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マリーンブルー

誤字修正いたしました。(20.10.15)

「サク~、こっちこっち!」

「ちょ、ちょまてよ!」


 俺は、いや、俺達はエメラルドグリーンの海面が広がる砂浜にいた。貸し切りだ。

 燃える様な陽の光に照らされ海面のその眩しさに、俺は無意識で片目をつぶる。

 

 THE・リゾートと謂わんばかりの解放感に満ちた情景。胸のワクワクが止まらない。


 いや、俺のワクがむねむね――もとい、胸がワクワクする原因はこの情景にあらず、俺の目の前を楽しそうに駆け回っている天使のせいだろう。


 天使は、淡い水色のビキニタイプの水着を身に纏い、俺においでおいでしている。

 その姿はまるで、太陽のKOMACHI ANGEL……


 俺は、そんな愛しい天使をこの腕で抱き締められずにはいられず、必死に追いかけている。

 だが、追い付けない……さすが、殺戮者一の敏捷の持ち主。


 それでも、諦める訳にはいかないんだああああ!


 あぁ~、全然追い付かない……天使との距離はどんどん開いていき、もう既に天使の顔のパーツさえ見えない。


 それでも! それでも、おれはあああッ!


 ……ツン

 ……ツンツン


 ええい! 誰だ、俺のほっぺをツンツンするのは! 邪魔をするなッ!


 と、怒りを露にしているが……俺は分かっていた。


 日本にいる彼女がこんな場所で、しかも、ビキニ姿でいるはずがないと。

 そして、彼女がいくら元戦闘奴隷(俺達の中で)で一番の敏捷を有していても、決して俺を置いてきぼりにせず、俺の隣で、俺の歩幅に合わせてくれるはずだ。

 それだけではない、彼女は俺と手を繋ぐだろう。そう、恋人繋ぎだ。

 いくら俺の手が汗まみれになって気まずい事になっても、彼女は俺の手を離しはしない……たぶん。


 そもそも俺は、飛竜の背に乗って空を移動中なのだ。

 そんな俺の眼前にスカイブルーならまだしも、マリーンブルーが広がっているなんて……ありえない!


 そう……つまりこれは夢だ。俺は夢を見ているのだ。 


 そんな冷静な判断が出来る様に意識はハッキリしているが、出来れば彼女との淡い一時の続きを堪能したかった俺は、目を開ける事に躊躇っていた。


 俺も年頃の男だ、夢の中であれど好きな女の子とイチャイチャしたいのだ。

 良い夢を見ている途中に目が醒めたとしても、もう一度同じ夢の、その続きを見ようと努力する男なのだ。


 だから、このほっぺに感じる神経を逆撫でにする様なツンツン攻撃を無視しようとしたのだか……


 ツンツンツンツンツンツンツンツンツンツン!


「えええいい! どんだけツンツンすんねん!」


 堪忍袋の緒がきれてしまった。


「あ、やっと起きた! もうすぐ到着するよ!」


 俺は、ララに、まるで朝寝坊している子供をやっと起こした母親の様なそんな表情を向けられる。

 困ったちゃんを見ている様な、そんな表情。どこか懐かしく感じる。


「ふふふ。凄く幸せそうな寝顔だったけど、いい夢でも見ていたのかい?」


 俺の隣に座っていたイケメン(ワタル)が、俺に笑いかけてくるその表情は、ワタルの温厚篤実な人柄が伺える。


「べ、別に普通だよ!」


 全てを見透かされている様な気がした俺は、ぶっきらぼうに返すしかないのだが、そんな様子を見てワタルは変わらず笑顔を崩さない。


「サクタさん、見て下さい! バンカーサイドですよ!」 


 たっぷり睡眠を取ったおかげで、レウィは元気いっぱいだ。

 窓から差し込む、燃える様な陽の光に照らされたレウィの煌びやかな白金色の髪の美しさに一瞬目を奪われつつ、俺は窓際に近づきレウィの指さす先に視線を向ける。


「うぉ~凄いなこれは!」


 想像以上だった。

 何よりも街の規模が、だ。


 この世界の街は、いくら大規模であってもポツンと一軒家状態で一目で収まる程の面積なのだが、このバンカーサイドという街は……、一目では収まり切れない程の大きさであり、街というよりは都市と言った方がしっくりくる。


 そして何よりも街の中心に聳え立つ魔王の居城【地獄城】。

 情報誌に映っていた絵をみて凄い建造物というのは頭では理解していたが、俺の視覚情報というロケットは理解の斜め上に発射されていた。


 天に向かって真っすぐ伸びているそれは、まるで硝子で出来た飾り物の様に叩いたらすぐに崩れてしまいそうなそんな儚さと、魔王の威厳たるやなんたるかを象徴するかの様な力強さを兼ね備えていた。

 名前は本当にダサいが……。


 そして、地獄城を中心として広がる街並みがまさに圧巻だった。

 全ての建物の屋根は、地獄城と同じ素材を使っているらしく、街全体が果てしなく広がる透明感のあるエメラルドグリーンの海の様に見えるのだ。

 俺が、天使と海で戯れる夢を見たのはこれの所為かもしれない。


「圧巻だね。これ程美しい街並みは初めてみたよ」


 感動で声を発する事すら忘れている俺の隣で、ワタルが感嘆する。


「凄いでしょ? アー君が作った街だよ! アー君が魔王になる前は、荒れ果てた殺伐とした街だったんだけど、アー君が一から作り直したんだよ!」


 ララは、まるで自分の事の様に誇らしげに胸を張っている。

 まぁ、旦那様の偉業を自慢したいのだろう。これ程の物なら、嫌みにも聞こえない。

 本当に凄い男なんだろうな……。

 だけど、なんでそんな偉大な人があっちの世界に侵攻しようとしているのだろう……。

 う~~ん。良く分からない……。

 ええい! やめだ! 本人に聞こう、難しく考えるよりそれが一番てっとり早い!


 俺は、考える事をやめて、目の前に広がる景色を楽しむ事にした。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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