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一時の別れ

新章突入です。

内容を若干足しました。(21.1.21)

「さて、準備はいいかい?」


 そう俺に伺いをたてるワタルに、「ちょ、そんなに急かすなよ」と、苦笑いを浮かべる。


 俺達は、地獄城の最上階。魔王の謁見の間に備え付けられているバルコニーにいた。

 結構な高さがあるバルコニーから見えるバンカーサイトは、この街の特徴であるマリーンブルーの屋根が広がっており、この街に入った時と同じく、海の上にいると勘違いしてしまう程圧巻だった。


 昨晩魔王との会談の後、俺達は直ぐに日本に戻る事にした。

 この一連の黒幕と思われる【イドラ】を取っ捕まえに、だ。

 

「うぅっ……ミーの事、忘れないでね!」


 ララが両目に涙を溜めていた。


「おいおい、泣くなよ。今生の別れでも無いんだしさ」


 イドラを捕まえたらすぐに戻ってくるのだから、別れに涙するのはその時でも遅くない。

 それにしても、短い期間だったが、レウィの件をはじめララには本当に世話になった。

 もし、ララが居なかったらこんなにスムーズに事を運ぶ事は出来なかっただろう。


「ララ。本当に世話になったな。ララが居なかったら凄く苦労したと思う。本当にありがとう」


 だから、俺は素直にララに対して感謝を伝える。


「いいんだよぉ、ユー達とミーは友達じゃないかぁ」

「うん! そうだな、友達だ!」

「うええん、ザグダぁぁ」


 俺の胸に飛込む、ララ。

 最強の夫を持つ人妻……しかも、その夫は俺の目の前にいる。

 俺の両手は行き場を失い、宙を仰ぐのだが……あ、魔王と目があった……気まずい、うん? 何か魔王がめっちゃいい顔で頷いてる。いっちゃっていいってことね? 

 俺は勝手にそう解釈し、宙ぶらりんになっていた両腕をそぉっとララの背中に向けて回した。


 そんな俺とララのやり取りを、その場にいた、魔王をはじめ、レレ、リリが温かい表情で見守っていてくれていた。


 抱擁が終わり、次はレウィの番だ。

 レウィは、リリの元で魔法の修行をする事になった。

 魔法の器が形成されたばかりのレウィにとって、基礎訓練をしっかりしないと折角の巨大な魔力が台無しになると、リリが自ら手を上げた。

 さすがにレウィを日本に連れていく訳にもいけないし、魔大陸に戻る決心をしたレウィなのだから、願ってもないチャンスだろう。

 レウィは、何度も俺達に頭を下げ、ありがとうを連呼していた。

 この子に出逢えて本当に良かった。こんな良い娘が、あの変態男爵のコレクションになっていたらと想像するだけで……いや、止めておこう。


「サクタ、いくよ!」


 ワタルが焦っている。

 あの冷静沈着な、いつもクールな……同じ意味だが、そのワタルが、だ。

 それには理由がある。


 魔王とは、本当に規格外な存在だ。

 この魔王、ワタルが魂のままさ迷っている事を知っていたため、とある事を企てていた。

 “ワタルを生き返らせようとしたのだ”

 実際、ワタルの死体を手に入れ、あの変態男爵も使っていた薬品で保存していたのだ。

 今朝、良いものを見せてくれると言って、それを見た時は俺もワタルも顎が外れるくらいに驚いたのだ。

 身体に多少傷は残っていたものの、生前のワタルがまるで眠っているかの様に筒状のガラスの管に入っていたからだ。

 俺達は魔王から理由を聞くまであの男爵と同じ趣向の持ち主だと思い、ドン引きしていた。


 魔王曰く、

「ワタルの体内の魔法の器はまだ綺麗に残っていた。この世界に生を成す全ての生物は魔法の器が形成されてからは、それ自体がその者の寿命となるのだ。ワタル程の魔力の持ち主であれば、その魔力を使って魂を再び身体に戻す事が出来ると考えて、これを持ち出した。我が友の宝を見す見す死なせたくなかったのでな」との事だ。何か前に三上も同じ様な事を言っていたな……。


 つまり、ワタルはワタルとしての生を取り戻せると言うことだ。

 ただ、魂の扱いについては魔王もリリと共に研究をしているが、その筋は『イドラ』の十八番らしく、俺達には『イドラ』を捕まえるもう一つの目的ができた。

 これが、ワタルの焦っている理由だ。

 元の身体に戻れるなら、シエラさんの元へと帰れるからな。

 

 そして、俺は魔王にもう一つお願いをした。

 それは、片瀬達、ベルガンディ聖国の勇者達を元の世界に帰還させて欲しいと言う事だ。彼らもそろそろイトに到着している頃だろう。


 魔王は、快く了承してくれた。実にいい人である。誰だ、一戦交えるかもとか言ってひびってたやつは! はい、俺です……。


「じゃあ、いくか?」


 俺のゴーサインに、ワタルはすぐさまぶつぶつと詠唱を唱える。

 すると、あの忌々しい渦が俺の目の前に現れる。

 

「じゃあ、『イドラ』を直ぐに捕まえて戻ってきます!」


 そう宣言する俺に、魔王は優しい笑みを浮かべ頷く。

 魔王だけじゃない。ララ、リリ、レレ、そしてレウィ。

 俺は、彼らに背中を押されるように、勢いよく渦へと飛び込んだ。

いつも読んで頂きありがとうございます。

次の話から、舞台は日本に戻ります。

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