100点満点といえるだろう
新年あけましておめでとうございます。
今年も何卒よろしくお願い申し上げます。
色々驚きっぱなしではあったが、ひとまずその日の会談を終えた俺とワタルは、今日を終える前に今後の話をするため俺の部屋へと場所を移した。
「いや~魔王と一戦交える事なく、話し合いで済んでよかったよ」
「ふふふ。確かに一番いい形で終えれて良かったと思うよ」
俺とワタルはお互い右手を上げ、ハイタッチを交わす。
魔王と会う前に話していた、戦わずして話し合いだけで済んだら百点満点。
一応条件付きではあるが、それを達成できた事に安堵したのか、俺とワタルの口元が綻びる。
「話が通じる人で良かった、実際やり合っても勝てる気がしなかったからな」
俺の弱気発言に、ワタルもうんうんと首を縦に振る。
それもそのはず、拳を交えた訳でもなく、ただ対面しただけで魔王がどれほどに出鱈目な存在か判らされた。あれは、逆立ちしても勝てない相手だ。
「それにしても、イドラ、か……」
イドラ。魔王の相談役にして前魔王の右腕だった者。
最強魔王のおしめを変えた事がある位、魔王が信頼における存在。
魔王の話では、イドラのメンタルケアによって魔王は“幸”を思い出した。そして、イドラが日本に転移してからは、“幸”という存在に疑問を持ち始めている。
「ただの偶然じゃあないよな?」
「そうだね。魔王様の話を聞く限りではイドラという人物が今回の件の黒幕という線が濃厚だろうね」
「こうやって部屋で悩んでてもしょうがない、とっとと戻ってイドラってやつをとっ捕まえるぞ!」
難しく考えるの嫌いだ。捕まえて本人口から直接聞けばいい。
「ふふふ。その意気だよ咲太、バンカーサイドについてからの君は、無い頭を絞って必死になっていた感じがしたんだ。君らしくもなく」
「おま、無い頭ってなんだよ! 俺だって考える位するっつーの!」
だが、失礼な奴だ……とは思わない。
こいつは、俺をよく見てくれている。俺が、魔王の影にビビって色々考え込んでいた事を言っているのだろう。
ワタルなりの俺を心配してくれていたんだろう。
「いやいや、猪突猛進も困るけど、考えるより先に行動してくれた方が君らしいよ」
「その結果、船長さんに怒られてもか?」
ハーヴェストからイトに向かう航海中に、退屈のあまり泳いでイトまで行こうとした俺は、船長並びに船員の人達にめっちゃ怒られたし、ワタルも凄く不機嫌になった。
「君はね……もう、子供じゃないんだから、常識ある行動をするべきだよ! あんなに恥を掻いたのは生まれ初めてだったんだからね! そもそも君はね――」
あ、やべ。地雷ふんじゃった……。
その後、小一時間程ワタルから説教を喰らい、その日を終えた。
◇
――場所は移り変わって、六課事務室。
「さなぎ、これじゃない?」
くりくりと少し癖のある栗色の頭に装着している、重厚感のあるワイヤレスヘッドフォンの片方をずらす少女。オレンジ色のブカブカなオーバーオールを着こなしてはいるが、その明るい色とは正反対に少女の不健康そうな顔は明らかに寝不足言えるほど濃いクマが両目の下にできていた。
彼女は、東城恵美。咲太が所属している六課のIT担当だ。
口癖になる程めんどくさがり屋の恵美にさなぎと呼ばれている少女は、「見つけたのですか? さっすが恵美さん!」とモニターの前でぐで~っと突っ伏している恵美の元へと近づく。
薄茶色を基調とした制服に身を包んだ黒髪の美少女。元【殺戮者】で、最速を誇った咲太大好き少女、室木紗奈だ。
ふんわりとした黒髪は、作太と再会した時よりも伸び、それを六課課長で紗奈の保護者である美也子の趣味によってサイドアップにされていた。
夏休み中の紗奈は、親友でワタルの身体の持ち主である田宮文人の思い人である中野亜希子と夏期講習に殆どの時間を費やし、余った時間で、ホスト零夜に力を与えたという【イドラ】について恵美に協力してもらい調査をしていたのだ。
【イドラ】人の望む力を与えてくれるというが……。
紗奈は、恵美のモニターを覗き込む。
そこには、赤いローブを纏った老婆がポツンと座っていた。
老婆の前には赤い布を被せた四角い簡易テーブル、その上にはメロン大のガラスの水晶。
事情聴取の際に零夜から聞いた占いの老婆の外見そのものだった。
「それで? ここどこですか?」
「銀座の中央通り、梅屋デパートの前あたり」
恵美は突っ伏したまま答える。
「ありがとうございます! 鈴さん、美也子さんには銀座に行ってると伝えてください。行ってきます!」
美也子は、現在、定例会議中のため事務室にはいない。
そして、車両担当の神田川は、駐車場で車両のメンテ、行動部隊である玄と真紀は訓練場で訓練、早紀は大学に行っている。
恵美は、既に寝息を立てているため、実質言伝を頼めるのは、事務室内の掃除中であった身の回り担当の鈴しかいないのだ。
「はい……お気をつけて……」
相変わらずの無機質ボイスに紗奈は頷き、勢いよく事務室を出た。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!