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【回想】戦闘奴隷として⑤

「今日はここまでじゃ!」

 

 くそっ……何が訓練だ……ひたすらタコ殴りにされただけじゃんかッ!

 声を出す元気もないため、俺は心の中で絶叫していた。


 何で生きているのかが不思議なほど、ボロボロのギッタンギッタンにされた俺は起き上がる事が出来ず地面に仰向けに倒れ、息を荒くしていた。


 辺りはすっかり暗くなっており、訓練場には隊長と俺、そして数名の隊員だけが残っていた。

 俺以外の奴隷達は既に牢屋に戻されている。

 なぜか俺だけ居残りだ。初日から……。


 このオッサン(隊長)……何がワシが見るだ!

 技術的な事は何も教えてくれなかった。名ばかりの対人訓練であり、一方的に殴られただけだった。


 訓練中、余裕もない中、他のメンバーを観察するとやり方はどうであれ、隊員達に何かしらアドバイスを貰っていた……のに、このオッサンは、ただ拳を繰り出すだけだった。


 何発食らったのだろう。

 ただ、言えるのは隊長がかなり手加減しているという事だ。

 俺が満身創痍な状態でも息をしているということはそういう事だろう。


「はぁはぁ、ま、毎日、続くのかこれ……はぁ、こんなの死ぬだろう普通……てか、何で生きてるんだ俺……はぁはぁ」

「がははは、こんな初歩的な訓練で死ぬようなタマなら戦場で一分と持たんぞ! 安心しろワシが戦場で生きて帰れる身体にしてやるからなッ! がーはははは!」


 上機嫌に笑う隊長に対して反論する気にもなれず、俺は息を整える事に集中した。


「おーい、誰かこ奴を寝床まで連れていってやれ!」


 俺が動けないと踏んだ隊長が、残っている隊員に命令するが誰も率先して前に出ようとはしない。奴隷の面倒なんか御免だという空気が感じられる。


 そんな隊員達の反応に、隊長は「ちっ」と舌打ちを打ち、ボリボリと後頭部を掻く。

 そして「オリビア小隊長!」と、怒鳴るように名前を呼ぶと、「ハッ!」という短い返事と共に一人の隊員が駆けつけてくる。

 

 声と名前からして女の隊員だろう。

 女がてら兵士をやっているんだ、どんなゴリラが現れるかと思いきや、息を飲む程の美人さんがそこに立っていた。

 金髪ベリーショートが良く似合う、切れ長な目は非常に絵になっており、東洋人ではあり得ない程に高い鼻筋、やや薄めの唇と小さめの顔にバランス良く顔のパーツが嵌まっている。

 有名高級ブランドの専属モデルと言っても過言ではないだろう。


「こいつを寝床まで連れていってやれ」


 隊長の言葉に小隊長は、明らかに不満そうな表情を浮かべる。


「お言葉ですが隊長。どうしてその奴隷を態々連れていかないといけないのですが? 他の奴隷達は各々自分の足で戻っています。この奴隷もそうさせるべきです」


 確かに俺以外のメンバーは自分の足で訓練場を後にした。

 まるでゾンビの様にゆらゆらと戻っていくその姿は、見ていて寒気がする程だった。


「こ奴はワシが直々にしごいてやったのだぞ? この意味を理解できないお主ではないよな?」

「直ぐに立ち上がる事は無理でしょう。そもそも、何故隊長自ら手解きを? 他の奴隷達と同じく私達に任せて頂ければ良いものを!」


 何だろう……普通、上官にこれだけ食って掛かれる物なのか?

 ここは、軍隊だ。上官が白と言ったら黒でも白になるのが軍隊じゃないのか?

 この二人のやりとりに、若干の違和感を覚える。


「ワシが、こ奴を気に入ったからじゃ!」

 

 隊長は、そう言ってまた上機嫌に笑い飛ばす。

 小隊長、そんなに睨まなくても……。

 俺だって別にオッサンに気に入られても嬉しくなんかないんだけと……と目で訴えてみたが、全然通じてなさそうだ。


 中々命令に従わない様子に、隊長は「オリビア、ワシはお主に命令しているのだぞ?」とあからさまに不機嫌に小隊長を睨み付けると「し、失礼致しました」と慌てて、ぐったりしている俺を肩で支えその場を後にした。


 道中、「何で私が奴隷の世話など!」「お父様も、何でこんな奴隷なんかに!」と不機嫌を露にしていて、「ちゃんと歩け!」と何度かこつかれた。


 理不尽ではあるが、まぁ、隊長の拳より痛くないので良しとしよう。

 それよりも……お父様??

 聞き捨てならない単語が耳に入ってきたのだが、今はそれを聞く雰囲気でもなく、聞く程の仲でもないと思ったため、何も喋らずただ小隊長の女性らしい柔らかさに癒されていた。

 

 牢屋に到着すると小隊長は、俺を放り出しさっさとその場を後にした。

 

 牢屋に入ると「サクタ大丈夫か?」とベンジャミンさん達が俺に近付いてくる。因みに紗奈ちゃんは、よっぽど堪えたのか既に寝息を立てていた。


 俺は大丈夫じゃない旨を伝えると苦笑いを浮かべるみんなも何だかんだ満身創痍な感じだった。

 あんなアホみたいな訓練をしたんだから当たり前か。


 俺の事は気にしないで早く休んでくれと伝え、俺は看守の見守る中、昨日と同じカビの生えたパンと泥水を無理矢理口に流し込む。

 空腹でもやっぱり不味いのは不味い。

 逆流しそうな俺の食道を必死に抑え込み、俺は食事を終えた。

 人間の最大の娯楽である【食】が、最大の苦痛になっている事が酷くやるせない。


 そして、間も無く腹痛に襲われる。

 因みに俺以外の四人は既にこのルーティンを終えていた。

 

 急いでトイレと言う名の粗末な穴に駆け込み屈む俺の両足は、生まれたての小鹿の様にプルプル震えていた。


 こうして異世界二日目を終えた。

 翌朝、味わった事のない筋肉痛と打撲による痛みが全身を襲ったのは言うまでもない。

いつもありがとうございます!

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