ユーは何しに日本へ?
誤字修正しました、ご指摘ありがとうございます。(21.3.22)
誤字修正しました、ご指摘ありがとうございます。(21.7.5)
「よっしゃああああ!」
アドレナリンムァックスだぜえええ!
俺は右拳を天に突き、腹の底から声を絞り出す。
「咲太!」
未だ興奮が冷めずハイテンションな俺の傍に真紀達が駆け寄ってくる。
「やりましたね!」
「おうよ! 弟子は師を超えていくものだぜ!」
「あはは。それはそうと、テンションたけーな!」
「おう! アドレナリン出っぱなしで、体中から漏れるくらい……って、やべぇ、魔力が駄々洩れだ!」
やべぇ、このままだとまたぶっ倒れる!
どうするんだっけ!えーっと、気持ちを落ち着かせて――――――って落ち着けるかああああ!
全然とまらねぇ、どうすんだこれ。
駄々洩れになっている魔力を抑えきれず慌てふためていると
「吸ってええええええええええ!」
「えッ!?」
いきなりの怒鳴り声に、びくっとする。
隊長だ。俺にぶっ飛ばされた隊長はダメージが残っているのか、尻餅をついたままで叫んでいる。
「聞いてるのかあああ、息を深く吸って呼吸を整えるのじゃああ! このままだと死ぬぞ!?」
魔力を扱えるものにとって、魔力は生命の源。それが枯渇するのは死と同意義だ。それを理解しているため、隊長の死ぬという言葉は、俺を冷静にさせるためには十分すぎた。
「吸ってええええええええええ!」
「すううううううううううううう」
「吐いてええええええええええ!」
「ふううううううううううううう」
「吸ってええええええええええ!」
「すううううううううううううう」
「吐いてええええええええええ!」
「ふううううううううううううう」
「吸って――――――」
隊長の指示通り幾度かの深呼吸を繰り返す。
そのお陰か、先ほどまで荒かった俺の息も段々と整ってきた。
「次にやる事は分かるな?」
「はい! ありがとうございます。後は自分で」
体外に駄々洩れになっている魔力を体内に戻し、全身に巡回させる。
まずは、魔力を戻す。身体の毛穴から出てきた汗を体内に戻すような感じだとワタルが教えてくれた。
ありえない現象だが、想像はしやすい。
魔力を毛穴に戻す
魔力を毛穴に戻す
魔力を毛穴に戻す
魔力を…………よし、魔力が戻ってきた。そのせいか、両腕の色が黒から元の肌色に戻る。
後は……体内に戻った魔力を血の巡りに乗せる感じだったな。
――まずは、身体の血の巡りを感じるんだ。
体内中にある血管という環状線を赤血球という暴走族がブォンブォンしてる感じだ。
――よし、三段シートに乗った! 比喩ではあるが赤血球に俺の魔力が乗って暴走行為を繰り広げている感じがする。よし、これならぶっ倒れる事もないだろう。
「まったく、バカもんが! 魔力操作もままならぬ内にそんなバカげた魔法を使いよって!」
「心配してくれるんですか?」
「あったりまえじゃろおおがああ! このバカ弟子が! 魔法を甘く見るんじゃねええ! 下手したら命を落としておったのじゃぞ!」
バカ弟子ってかぁ、なんかいいなこんなの。
「聞いておるのか! こんのぉ」
「聞いてます、バカ弟子って言われなんか照れくさくて、なんかいいっすねこんなの」
「ふん! バカな事いっとらんで、そっちに集中しろ!」
隊長は顔を赤くし、顔をそむける。
じじぃのデレなんていらないんですけど……。とツッコミ所満載だが、別に悪いことでもないので、俺は魔力を抑える事に集中する。
◇
「落ち着いたようじゃの?」
「はい、おかげ様でなんとか」
隊長がいなかったら、本気でやばかったかもしれない。
「それにしても、おぬしいつから魔法なんて使える様になったのじゃ? 以前にも言った通り、お主ら異世界人が魔法を使える様になるには十年以上の歳月が掛かるはずなのじゃが……」
そうだ、俺はそれで大分落ち込んだ。
だけど、俺は戦場であり得ないくらいの魔法をこの身に受けた。それを、隊長に伝えると。
「敵の魔法を喰らい過ぎて器が開花したじゃと? くっくっくっぐははははははははははは、何と馬鹿げた奴なんじゃ! ぐははははははは」
「バカげたって……」
「相も変わらず面白い男じゃの貴様は。そんな貴様じゃったからワシはお前を見る事にしたのじゃが……まさか、このワシがコレで負けるとは……じゃが、悔しい気持ちは不思議と沸かない……むしろ嬉しいくらいじゃ。師匠冥利につきるとはまさにこういう事なんじゃろうな」
「ったく……やめてください。もし俺が魔法を使えると分かってたら隊長が「師匠じゃ!」たい「師匠じゃて!」……し、師匠が簡単に後れを取る事はなかったでしょうに」
俺は師匠と呼ぶや否やめっちゃいい顔してるし。
「負けは負けじゃ。戦場では“もし”もクソもない」
まったく隊長らしいが、
それについて俺も同意見だ。どんな理由があっても、戦場で負け=死だからな。
「それで、た、師匠は何しに日本に?」
「うむ。見てもらった方が早いのぅ」
そういって、師匠は、ふん!と気合をいれ……上半身に纏ったチュニックを破り捨てる。
「ちょ、何してんすか! じじぃの裸なんて見たく、イテっ!」
脳天に刺激が……、魔力のせいで身体に疲労が溜まっていたのか全然反応ができず、師匠の二つ名の故である鉄拳が俺の頭上に着弾し、遅れて「誰がじじぃじゃああ!」という師匠の怒鳴り声が俺の耳に突き刺さる。師匠のバカでかい声で鼓膜が破れないのは、俺は鼓膜まで鍛えられてるのか……。
「バカ弟子が、誰がワシの裸を見ろと言ったのじゃ! ほら、これじゃ!」
そう言って師匠は、俺に背中を見せる。
「――っえ? それって……」
師匠の背には俺にとって忌々しい物が刻まれていた。
「咲太、何なんだあれは?」
気を利かせてか、俺と師匠のやりとりを見守っていた真紀がたまらず口を挟む。
「奴隷紋だ」
「なんだって? 奴隷紋?」
「あぁ、間違いない。俺達に刻まれているものより遥かにデカいが、間違いなく奴隷紋だよあれは」
俺達に刻まれていた奴隷紋は肩に収まるくらいだったが、師匠のは背中いっぱいに刻まれている。
「咲太の言う通りじゃ」
「【イドラ】ですか? 奴に刻まれたんですか?」
ゆるせねぇ……いくら師匠がオルフェン王国から捕虜だからといって!
「いんや、【イドラ】は魔法が使えない」
魔法が使えない?
異世界人なのに?
「では? それは……」
「これを施したのは、魔王アーノルド・ルートリンゲンじゃ」
「な、なんで? なんで魔王様が?」
「それはワシも分からんが、おそらく【イドラ】のユニークスキルのせいじゃろう」
「何なんですか?【イドラ】のユニークスキルとは?」
「それをワシの口から漏らすのはコレの禁則事項に反する、言えないのじゃ」
奴隷紋の制約ってやつか。
俺達の施されていた奴隷紋は、禁則事項に反した場合は全身が千切れる様な痛みを伴った。だが、師匠の奴隷紋は俺達の何倍もデカい。禁則事項に触れる内容は口にもできないのかもしれない。
「そうですか……」
「そんな顔をするな、別にこの奴隷紋のせいで不自由してるわけではない。この世界に連れてこられて、【イドラ】の護衛という役割を課せられている以外は、基本自由にしてもらっておる」
「それなら、いいですが……」
「咲太。ワシが以前貴様に言った事、覚えておるか?」
師匠は基本拳で語ってくる。だけど、言葉で俺に語った事、それは。
「人殺しに慣れるな、ですよね? 慣れそうになったところギリギリこの世界に戻って来れたので、何とか……」
師匠は、こくりと頷く。
「ワシはのぉ、人生の大半を戦場で過ごした。この拳で数えきれない程の敵を殺してきた。ワシは人殺しに慣れてしまった。この拳で敵の肉や骨を潰す感触が抜けないくらい……じゃ。ワシの拳は血を求めておる。正直、成長した貴様らと戦場を駆け巡る日をワシはほんに楽しみにしていたのじゃ。こんなの異常じゃとワシも分かっておるが人の習慣ほど怖いものはないのじゃ……貴様はこんなワシの様にはなるなよサクタ」
「はい、肝に銘じます。そんな顔しないで下さい、そうだ! 今回の件が終わったら、オリビアさんの所に行きましょう! 奴隷紋は魔王様に消してもらいます、俺は魔王様と仲良しなんですよ?」
「がははは、そうか、魔王とな……じゃが、ワシのこの手は……血に染まって……」
「大丈夫ですよ。隊長なら乗り越えられるはずです!」
「そうか、乗り越えるか……そうじゃのう! 弱音を吐くなんてワシらしくもない!」
「その意気です!」
「がはははっはは、今日は全くもっていい日じゃ、弟子が師を超え、弟子に諭されるとはのぅ!」
師匠の笑いにつられてか、俺達の口元も自然と緩んだ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。