会談(中)
水曜日に更新する予定が今日になってしまいました……すみません。
誤字修正しました(20.12.25、12.29)
「えっ?」
魔王の執務室の扉が開かれると同時に俺の口から間抜けな声が漏れる。
傍から見たら、俺は非常にアホな表情をしているであろうと容易に予想できる。
チラッと、ワタルを見るとアホな表情はしていないが、目を見開き、言葉を失っていた。
――目の前に森が広がっていた。
うん? 何言ってんの? と思われるかもしれない。
地獄城の最上階に位置する、それも魔王の執務室だ。
それが、青々と茂っている木や花々に囲まれ、川まで流れている始末。
しかも、そこら中に鳥や鹿などの様々種類の動物達が戯れている。
驚くなと言う方が無理だろう。
「さぁ、二人ともこっちに来るが良い」
右手でおいでおいでをしながら部屋の入口で佇んでいる俺達を呼ぶ魔王は、部屋の中心であろう場所で腰ほどの高さのある切り株に腰を掛けていた。
俺達は、一度目を合わせ、頷き、魔王の元へと足を進める。
この部屋には、テーブルもソファーも机も絵やツボの様な調度品も何もない。
まさに自然そのものだ。
「さぁ、好きなのに座ると良い」
好きなのと言うのは、そこら中に生えている切り株の事だろう。
大きさが均一ではなく、様々な大きさだ。
「失礼します」と、俺達は言われた通り、魔王の座っている切り株の半分位の大きさの切り株に座る。
「改めて良く来たな、殺戮者。そして、我が友カケルの孫よ」
魔王はそう言って友好的な表情を向ける。
何で俺達の身の内を? ララにでも聞いたのか?
「……俺達の事、ララに聞いたのですか?」
「そう警戒するな、確かにララディアから聞いてはいたが、それ以前から貴殿らの事は知っていた」
「それ以前?」
「うむ。咲太、貴殿が処刑台に上がっていた時、我はその場にいた」
「な、なぜ?」
うん? 見ていたって、なんだ?
「我が友、カケルに頼まれていたのだ」
「祖父が?」
カケルさんの名前が出たからか、ワタルが過敏に反応すると、魔王はワタルに向けてゆっくり頷き、再度その口を開く。
「己の様な境遇の者が現れた際は、即刻命を絶ち、助けて上げて欲しいとな」
「そうですか、僕も祖父に同じことを言われました」
ワタルもカケルさんが亡くなる寸前に同じお願いをされていると聞いている。
だから、戦場にでて積極的に俺達と交戦したのだ。
「我も、戦が始まって早々にカケルの願いを叶えるため動きたかったのだが、思いもよらぬ事態に陥ってな、動き出した時には時すでに遅し、貴殿らが降伏した所だったのだ。それから、我は処刑会場に赴いた。この手で我が友の願いを叶える事が出来なかったのだ、ならば、せめて、最期まで見届けようとな」
「祖父の事をそこまで……」
「うむ。カケルはどう思っているか分からないが、我にとってカケルは親友だ。それは間違いない」
かっこいいな……拳一つで語りあった二人が、種族の壁を越えてこれ程の仲になるなんて。そんな唯一無二の関係がかっこいいし、羨ましい。
「話を戻そう。咲太が処刑される時、我はアレに遭遇した」
「……黒い渦、の事ですか?」
「うむ。そして、咲太は渦に吸い込まれた。周りを漂っていた、行き場を失った魂達と共にな。そこのワタルもそうだ」
紗奈もその一人だ。
「ワタルから聞きました、魂が見えるんですよね?」
「うむ。我の目は生まれつき少々特殊でな。魔力を通す事で様々な物が見えるのだよ。人の魂であったり、魔法の術式だったりな」
そう告げる魔王は己の瞳を指さす。そこには、思春期真っただ中の少年の心を擽る様にくっきりと五芒星が刻まれていた。
俺が魔王の瞳に釘付けになっていると、ワタルがハッと何かに気付いた様に立ち上がる。
「まさか、その目であの渦の術式を解読したって事ですか? あの短い時間で?」
「これはそういうものだからな」
「何という事だ……」と魔王の返事に絶句しているワタルに訳が分からない俺が「何をそんなに驚いてるんだ?」と聞くと、「はぁ~~あのね、咲太。少しは考えてみなよ」と呆れた表情を向ける。
「いや、考えるより聞いた方が早いだろ?」
「君ってやつは……いいかい? あの目は見るだけで一瞬で術式を解読する事が出来るんだよ? つまり、魔王様は、どんな魔法でも見ただけで即座に理解し、行使する事が出来るって事だよ!」
「あ、あぁ……でも、お前だって転移魔法使えたじゃん」
「あのね、僕は、一度この身で体験しているし、あっちの世界でずっと研究もしたんだよ」
「いや、一度体験しただけで使えるのも凄いと思うけど……」
「はぁ~これがどれだけ凄い事か君は分かっていない様だね……いいかい? 君が分かり理解し易い様にラーメンで説明しよう」
「ラーメン? お、おう」
「ラーメン、好きだよね?」
「それはもちろん好きだけど……」
逆に嫌いな人の方が少ないだろ。
「崇高な魔法をラーメンに例えるのは不本意だが、この世にある全てのラーメンを食べもせず、一目見ただけで全く同じ味で再現できると言ったらどうだい?」
不本意って……全国のラーメン屋さんに謝れ!
そうか、ワタルの場合は、一度食べて試行錯誤を繰り返して同じ味を再現した。だが、魔王は食べもせず見ただけで……確かに凄い差だ。
「す、すげぇ……」
「それを魔法に置き換えてみてよ」
「超チートじゃん、そんなの!」
「そういう事さ」
ワタルの説明を聞いたのち、魔王に再び視線を戻すと。魔王は、「いい例えだ」と満足そうに笑みを浮かべていた。
「凄いんですね魔王様……」
俺の素直な感想だ。
「ハハハ、我は魔王だからな。だが、ワタルも凄いと思うぞ。あんな理から外れた魔法を一度体験しただけで使える様になるとは、さすがカケルの孫だな!」
「いえ、僕なんか大した事ないです」
魔王に褒められたからなのか、さすがワタルの大好きなカケルさんの孫と言われたからなのか、どっちが原因かは分からないが、珍しくワタルは照れていた。
おっと、こうしてはいられない本題に入らないと。
俺達が、この世界に、魔王の前にきたのはこんな世間話をするためではないのだから。
「魔王様、俺達の世界への侵攻を辞めてもらえませんか?」
ワタルは俺の言葉に真顔に戻り、俺に続ける。
「魔王様が、あっちの世界に送り込んでいる魂達のせいで、罪もない人々達が命の危険に晒されています。祖父を友と思っていただいているならば、何卒、祖父の故郷である、地球への侵攻を止めてもらえないでしょうか?」
「うむ……。やはり、その事か……」
「以前、僕が魂でこっちの世界でさ迷っていた時に僕を勧誘しましたよね? 魔王様は、転移魔法を解明して地球に魂を送り込み自分の世界にするからと魔王様の配下になれ、と」
「そうであったな」
「既に魔王様は、複数の魂を日本に送り込んでおり、それらをここにいる咲太が討伐しております」
「その中には、元仲間もいました」
三上の事だ。
「そもそも、なぜ魔王様は、地球を支配しようと思っているのですが? こんな、凄い街を作って、仲の良い家族に囲まれて魔王様は素晴らしい居場所があるじゃないですか? 地球にこだわる理由を教えて下さい!」
魔王は、目を瞑り「うむ……」と唸っていた。
そして、一拍置いて、何か決心をしたかのよう口を開いた。
いつも読んでいただきありがとうございます!