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帰ってきた男(再)

誤字脱字修正しました(21.1.24)

 これで何度目だろう、この空間を通るのは。


 真っ暗で何もない空間。


 ただ、聴こえてくるのは俺が空気を吸って吐いてを繰り返している音。

 いつもは気にならない音が、静寂に包まれている所為か、やけにうるさく聴こえる。


「………」 


 ワタルを呼ぼうと声を上げるが……俺は声を発する事ができない。瞬時にこの場所がそういう場所であると理解させられ、口を紡ぐ。


 思えば、この空間でこんなに意識がハッキリしているのは初めた。


 過去三回とも、俺は渦にのまれ気づいたら既に渦から抜けていた。それも、もの凄い倦怠感と吐き気を伴って。それをワタルは魔力酔いと言っていた。


 流石にあれはきつい……この身体は状態異常に掛かりにくい、その所為か余計身体に堪える。元々魔力酔いは、あっちの世界では魔法に免疫がない、魔力の器が形成されていない子供がよく掛かるらしい。


 つまり壊れているとは言え魔力の器を持つ俺はどうだろう。セーフなのではないのだろうか? まぁ、この空間を抜けたら分かる事だろう……。もし、ダメなら、またワタルに魔法をかけてもらえればいい。


 だけど、もし、俺が魔力酔いにならなかったとしら、俺は一つの成長を感じる事が出来るだろう。かっこよく、「何とかキャノン!」みたいに魔法を飛ばす事が出来たのならもっと実感があったであろう。

 だが、俺の魔法は、現状この右手に纏うだけ。それでも凄い進歩だとは思う。レレ達に魔法だと言われ、メチャメチャ嬉しくて浮かれはしたのだが……冷静になってみると実感が沸かないのだ。


 ただ、この渦を抜けて。魔力酔いに掛からなかったら……俺は俺の新しい力を信じる事が出来る。


 あ、そろそろだな。

 この空間に何か変化がある訳じゃない。変わらず真っ暗で、何も聴こえない。

 ただ、何となく分かるのだ、目的地がすぐそこだという事が。

 

 俺はゆっくりと目を閉じた。



 これで何度目だろう、この場所にいるのは。

 閑静な住宅街の中にある、何の変哲もない一軒家。そう、ワタル、いや、田宮の家だ。


 俺達は、戻ってきた。


「どうだい? 見たところ魔力酔いはなさそうだけど」


 確かに、若干の倦怠感はあるけど吐き気は嘘の様になかった。


「はは、俺、本当に魔法が使える様になったんだな……」

「ふふふ、良かったね。あと、ちゃんと僕が教えた魔力操作の訓練、毎日欠かさずやるんだよ?」


 魔力の器が形成されたばかり者達の為に、元ユーヘミア王国魔の将軍であるワタルのばあちゃんが考案したものらしい。これもユーヘミア王国が大陸随一の魔法国家の礎となっている。


「あぁ、分かった。色々と世話になったな」


 ワタルがいなかったら、もっと大変な旅になっていただろう。

 そもそも、ワタルがいなかったら、俺はあっちの世界に戻る事も出来なかった。


「ふふふ。何を言っているんだい? 世話になったのは僕の方だよ。おかげでシエラに逢えた。シエラの危機を防ぐ事ができた。そして、僕に希望もできた」


 ワタルの希望。それは、元の身体に戻れる事を言っているのだろう。

 田宮との生活は、ワタルにとっても別に悪い事ではないと言っていたが、やはり、愛する人と一緒に人生を歩みたいというのが本心だろう。


「分かった、一日も早く【イドラ】をとっ捕まえてくるから待っていてくれ!」

「だけど、本当にいいのかい? 僕が一緒に行かなくても」


【イドラ】捕縛は、俺だけで行く事にした。これ以上、田宮の貴重な夏休みを奪うのに気が引けるからだ。


「あぁ、俺には紗奈もいるし、何とかなるだろう。もし、やばかったら連絡するよ」

「ふふふ、分かったよ。じゃあ、僕はそろそろ文人とバトンタッチをする事にするよ。またね咲太」

「あぁ、またな」


 ワタルは、優しく微笑み、そして両目をゆっくりと閉じる。


「あっ、咲太さん。お疲れ様です」


 同じ顔、同じ声。

 だけど、雰囲気が全くと言って良いほど違う。


「田宮。すまなかったな、せっかくの亜希子ちゃんとの貴重な夏休みを……」

「そ、そ、そんな! 中野さんとはそんな仲じゃないですし!」

「おいおい、そうじゃなくても、この夏休みでそんな仲になる筈だったろうに」

「えっと、それは、そうなったらいいなぁとは思っていたんですけど……」


 田宮は顔を真っ赤にしてめっちゃクネクネしていた。俺がやったら半径十メートル以内に誰もいなくなるだろう、美少年の田宮だから許される行為だ。


「お前の時間を奪ってしまった俺が言うのもなんだけど、残りの夏休み頑張ってくれ! 俺も紗奈も応援してるからな」

「は、はい! 頑張ります!」

「それは、さておき。今までの事は?」

「ワタルの中から見ていました」

「じゃあ、ワタルが元の身体に戻れるという事も?」

 田宮はコクリと頷き、「分かるんです、一番ワタルが望んでいる事が」と答える。


「そうか」


「ワタルと出会って、僕の人生は180度変わりました。そもそも、ワタルがいなかったら愚かだった僕は自ら命を絶っていたと思います。ワタルは親友だと思うし、ずっと一緒にいられたらいいなぁと思いますが……やっぱり、一番はワタルが幸せになってくれる事だと思います。シエラさんと一緒だった時のワタルの心がダイレクトに伝わってきたのです……ワタルには幸せになってほしいです、だから、咲太さん。【イドラ】の事よろしく頼みます」

「あぁ、任せておけ! ソッコーでとっ捕まえてきてやる!」

「はいッ!」

「じゃあ、そろそろ帰るわ!」

「はい、連絡まってます!」


 長い様で、短かった旅に一区切りをつけて、

 俺は田宮の家を後にした。 

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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