臓器密売組織をぶっ潰せ!⑤
「まさかとは思って連れてこさせたが……。なぜ貴様がここにいる?」
こいつがランディスだと?
一度しか会った事がないが、それがつい数週間前と言うことで、俺はランディスの事を結構鮮明に覚えている。
あまり俺と年の変わらない、ダークグレイの髪をした小綺麗で育ちの良さそうな青年で、俺の目の前にいる男とは似ても似つかない。それもそのはず、目の前にいる男は、青年をとうに通り越した中年の男だ。
ダークグレイのボサボサに延びきった髪が唯一ランディスと重なる所であり、血の気を失った顔の至る所に出来たシワが男の歴史を語る様に、俺の知っている青年とはほど遠い姿だ。
「貴様ッ、聞いているのか!?」
俺からの返事が無いことにランディスは苛立った表情で声を荒げる。
「あんた、本当にランディスなのか? レウィの兄貴の」
「質問しているのこっちだッ!」
「分かったよ! 元々俺はこの世界の人間なんだから、俺がこっちにいるのは全く不思議な事じゃないぜ? それより、あんたと一悶着してから数週間しか経ってないのに、なんだよその変わり様は?」
「数週間……だと?」
ランディスは、信じられないという表情を俺に向ける。
「あぁ、数週間だ」
「私が元の世界からこっちの世界にきたのは、少なくとも貴様らとの一件から数年は経っている、そして、この世界にきて百年以上経っているのだぞ? それを数週間だ、と?」
ランディスは、ワナワナと震えており、両目がかなりの勢いで泳いでいる。
世界を渡るということは、線と線ではなく、点と点。
本人や術の実行者に明確なイメージがない限り、いつどこに辿り着くのかなんて誰も分からない、ランダムなんだ。
ある意味ランディスと同じ経験をしているイドラさんは、険しい表情をランディスに向けていた。
普段あまり表情の変化が少ないイドラさんが、あんな表情をするなんて珍しい。
「大丈夫ですか? イドラさん」
「……はい、少し気持ちが追い付かなくて……」
イドラさんの気持ち、分からなくもないか。
まさか、密売されたと思っていた自分の臓器が、顔見知りの胃袋に収まっていたなんて。
自分の臓器が、病に侵され必要とされている人に有効活用してもらっていると思う事で自分を慰めていたのに、ただの食事として消費されていたなんて……この結末は残酷過ぎる。
「うん? イドラ? イドラってあのイドラなのか?」
イドラさんは、一歩前にでて真っ直ぐランディスを見据える。
身に纏っているローブの所為でハッキリとは分からないが、足元が震えているのか足取りがおぼつかない。
「えぇ、久しぶりですランディス様。あんなに小さかった貴方様が、今では私の数倍も年を取ってしまいましたね」
「なんで、貴様が……」
「ランディス様、私も貴方様と同じ転移者です。貴方様とは反対にこの世界から向こうの世界に転移しました」
「…………」
ランディスはイドラさんの言葉を黙って聞いてる
「私は、こっちの世界で、貴方様の組織に売られ、臓物を抜き取られ、死んだと思ったら向こうの世界に転移していたのです」
「なッ、では、私の食事に貴様の臓物が出されていたというのか!?」
「明確に言えば、まだです。今から十数年後にそうなります。私は、今より先の日本から向こうの世界に転移しましたので」
「そうか……くっくっぐははははは!」
イドラさんとのやり取りで、終始驚きの表情を浮かべていたランディスは狂ったかの様に笑いだす。
「何がそんなにおかしい!」
「魔王の右腕とも言われたあのイドラが、底辺の私に食べられていたんだぞ? これが笑えずにいられるかッ、ぐはははっはあはは」
「――ッ」
ゲラゲラと大笑いしているランディスを見て、悲痛な表情を浮かべるイドラさんが不憫でしょうがない。
段々とランディスに腹が立ってくる。
あのふざけたツラに一発ぶち込んでやらないと気が済まない。
そう思って、ランディスに近づこうとしたその時、俺の横を黒い影が通り過ぎる。
キーン!
「いきなり切り掛かってくるとは、礼儀がなってないじゃないか?」
「貴方みたいな悪人に礼儀なんてクソくらえです!」
紗奈が俺より先に動きだしていた。
「何だ、あれは?」
紗奈の武器である一対のアーミーナイフが、ランディスの両肩から伸びた赤黒い何かによって防がれている。
「ちッ、まだまだ!」
キン! キキン! キキキン! キキキキン!
紗奈は、自分の攻撃が防がれた事に若干の驚きを見せつつも、手を休める事無く追撃を繰り出す。手数を重ねる毎に、斬撃は、更に早く、鋭くランディスに襲い掛かるのだが、その全てをランディスの身体の至る所から出現している赤黒い何かによって防がれていく。
「小娘、貴様の臓物はさぞ美味だろうなぁ」
変態じみたセリフと共に舌なめずりをするランディスは、防戦一方から攻戦へと乗り出す。紗奈の攻撃を塞ぎつつ、大量の赤黒い何かが紗奈を襲う。
「ぐッ!!」
殺戮者随一のスピードスターである紗奈であっても、相手の手数が増えれば増える程対処しきれなくなり後退りしてしまう。
「紗奈、無理するな!」
「でもッ! アタシ、許せないんです! こんな、こんな人の命なんて何とも思わない、まるであの国王みたいなッ」
俺達を召喚し奴隷に落とした、オルフェン王国のデブ王の事を言っているのだろう。
俺達がもっとも憎んでいた相手だ。
「それは、俺も同じ気持ちだ! だから、後は俺に任せろ!」
「……わかりました」
バックステップとバク転を繰り返し戦線離脱、俺達のいる場所に戻ってきた紗奈は、若干悔しそうな顔をしているが、すぐに表情を崩し「後は、お願いいたします」と俺の手の平を無理やり自分に向けて、ハイタッチをする。
「おう、任せておけ」
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