嫌な予感
久しぶりの投稿です;;
田宮宅を後にしてすぐに、ずっと切りっぱなしだったスマホの電源を入れる。
あっちの世界にスマホを持って行ってもしょうがないので、田宮宅に置いてもらっていたのだ。おかげで充電はフルマックスだ。
スマホを起動し、しばらく経つと不在着信やコミュニケーションアプリであるFINEのメッセージ通知、アプリの更新などでスマホからの通知音が鳴り響き、俺はその鳴り止まない無機質な音に狼狽えてしまう。
「はは……凄いな。たった、数週間電源を入れてなかっただけなのに」
現代社会に生きると言うことは、こういうことなんだろうと変にしみじみ思ってしまう。
俺があっちの世界に行っているとは知らない、友人達からの心配メールも沢山きていて、俺も捨てたものじゃないな~と、胸がほっこりした。
「さて、まずは……」俺は連絡帳から紗奈の電話番号を検索する。
母ちゃんより先に紗奈にただいまの連絡をしようとしている俺をどうか責めないで欲しい、今回の旅で俺の中での紗奈の存在がいかに大きいのかを思い知ったのだ。特にララ達との絡みで……ごほん、ともかく今は紗奈の声が聴きたい! そんな俺を母ちゃんも許してくれるだろう、多分だけど!
ディスプレイに紗奈の電話番号を出し、通話ボタンを押す。心なしかボタンをおそ俺の親指に力が籠る。
プルルル~プルルル~プルルル~…………ガチャッ
「あっ、紗奈! ただい『お掛けになった電話は電波の届かない所におられるか電源が入っていいないため繋がりません――』」
あれ? 出ない。
「そういえば、予備校に通うって言ってたし、授業中で電源を切ってるかもだな」
現時刻は夏休みでも平日の午前十一時。紗奈は予備校で勉強に勤しんでいるだろうと思い、俺はFINEで簡単にメッセージを残す。もうすぐお昼時間だし、メッセージに気づいて連絡してくれるだろう。
次にパート中であろう母ちゃんに帰還メッセージを送りスマホをポケットにしまった。
俺があっちの世界に行ってた数週間、この世界で何が起こっていたのか気になるが、歩きスマホをする訳にもいかないので、それは後でゆっくり確認しよう。
田宮宅から歩みを進める事二十分少々、俺は市ヶ谷に来ていた。
市ヶ谷、俺の職場である防衛省がある場所だ。
田宮宅からそんなに離れていないし、今回、あっちの世界に行っていたのは長期出張扱いとされているため、課長である美也子さんに報告の義務がある。
まぁ、紗奈からの連絡があるまでの時間潰しにもなるしね。そんな事を考えて防衛省の門を潜ろうとしたその時ーー。
「あれ? 咲太じゃん!」
「ホントだ! お帰りなさい、咲太さん!」
背後から聴こえる親しみのこもった明るい声に俺はすぐさま反応する。
黒いスーツをラフに着こなし、短く切り揃えた黒い髪は清潔感が漂う青年。青年の名前は、川島真紀。そして、その隣に真紀とは正反対に黒いスーツをキチンと着こなしたポニーテールの少女が立っている。少女の名前は川島早紀。二人とも何処と無く似ているのは二人が双子ある所以だろう。
真紀と早紀は、俺の一つ上で六課の先輩だ。
俺の方が後輩であり、年下ではあるが、真紀が年も一つしか変わらないし、堅苦しいのが嫌だと言って、呼び捨てあう仲である。
そんな感じなので自ずと早紀とも気軽な付き合いをしている。まぁ、早紀は俺に対して、というよりは誰に対しても敬語だけどね。
「久しぶりだな2人とも! 今戻ったぜ!」
「おうよ! 無事で何よりだな。まぁ、お前の事だ、ケロッとして戻ってくると思ってたよ!」
「あぁ、この通りピンピンしてるぜ?」
「ふふふ。兄さんはこう言ってますが、本当は咲太さんの事を凄く心配していたんですよ? あいつ元気かなぁ、魔王に殺されてねぇよなって、耳がタコになるくらい聞きましたから」
「おまっ、早紀! 余計な事言うなよ!」
真紀は顔を真っ赤にして声を荒げる。
真紀は、少しやんちゃで無鉄砲な所があるが、何よりも仲間を大事に想ってくれているのだが、必死にその事を隠そうとしている。
まぁ、みんな知ってるんだけどね。そんな素直な一面を悟られると、恥ずかしいのか顔を真っ赤にして目を合わせようとしない。丁度今そんな感じだ。
「あはは、そうか! 心配してくれてありがとうな!」
俺はそんな真紀の背中をパンパンと叩く。
「そんなんじゃねぇってばッ! いて、てか、いてぇから! この馬鹿力がッ!」
恥ずかしい、痛いと忙しい真紀を余所に、俺と早紀は笑い声を上げた。
一頻り笑った後、俺は真紀と早紀が持っている袋に気づく。
彼らが持っているのは、某大手ハンバーガーチェーンの袋だ。しかも二人とも両手いっぱい持っている。この量を見る限り、今日は全員集合しているのだろうか? 普段であれば、何かない限り昼のこの時間帯に課のみんなが集まるの事はあまりない。
俺は二人が持っている袋を指差し、「珍しいな、みんなで集まってるのか?」と聞くと、瞬間、二人の表情が曇ったような気がしたが、もしや紗奈も一緒にいるのでは?と俺は、続けて、「もしかして、紗奈も一緒か? スマホの電源切ってるらしく電話が繋がらないんだ。FINEも未読のままだし」と二人に訊ねる。
「あのな、咲太」
「兄さん、ここでは」
「おいおい、どうしたんだ? そんな真顔で……」
真紀は、俺に向けていた目線を切る。こんな真剣な顔の真紀は俺の記憶では今まで見た事がない……。
「取り合えず中に入りましょ。話はそれからです」
俺の胸の中は嫌な予感でいっぱいだったのだが、素直に早紀の言葉に従いその場を後にした。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
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