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臓器密売組織をぶっ潰せ!②

誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。(21.4.22)

『海さん、そこら辺にトンネルみたいのない?』


 車内のスピーカーから聴こえる東城さんの声、タメ口ではあるが流石に年上の海さんに俺達の様な渾名はつけていない。


「うーん、見当たらないなぁ。もう少し先に進んでみるよ」と言って、海さんはゆっくりとアクセルを踏み、徐行運転で車を進める。


 俺達は海さんの運転で関越道を走ること数時間、東城さんが探し出してくれた臓器密売組織のアジトがあるだろう場所に到着した。


「本当にここであってるんですか? なんというか……」


 さすが、日本有数の米どころというべきか、俺達は四方八方水田に囲まれていた。太陽の光に照らされ更に青々しさが増す稲穂が天に向かって伸びているこの場所に血生臭い臓器密売組織のアジトかあるなんて信じられないほど、自然に溢れた長閑な場所だ。


「この風景、凄く懐かしいですね……。私が生まれ育った場所もここと同じように人が住む家より田んぼの方が多い場所でした。収穫の時期になると一面が黄金色に包まれて凄く奇麗なんですよ、ふふふ」とイドラさんはご機嫌だ。


「あッ! 海さん、あそこです。あそこに、トンネルっぽいのが」と海さんの隣に俺を座らせるのを断固拒否した助手席の紗奈が前方に向けて指をさす。そこには、車一台分が通れそうな幅の年季の入ったトンネルがあり、入り口には立入禁止のバリケードが設置されていた。


「いかにも、だね……恵美ちゃん、このトンネルでいいかな?」


 海さんは、スマホのカメラをトンネルの方へと向ける。


『うん、間違いない。そこが、敵さんの本拠地だよ! 中はどんな風になってるか分からないから気を付けるんだよ!』

「はい、ありがとうございます。後は、俺達に任せて東城さんは休んでいてください」

『でも……』

「でも……じゃないですよ恵美さん、ただでさえアタシのせいであまり寝れてないんだから」

『……わかった、はんぞう、さなぎ、君らだったら問題ないと思うけど……気を付けるんだよ』

「「はいッ!」」

「東城様、本当にありがとうございます……私のワガママのせいで……」

『べ、別にイドラさんのせいじゃないから! こんな奴らがのさばっていたら世のためにならないからだし!』

「ふふふ、それでもです」

『もう、分かったから、無事に戻ってきてよ? そいで、また、肉じゃがコロッケ作ってね』


 イドラさんの作ってくれたおかずの中で、一番人気のメニューだ。確かに、あれば美味い!


「まぁ……ふふふ、分かりました。約束しますわ」

『ん』と短い返事を残し、東城さんとの通信は途切れた。

「さぁて、ちゃっちゃと終わらせますか! 海さん、少し離れた所で待っていてくれますか?」

「そうだね。僕の仕事は君達を運ぶ事だからね、後の事は任せたよ」


 非戦闘員の海さんは俺達と一緒に行動はしない。だから、俺達を待っている間、やつらのアジトの近くにいたら何があるか分からないため、できるだけこの場から離れてもらう。


 俺達を乗せてきた車が見えなくなるくらい離れた事を確認した後、俺はトンネルに入るために、トンネルの前に設置してバリケードを横に動かし中へと進んで行った。



 トンネルの中は、夏の猛暑を物語るかのような燃え盛る太陽によって目を瞑る程の眩さで支配されている外とは真逆で、ただただ闇が広がっていた。というより、このトンネル反対側の出口がないのか、俺達が入ってきた入口とは違い光が全然差し込んでこない。だからなのか、余計トンネル内が暗く、息苦しく感じるのかもしれない。


 まぁ、俺と紗奈は夜目を鍛えているので、真っ暗でもまぁまぁ見えているのだが……「きゃッ」と先程から何度もイドラさんが道端に落ちている何かに躓き転びそうになっている。そんなイドラさんを見かねていた紗奈がイドラさんの手を引っ張り先導する。


「本当にこんな所に、って……」


 臓器密売組織のアジトなんてあるのかよ? という口から出かけた言葉を飲み込んだ。


 なぜならば、トンネルの壁にフォークとナイフを持った巨大なピエロの絵が描かれており、大きく開いたピエロの口元には鉄製の真っ赤な扉が備え付けられていた。


「いかにもって感じで怪しいですね」

「そうだな……てか、この絵……ビンゴだろ」


 壁に描かれている絵は、モニター越しで何度も見た組織のメンバーと思われる者達が着用していた服に描かれていたものと一緒だった。


 扉があるという事は、中に入れるのだろう。と、扉に近づくと、離れていた時は暗くて分からなかったが、丸い取手の様なものがついていた。扉を開けるために取手を引っ張ると重厚な鉄製の扉とは思えない程すんなり扉が開かれ、扉の向こうから生温い嫌な感じの空気が流れてくる。


 とたん、イドラさんが「うッ……」と辛そうな声を漏らし蹲る。

「どうしたんですか?」

「大丈夫ですか? イドラさん」

「す、みません。この中に残っている憎悪、恐怖、悲愴……沢山の負の感情が押し寄せてきて……」


 イドラさんは、ブルブルと身体を震わせながらも口元には笑顔を作っていた。


「そんな事が分かるんですか?」 

「はい、私の特技は【洗脳】とお伝えしておりましたが、実際は《《操作》》なのです」

「操作ですか?」

「はい。【洗脳】というのは、相手の精神を操作して相手を操る事ですので大まかに言えば操作なのです。そして、アーノルド様が仰っていた、私が魂の扱いに長けているという事も同じく、魂を操作する事に長けているという事です」


 操作って、何でもありじゃん。相手の身体を操ったりもできる、魔力操作だって――。

 俺の考えている事が分かったのか、イドラさんはニコッと笑みを浮かべ再び口を開く。


「私、魔力操作はできないのです。そもそも魔力自体持っていないので」

「持ってない?」


 おかしい、イドラさんはあっちの世界で数十年は過ごしている筈。しかも、魔大陸で。

 魔力の器が形成されるには十分過ぎる時間なのに……。


「恐らく、私のここに問題があるのだと思います」と、またもや俺の考えている事が筒抜けなのか、イドラさんは自身の鳩尾辺りに手の平をあて、言葉を続ける。

「私のこの両目もそうですが、元々の目とは明らかに違う……偽りの物です。あ、ちゃんと見えていますよ?」

「はぁ……」

「ふふふ。恐らく、私の体内の臓器は全て抜き取られているため、腹を開けてみないと分かりませんが、おそらくこの中にある臓器はこの目と同じく紛い物という可能性が高いです。そもそも魔力の器は、身体のあらゆる器官の繋がりによって形成されるものですので、紛い物の身体である私には形成されないのです」


 ただ、単にあっちの世界で過ごしていれば普通に魔力の器が形成されると思っていたけど……色々と複雑なメカニズムがあるんだなぁ。


「自分の身体の事を紛い物って言ったらダメですよ」と紗奈がイドラさんを諭すように強めの口調で言い放つと、紗奈の言動に驚いたのかイドラさんの翡翠色の双眸が若干ではあるが開かれる。


「昔はどうか分かりませんが、今のイドラさんの身体はイドラさんのモノなのです。アタシ、イドラさんの目、宝石みたいに綺麗で好きですよ?」


 恐らく紗奈は、今の自分とイドラさんを重ねているのだろう。

 紗奈自身、元を辿れば魂以外は全部他人の身体なのだから。

 そんな紗奈の事情を知っているイドラさんは「紗奈様は、その身体が嫌じゃないですか?」と問うと、紗奈はよく聞いてくれましたと言わんばかりの表情を作る。


「全然嫌じゃないですよ? この身体の持ち主さんのおかげで好きな時にお腹いっぱい美味しい物が食べられるし、学校にも行けて友達もできました。大切な人達も……何より、サクの隣にこうして寄り添っていられる。それにアタシ、この身体を譲り受けた時に決めていた事があるんです。この子の分まで二倍人生を楽しむって。この子の魂は無くなったとしても、この身体はアタシと共に生きていますので……それがアタシに身体を預けてくれたこの子へのせめてもの恩返しです」


 紗奈の濁りのない真っ直ぐな目を向けられたイドラさんは、目を瞑り、両手を重ね自分の胸にそっと近づける。そして、口元を綻ばせ、「そうですね、私が間違っていました。この子達は私の一部なのに……ありがとうございます紗奈様。紗奈様のおかげで私は、私の事を好きになれそうです……」と、微笑むイドラさん。初めてイドラさんの本当の笑顔に出会って気がする。


「ん? なんだ? 誰だお前ら」


 感動を台無しにする、汚いしゃがれた声が俺達に向けられる。


「運び屋か? 素材の受け渡しは明日って聞いていたけどな」

「へぇ~二人とも良い女じゃねぇか」

「おい、おかしくねぇか? 素材なら気絶させて布袋に入れられている筈だろ」

「ほんとだー普通に起きてるし。ウケる~~」


 複数の声を伴って、ぞろぞろと俺達の周りを黒い集団が集まってくる。

 その背にピエロを伴って。



いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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