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プレッシャー


 バンカーサイドは肩摩轂撃で、地上から離れている俺の目からでもその賑やかさが垣間見れた。


「凄いな~一体この街にはどれ程の人が生活しているんだい?」

「半年前に住民三百万人突破記念祭があったから、少なくても三百万人はいると思うよ。生活環境も良くて働き口も多いからね、人口は右肩上がりなのさ!」

「それは凄い! 下手な小国の人口よりも多いじゃないか!」

 

 ワタルが驚くのも無理ではない。

 この世界で大規模な街であれど、人口は多くても五十万人程度。

 俺が召喚された忌々しいオルフェン王国に関しては国全体で二百万人だと言われている。

 まぁ、民として登録がされておらず、把握しきれていない者達もいるだろうが、百万人もいないだろう。

 

 また、俺の記憶が正しければ、日本でも三百万人を上回る都市はほとんどない。

 そう考えるとかなり多いと言えるだろう。

 まぁ、その代わり魔大陸全土で言えば人が住んでいない土地の方が圧倒的に多いというのだから、バンカーサイドに人が集約されているとも言えるだろう。


 そんな事を考えている間に、俺達を乗せた飛竜は徐々に飛竜の発着所に近づいていく。

 飛竜の発着所は、バンカーサイド内の街門に近い所に位置しており、流石というべきか、魔大陸の玄関口であるイトの街のそれとは規模が全然違い、停留している飛竜の数なんかは三桁は優に超えていた。

 

 そろそろだなと思い、降りる支度をしていると「うん? サクタ何してんの?」とララが不思議な顔をしていたので、「いや、発着場についた様だし降りる準備をしていたんだけど。あっ、おすすめの宿があれば紹介してもらえるか? ララのおすすめなら間違いないだろ?」と返すと、ララは手をポンと叩き、

「あ、サクタが寝てた時にレウィちゃん達には話したけど、ユー達はミーの客人として城に招くから宿探しなんてしなくてもいいよ~アー君と話がつくまで城で過ごしてもらうから」

「えっ? 城に泊まるの?」

「うん、ミーの客人なんだから当然でしょ?」

「いや、当然かどうかは分からないけど……もしかすると、魔王(ダンナ)と一戦交えるかもしれないんだぜ?」


 魔王が話の通じる相手であれば万々歳だが、実力行使にでる事も可能性として頭に入れておかないといけない。


「それでも、ミーの客人であれば、アー君は命まで取らないと思うから保険も兼ねているんだよ。ミーはユー達を気に入っているからね」


 そう話すララは睨みつける様な真剣な目つきを俺に向ける。

 そこには、いつもの様な軽いノリは一切なかった。


 ララの中では、万一も俺達が魔王に勝てるとは思っていないのだろう。

 色々と予想外が生じているので、ワタルを一瞥すると、


「文人の身体のまま死ぬわけにはいかないからね、その方が僕としても助かるかな」

 といつも余裕たっぷりのワタルはそこにはいなかった。

 ワタルも魔王とやり合う=ただでは済まないと考えているらしい。

 

 話を聞く限り、魔王は、俺が今まで対峙した事のない絶対的強者だ。

 俺は、大陸を震撼させた殺戮者の中でも最強と言われていた。だが、それは俺が相手よりも圧倒的にチートな身体能力を持っていたから……。

 

 だが、今回は違う。

 

 俺と魔王との力の差は分からないけど、みんなの反応を見る限り俺が魔王に勝つのは難しいのだろう。


 正直、ワタルと二人であれば、魔王すら凌駕すると思っていたのだが……ワタルの反応を見るとそれはないようだ。

 

 もし、本当に魔王と戦う事になったら、俺の足はちゃんと動くのだろうか? 

 

 俺は魔王に向けて剣を振り抜く事が出来るのだろうか?


 今までに感じた事のない、プレッシャーが襲ってくる。

 魔王という巨大な闇が立ちはだかっており、それに飲まれそうな感覚に陥る。


 元々、俺という人間は臆病な人間だ。

 自分より強そうな人と一秒も目を合わせる事が出来ないほどだ。

 だけど、力を手に入れ怖いモノが無くなった。


 だけどこの感じは……俺は、魔王に対してビビっているんだ。 


 クソッ! 今になって、何だってんだ!  

 

 そんな事が頭の中を駆け巡っていると、俺の肩に軽い衝撃が伝わる。

 

 ワタルだ。

 ワタルが、俺の肩に手を乗っけていた。 

 

「祖父は魔王は話の分かる人だと言っていた。まずは話し合いで済ます事だけを考えよう。戦う事なんてその後に考えればいい」


 ワタルの言葉は、ひどくシンプルな物だった。

 だからなのか俺の頭の中で複雑に絡まった紐がスルスルと解けていく。

 俺は魔王に話が通じないと決めつけていた。

 だが、そう思うのも無理はない。魔王は俺達の世界を侵略しようとしているのだがら、彼にも譲れない信念があるはずなので説得は難しいだろうと思っていた。


 だからと言って初めから説得する事を諦める道理はない。

 話し合いで終わればそれが一番良い。百点だ。


 今は説得に失敗した後の事を考えるより、どうやって説得するか、それに力を注ぐべきだ。


「難しく考えすぎていたよ」


 手の平を額に当て苦笑いを浮かべる俺の肩を、ワタルはパンと少し強めに叩く。


「それよりも、城に泊まれるなんて中々できる事じゃないからね。いい経験になると思うよ?」

「そうですよサクタさん! ここはララさんに甘えるべきです!」

 

 ララの隣に座っているレウィは、鼻息を荒くして俺に顔を近づけてくる。

 その勢いに負け「お、おう」と気の抜けた返事をしてしまった。


 二人のお陰で、先程まで俺を襲っていたプレッシャーは一気に拡散していった。

 最悪の状況を考えながら行動する事は大事だが、最悪な状況を作り出さない事が一番だろう。

 俺は、深く深呼吸をする。


「わかった。ララに甘える事にするよ」

「ふふふ、始めからユー達に拒否権はないけどね」


 悪戯っ子の様なララのノリに合わせて、俺は参ったと言わんばかりに両手を上げた。 



 城門を過ぎ、地獄城に辿り着くまでさほど時間は掛からなかった。

 

 俺達を乗せた飛竜は、城壁の内側にある広場に着陸した。

「さぁ、着いたよ!」というララの声で俺達は、飛竜の背から飛び降りた。

 全員降りた事を確認したララは、飛竜の頭部を撫でながら「ご苦労様、ゆっくり休んでね」と労いの言葉を掛けると、飛竜は嬉しそうに「グルルルル」と喉を鳴らし、勝手知ったる様にどこかへと歩き去っていった。

 後で聞いてみたら、どうやら自分の寝床に戻ったらしい。


「さぁ、こっちだよ!」


 ララの手引きにより、城門に近づく俺達に向かって槍を持った兵士が駆け足で近づいて来た。

 張りのある筋肉質の体躯は緑色の肌に包まれており、下顎からの伸びた一対の鋭い牙の間には二つの鼻の穴が正面を向いている。オークだ。

 漆黒のレザーアーマーを身に纏った赤いモヒカン頭のオークは、槍を地面に置き、ララの前で膝をつき頭を垂れる。


「ララディア様ブヒッ、お帰りなさいブヒッ」

「うん、ただいまラーゲン。変わりないかな?」


 このオークの兵士はラーゲンというらしい。


「はいブヒッ、変わりないブヒッ」

「楽にしていいよ」

「でもブヒッ」


 ラーゲンは、躊躇していた。ララが王妃だからなのだろう。


「ミーが話しづらいから言ってるんだよ。ほら」


 そう言って、ララはそんなラーゲンの身体を起こし上げると、ラーゲンは照れた様子で赤いモヒカンを掴んでは離してを繰り返している内に落ち着きを取り戻したのか、俺達に気付く。


「こちらはブヒッ?」

「ミーのお客さんだよ。少しの間、城で過ごしてもらうつもりだから覚えておいてね」

「分かりましたブヒッ。オラはラーゲンブヒッ、この地獄城の門番長ブヒッ、よろしくお願いするブヒッ」


 そう言ってペコっと頭を下げるラーゲンに俺達も簡単に自己紹介をする。


「そういえばブヒッ、リリディア様とレレディオ様がお戻りブヒッ」

「そうなんだ! 久しぶりあの子達に会えるね!」


 ララの嬉しそうな顔と、名前を聞く限りララの子供達だろう。

 俺と同年代の子供がいるって言ってたし。


「お呼び止めしてブヒッ申し訳ないブヒッ、さぁこっちだブヒッ」


 俺達はラーゲンの案内で、城へと入っていった。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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