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【回想】戦闘奴隷として⑩

誤字修正致しました。ご指摘ありがとうございます!(20.9.29)

 ブオオオン!と空気を切り裂く様な轟音を立て、ジュレイを襲う斬撃が放たれる。


「ぐおッ!」


 俺の攻撃を刃で受け止めたジュレイは、驚愕の表情を浮かべる。

 俺が攻撃を仕掛けた事に驚いているのか、それとも俺の攻撃が思いのほか強力だったからなのかは分からない。驚愕の表情から余裕を一切感じられない表情に豹変したジュレイを見ると、恐らく両方だろう。

 

 俺の圧に抗うかの様にギリギリとジュレイの木製の義足は悲鳴を上げていた。

 俺の攻撃にこれ以上耐える事が困難だと考えたのか、ジュレイは上手い具合に剣を流しバックステップで俺から距離を取る。


「ぜぇぜぇ……何て馬鹿力だ」

 

 たった一度のしのぎ合いがよっぽど堪えたのか、肩で息をするジュレイ。

 その表情は苛立ちさえ感じられる。


 少し余裕が出来た俺は、紗奈達の安否を確認する。

 どうやら問題なく戦えている様だ。

 正直、このジュレイ以外の盗賊達は、一般人相手では十分脅威だが、部隊の隊員達よりも遥かに劣っている。

 紗奈達が手を焼く事はないだろう。

 俺は目の前の相手だけに集中すればいい。


 ジュレイは強いと思う、さすが戦場でその名を轟かせた歴戦の傭兵だ。

 だが、勝てない相手ではない。

 ジュレイが、俺より優れているのは経験だ。

 剣技、戦闘、殺生――それぞれの経験に於いてジュレイは俺を圧倒するだろう。

 

 ――だけど、全然負ける気がしない。

 

 決して思い上がりではない。

 俺は先程の一撃に手ごたえを感じていた。

 パワーは圧倒的に俺の方が上。義足のジュレイにスピードで負けていると思えない。

 そして、人並み外れた体力が俺にはある。

 

 一方、ジュレイは、先程のしのぎ合いで息を上げる程だ。

 盗賊に身を落としたジュレイは、戦場でその名を轟かせていた現役時代に比べると衰退しているだろう。そんなジュレイが俺の攻撃をかわし続ける事は難しいと思う。


 俺の剣の扱いが遥かに劣っていようと、戦闘経験が乏しかろうと、人の命を奪う事を躊躇っていようと……俺はジュレイを倒す!

 

「うおおおおお!」


 俺の踏み込みにより地面が陥没する。


「ちッ!」


 一瞬でジュレイとの距離を肉薄した俺に対して、息が整いかけていたジュレイは盛大に舌打ちを打つが、そんな事はお構いなしに俺は剣を振るう。

 型もクソもない、ただ力任せに。

 鋭さなんて関係ない。

 ただ速く、重い一撃を振るうだけ!

 (ジュレイ)に息つく暇を与えるなッ!

 (ジュレイ)に考える隙を与えるなッ!

 

 俺の攻撃を捌き切れなくなったのか、ジュレイの手数が段々と少なくなっていく。


「くそったれッ! 何て出鱈目な攻撃だッ!」

 

 子供が癇癪を起したかの様に拙いが、気を抜くと一瞬で己の命を刈り取られる理不尽な攻撃に悪態をつくジュレイ。気が付けばいつの間にか防戦一方になっていた。

 

「ぐッ、ふ」


 ジュレイの口から漏れるうめき声。

 ジュレイが落とした視線の先には俺のつま先が、綺麗にジュレイの鳩尾にめり込んでいた。

 俺の剣に気を取られ無防備だった腹部に、渾身の力でつま先を突き刺したのだ。

 

 いかに鍛え抜かれた歴戦の傭兵でも耐え難いらしく、ふらふらと後退したジュレイは、膝をつき丸まり悶絶していた。


「ゲホゲホ! ゲボッ!」


 咳き込むジュレイの口から大量の血が吐き出される。

 俺の蹴りによって、体内の器官が損傷しているのだろう。

 相手が立ち上がるまで待ってやる義理もない、俺は未だに丸まって咳き込んでいるジュレイに向けて武骨なバスタードソードを振り上げる。


「ま、待て! ゲホ、ゲホ」


 ジュレイは、両手の平を俺に突き出す。

 その両手は、吐血により真っ赤に染まっていた。


「お、俺様は、お前に勝てねぇ……」

「なんだ? 命乞いか?」

「はぁ、はぁ……俺様達は今まで命乞いしてきた奴らの命を奪ってきた、そんな真似する資格なんてねぇ」

「じゃあ、なんだ? 時間稼ぎでもするつもりか?」

「この状況で時間稼ぎなんてしても、意味ねぇだろ」


 そういって、ジュレイは俺の背後に向けて顎をしゃくる。

 ジュレイを警戒しながら、背後を確認すると盗賊団で立っている者はいなかった。


 ジュレイは、「化け物共が……」と苦虫を嚙み潰したような表情を俺達に向ける。


「じゃあ、俺は何を待てばいいんだ」


「俺様達、男共の命はどう扱ってもいい。人様を襲って生活してきたんだ、こうなる事は覚悟の上だ。ただ、盗賊団に加担していない女子供は見逃してくれッ! 元々この盗賊団は、重税に苦しめられ自分達の食い扶持に困った近隣の農村で結成されている。根っからの悪じゃねぇんだ! それに俺様達は、私利私欲にまみれた悪名高い貴族や商人しか襲っていない。なぁ、頼む! 俺様達はどんな罰でも受ける! どうか!」


 ジュレイは、地面に頭を擦りつけながら懇願してくる。

 俺に下された命令は盗賊団の壊滅。

 女子供は見逃しても問題ないのではないだろうか……判断がつかないが……。

 

「俺に与えられた任務は盗賊団の壊滅だ。あんたの言う通りなら、女子供に手を掛ける事は任務外だ」

「では!」と、ジュレイは、期待のこもった表情を俺に向ける。

「あぁ、約束しよう。女子供に傷はつけないと」

「ありがとう! ありが、ぐうぇッ」

「――ッ!?」


 涙を流しながら何度も頭を下げるジュレイの首元から矢が生える。

 ジュレイは目線を自分の首元に落とした後、俺にもう一度視線を戻し、笑みを浮かべその場で崩れ落ちた。

  

 俺は、無言でそんなジュレイを眺める事しか出来なかった。


 程なくして、小隊長達がアジトに姿を現した。

 その中に弓を持っている隊員のどや顔を見れば、奴がジュレイに弓を放った張本人だと分かる。


「粗方片付いた様だな? 初任務にしては上々だろう。特にNo.11、現役では無いにしろあのジュレイをあんなに簡単に追い込むとは大した物だ」


 アッシュ小隊長は満足そうな顔を俺達に向け、俺を褒めるが、俺の中では嬉しさなど微塵もなく、それよりやりきれない思いが勝っていた。


 ――そんな時


「小隊長、まだ女子供が残っていますぜ?」


 いつの間にかアジト内を探索していた弓持ちの隊員と数名の隊員が、泣き叫ぶ女子供を引きずって現れる。

 彼らの表情は歓喜に満ちていた。


「何だ? 打ち漏らしがいたのか?」

「打ち漏らし? アッシュ小隊長、彼女らは盗賊団ではありません」

「何を言っているんだ?」

「彼女ら盗賊団の活動に関与していないとジュレイが……」

「だからどうしたと言うのだ? 盗賊団の活動に関与していないから見逃せと言うのか?」


 俺は、コクリと頷く。


「馬鹿かお前は? こいつらが日頃飢えずに生きているのは、盗賊団の戦利品による物だろうが! 直接手を汚してない分、こいつらの方がよっぽど質が悪いんだよ!」


 弓持ちの隊員が、俺を叱咤する。


「まぁ、そういう事だ。任務続行といこう。さぁ、奴らの首を落とし、このアジトを焼き払え」


 躊躇わず淡々と命令を下すアッシュ小隊長。


「できない……」

「何? できない? 私の聞き間違いか?」

「聞き間違いじゃない。ジュレイと約束した、女子供には手を出さないと」


 俺は、一ヶ所に集められている女子供を背後に立つ。


「貴様、正気か? 国の命令より、盗賊との約束を優先すると言うのか?」

「生きる為にしょうがなかったと言っていた。だからと言って、人様を襲う行為は許される行為じゃない。だが、実際に行動していた盗賊団は壊滅した。彼女らまで手を下す必要が本当にあるのか?」

「必要があるかどうかじゃない。これは、命令なのだ。我々軍人としても、貴様ら奴隷にしても命令には従うものだ。例えそこに正義が無くても……慣れろNo.11」

「だけど! ぐあああああ!」


 反論した俺に対して、アッシュ小隊長が何か呪文の様なものを唱えると、全身に激痛が走り、立つ事も出来ない俺はその場に倒れ込む。


「はぁ~、どうやら、貴様……いや、貴様らはまだ人としての感情が残っているらしいな……仕方あるまい、これ以上時間を取る訳にもいかない。チリン、終わらせろ!」


 そんな俺の姿に、ため息を漏らし、アッシュ小隊長は弓持ちの隊員、チリンに生き残りの処分を命令すると、阿鼻叫喚がその場を支配し、瞬く間に血の海と化した。


 俺はそんな状況を、苦しみ悶えながら眺める事しかできない自分自身に憤りを感じ、そして俺は気を失った。


 その後、幾多の実戦を通じて俺の手は真っ赤に染まっていった。

 そして、身も心も本物の戦闘マシーンになった俺達はついに戦争に駆り出される事になるのだが


 それは、また別の機会に語りたいと思う。  

 

いつもありがとうございます。

長々と回想編にお付き合いいただき、ありがとうございます。

本業が忙しく中々更新がままならない中、このままだと、いつまで経っても本編に戻れないので、一度回想編はひと段落し、本編に戻りたいと思います。

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