッ!?」
血の触手により、両手両足を拘束される。
「ぐっはははは、所詮こんなものか? 最期に言い残す事はないのか? 慈悲深い私がきいてやろう」
「させません!! きゃッ」
紗奈のか細い首や、両手、両足に至るまでランディスの血の触手によって動きを封じられる。
「そんなに焦るな小娘。お前は、この男を殺した後、私がゆっくりと味わってやるのだからな」
「サ、グ……は、なすの、です」
まずい、俺が死んだら紗奈やイドラさんが……でも、どうすれば……。
くそ、こいつのこの血の操作を止められれば……ん? 血の操作……操作?
もしかしたら……いや、でも……ええいッ、考えてる暇はない! どっちみやられるなら、可能性にかけてるしかない!
「イドラさん!」
俺の言葉にぺたんと尻餅をついていたイドラさんがビクンとなる。
「は、はい!」
「ランディスの、こいつの血を操作してください!」
「で、でも、私、その人本来の物は操作ができないのですよ!?」
そう。俺はイドラさんの得意とする操作にかけてみる事にした。
イドラさんは、人の血や魔力など、元々その人に根付いているものについては操作ができない。そんなの出来ない。だが、本来その人の物ではない物は操作が可能だ。例えば憑依者の魂とかは、その人物本来の魂ではないため、操作が可能なのだ。
ランディスのこの血は、何万もの人間の犠牲によって成り立っている物だ。ランディスに本来から備わっていたものではないはずなのだ!
「俺を信じてください! イドラさんならやれますッ!」
「ええいッごちゃごちゃと訳の分からん事を! もういいだろう、死ねッ!」
ランディスは俺に向け血の鎌を振り上げる。
「イドラさあああああん!」
声を張り上げたせいか、ランディスから攻撃を受けた至る部分から血が噴き出る。
「はいッ!」
イドラさんは立ち上がり、ランディスに両手の平を向けてブツブツと何かを唱えると小規模なサイクロンが発生する。
「――ッ!? な、なんだ、これは!?」
小規模なサイクロンにひっぱられるかの様にランディスの身体から赤黒い血が抜けていく。
よっし、ビンゴだ。
「やめろ、何をやっている、私の血をかえせええええッ!」
ランディスは自分の身体から抜けていく血を何とかとどめようと必死に抗う。
イドラさんとランディスで綱引きをするような、そんな攻防が続く。
余裕を失ったランディスは、俺を拘束していた触手を消し、イドラさんに集中している。俺の事は満身創痍で何もできないと思っているのだろう。舐め過ぎだ!
俺は、がら空きになったランディスの脇腹に拳を打ち込む。
血の盾によって防がれるが、別にそれでいい。
「ぐッ、きさまあああ!」
ランディスは、俺に気を取られてしまいイドラさんとの綱引きに集中ができないのだ。
これでいいんだ。
俺は、何度も何度も拳を打ち込む。
色んな所が痛い、血も馬鹿みたいに出ている。だけど、こんなもの気合で何とかできるッ!
「うおおりゃあああああ」
幾度も、拳と血の盾がぶつかる鈍い音が聞こえる。
だけど、明らかに盾は薄くなっていく。
もうひと踏ん張りだ。
「ごほ、ごほ、よ、よくもサクを!」
触手から解放された紗奈が、怒りのボルテージマックスでランディスを切り刻む。
「くッ! えええい! 煩わしい!」
たまらずランディは俺達に向けて、攻撃をしかけるが、その度に大量の血をイドラさんに持っていかれる。
絶対手を止めるわけにはいかない。ランディスを叩くラストチャンスなんだ!
パリン!
ガラスが割れたような、耳に刺さる音がする。
俺の拳が、血の盾を貫いてランディスの腹部に届いたのだ。
「もう一発!」
「ぐっふ」
明らかに効いている
俺の怒涛のラッシュが始まる。
もう、ランディスの血の盾はなんの役割もしていない。
そして、ついて……全ての血を抜かれたランディスは、血の盾も、血の触手も、血の槍も、何もかも出せずに棒立ちになっていた。
俺は、右拳に魔力を最大限に込める。
「や、やめろ、わ、私は、死ぬわけにはいかないんだ、約束したんだ、生きるって、しずくと、約束したんだ」
「そうかよ。約束は守らないといけないな」
「そう、だろ? 私を殺さないで、くれ」
「だけど、お前はその約束を守るために、何万の人を犠牲にしたんだ。お前に生きて欲しいと思った人は、お前のその行いをよしとしてくれるのか?」
「……しては、くれない、だろう」
「そういう事だ。お前はやり過ぎたんだよ」
「わたしは、わたし、は、ただ……あぁ……しずく……」
「じゃあな、ランディス!」
俺の拳が、ランディスの身体にめり込む、そして遅れて魔力が爆発する。
ランディスは天井ぶつかり、そのまま天井を突き破って外に身を投げ出される。
「たい、ようが、まぶしい……」
ランディスは、身体は炎に包まれ、灰となった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
最近、WEB小説家の皆さんと20名ほどのグループを作って作品を作るHyper Brain Projectというものに参加していまして、今話の途中に出てくる【幻魔ノ装】は、そのグループにいるアゲインストさんにつけてもらいました。
下記、アゲインストさんの作品になります。よろしければ、皆さん読んでみてください。
【最強になりたい奴が多すぎる】
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