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【回想】戦闘奴隷として③

書いてみたら、色々と書きたくなりました。

3話位で終わらせようと思ったのですが、もう少し付き合って頂けると嬉しいです。


誤字脱字修正しました。(20.8.15)

「起きろクソ奴隷共!」


 兵士の一人が何かを格子にガンガンぶつける音で俺達は目を覚ました。

 そして、すぐさま牢屋から出され、二十五人全員で屋外へと移動する。


 兵士達に連れられた俺達が到着した場所は、テレビや雑誌で目にしたことのあるイタリアのコロッセオに良く似ている円形の建物だった。


 観客席とフィールドで分かれているその建物には、既に数名の兵士達がフィールドで俺達を待ち構えていた。


 俺達は牢屋毎に五列に並ばされる。

 他のメンツを見てみると、皆が皆、げっそりした顔をしていた。

 俺達同様腹痛で苦しんだのだろう。


 俺達が並び終えたのを確認すると、中年の男が一人、俺達の前に出る。

 男は、一言で言い表せば熊みたいな男だった。

 横にも縦にもデカイ。横にデカイというのは、太っているという事ではなく、素人の俺でも分かるくらい筋骨隆々だ。そして、真っ白なオールバックに鬚を蓄え、右頬に大きな剣傷。俺達を見据えるその二つの眼から放たれる眼光に、蛇に睨まれた蛙の気持ちになる。


「ワシは、栄えあるオルフェン王国軍第四部隊長オニールじゃ! 貴様らはこれからこのワシの部隊で生き抜いてもらう!」


 予想はしていたが、声もデカイ。


「我が国の為に貴様らは無理矢理この世界に連れてこられた、戦闘奴隷としてだ! 何よりもそれについて貴様らに謝罪がしたい!」

 

 隊長は、俺達に向けて深々と頭を下げた。

 その姿に、その場の空気が静まり返る。


「オニール様、何を考えておられるのですか! こんな薄汚い奴隷共に頭を下げるなど!」


 昨日紗奈を殴った男だ。

 ホームベース型の顔、顔のパーツ一つ一つに性格の悪さが滲み出ている。


「黙れギングレ! こ奴らは、各々の生活や愛しい人達と無理矢理引き裂かれ、自分達とは何の関係もない世界、関係のない国で戦闘奴隷としてこれから辛い日々を過ごさないといけないのだぞ! 貴様は立場を置き換えて考えてみろ!」

 

 隊長に叱咤されたギングレは、グッと押し黙るがその表情は不満そのものだった。

 隊長は、フン! と鼻を鳴らし、再度俺達の方へと視線を向ける。


「ワシに貴様らを元の世界に帰す力や知識はない。ワシに出来る事は、貴様らを鍛えに鍛え抜き、どんな過酷な環境でも生き抜ける戦士にする事じゃ! 生きてさえいれば、元の世界に帰る事が出来るかもしれない! 貴様らからすれば、加害者であるこの国の人間の言葉だ。どの口が! と思うだろうが……」


 隊長は一度深く息を飲み込む。


「希望を捨てるなっ!」

 

 その言葉は、俺達を懐柔させる為だけの上部だけの安い言葉ではなかった。

 隊長の本気が垣間見れた。


 それから隊長はこれからの俺達のカリキュラムを説明した。

 訓練は毎日行う。

 午前は、当分体力と筋力を補う為の訓練を行い、午後は兵士達との実践形式の訓練を行うという。


 ついでに食事についての説明もあった。

 食事は一日に一回夜だけ。

 献立はカビの生えたパンと泥臭い水らしい。

 劣悪な食事や寝床が、俺達を状態異常に掛からないタフな身体に作り替えるらしい。

 俺達が生き抜く為だと念を押す。

 

「何か質問はあるか?」


 正直言いたい事は山ほどある。

 多分、それは俺だけじゃなく他のメンツも同じ思いだと思う。

 ただ、俺達は昨日の腹痛によって何か反論出来る程元気がないのと、反論したらどんな仕打ちを受けるか分からないため、静かにしているのだと思う。


 そんな中、隊長が俺達を左右に見渡すと、「は、はい!」と昨日ボコボコにされたオッサンが手を挙げる。


「うむ。申してみよ……No.9」

「この世界にま、魔法、魔法はあるんですか!?」


 あ~それは気になるところだ。

 恐らく俺達に刻まれた奴隷紋、あれは魔法によるものだと推測するが、まだ確信には至っていない。


「魔法はある。貴様らに施された奴隷紋は魔法によるものだ。他にも攻撃魔法、治癒魔法、支援魔法など様々な魔法がこの世界に存在する」


 その言葉に、俺やオッサンを含む数名が絶望の中で希望を見出だすのだが、隊長の次の言葉によって、再び絶望へと落とされる。


「期待をしているところ悪いが、貴様らに魔法を扱う事はできん」

「「えっ?」」

「どういう事ですか!」

「うむ。この世界で魔法を使うためには、魔力を溜め込む為の器が必要じゃ。魔力の器を宿す為には、体内にある程度魔力を蓄積する必要があるのじゃ。魔力は親からの遺伝と、生まれてからこの世界に漂う魔力を身体に取り込む事で体内に溜まる。一般的に十二歳になれば魔力の器が形成される」

「つまり、俺が魔法を使える様になるには……」

「そうじゃのぅ、最低でも十二年以上は掛かると言う事じゃな。それに、貴様らは親からの遺伝が無いため大した魔法は使えんじゃろぅ」

「ふ、ふざけるな! 俺は三十まで守りぬいたんだぞ! 魔法使いになれる筈だ、いや、もうすぐ四十なんだ! 俺は賢者になれる筈なんだ!」


 オッサンの沸点かは分からないが、オッサンは一人で怒り狂ってギャーギャーと喚き散らしてる。


「貴様! オニール様に何という不敬を!」


 と数名の兵士にオッサンはボコボコにされる。

 このオッサンは何なんだ。

 昨日からあれだけボコボコにされて、あれだけ騒げるとは、逆に尊敬するわ!


「魔法も使えない私達を何故この国は召喚したのですか? 魔法という物がどれ程凄い物かは分かりませんが、それが使えない、しかも、私達は戦争などろくに経験した事のない平和な世界から来ました。戦闘奴隷として活躍出来るとは思いませんが」


 オッサンとは違い淡々と意見を述べるのは、中学生位の中性的な顔をした黒髪の少年だった。


「うむ。貴様らの様な異世界人は、鍛えれば鍛える程この世界の人間では足元にも及ばない程の強さを得るのじゃ。貴様らが弱いのは今の内だけよ、数ヵ月もすれば貴様らは一騎当千の強者となるじゃろう」

「それは本当ですか? 何か根拠があるのですか?」

「根拠か……今まで幾度か異世界から貴様らの様な者達が召喚された。その召喚者の内、誰一人として弱者はいなかったと言われる」

「実証済みという訳ですか……分かりました」

「他にはないか? ないのなら早速訓練に入る!」


 訓練開始の合図がなされ、傍観していた兵士達は俺達の手足に鉄球のついた枷をつける。


 ズンとした重さで、全身が地面に引っ張られる。


「走れぇっ!」


 急な隊長の短い号令に俺達は反応出来ずその場で立ちすくんでいたら、「おらぁ! 早く走れ!」と兵士達に背中を蹴られる。

 

 そんな状況になって初めて、走らないといけないんだと気付き俺達は手足を動かすのだが、鉄球の重さで中々前に進めない。


「五十周だ! 死ぬ気で走れぇい!」


 この訓練所のフィールドは四百メートルトラック程の広さがある。

 単純計算で二十キロだ。

 それをこの重い鉄球をつけて走れなんて、あのじじい、さっき謝ったのは嘘だろッ!


 理不尽な扱いをうけ腹立つが、今は従うしかないと思い必死に手足を動かす。


 息を切らしながら、必死に走ると背後から激しい叱咤が聞こえる。


 何事かとぜぇぜぇ息を荒げながら後ろを振り向くと、あのオッサンが倒れており「貴様っ! まだ、半周もしてないではないか!」と数名の兵士に足蹴にされていた。


 どうやらオッサンは、口だけ達者のようだ。



 結局俺達に十五人の内、五十周を完走した者はおらず、全員ボコボコにされた。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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