【回想】戦闘奴隷として①
戦闘奴隷の話は、3話位にまとめたいと思います!
あれは俺が高校を卒業して数ヶ月が過ぎようとしていた時だった。
進学するという道も就職するという道も選ばなかった俺は、ゲーム三昧の自堕落な毎日を過ごしていた。
だからと言って別に引きこもりニートをしている訳ではない。
ちゃんと外に出て友達と遊んだり、その遊ぶ金を稼ぐために日雇いのバイトをしたり。
決して褒められる様な生活ではないとは自覚しているし、今のままではダメだとは思っていたが、自分はまだ高校を卒業したばかり。
徐々に退屈は感じていたが焦りはなかった。
「咲ちゃん、本当に行かなくていいの? 沖縄だよ?」
「うん、ゲームやりたいし。二人でゆっくりしてきなよ」
親父が夏休みの間、家族旅行に行こうと誘われたのだが、親と旅行に行く歳でもないと言ってやんわり断った。
沖縄。本当は凄く行きたかった。
ただ、謂わばフリーターの俺にとっては、あんまり親の脛を齧りたくないというちっぽけなプライドがそれを許さなかったのだ。
「親と遊ぶよりも友達と遊びたい年頃だろう。ママ、たまにはさっくん抜きでパパとラブラブしようじゃないか!」
そう言いながら、親父は母ちゃんの腰に手を回し、チュッと軽く母ちゃんのほっぺに唇を当てる。
「俺がいてもいなくても、あんたらはいつもラブラブしてるじゃないか!」とは口にはせず、俺は苦笑いを浮かべる。
親父と母ちゃんはが出逢ったのは、親父が二十二、母ちゃんが十五の時らしい。
親父が道端で不良に絡まれたいた所を助けてもらったらしい、母ちゃんに。
そんな母ちゃんに惚れ込んだ親父が猛アタックの末に出来たのが俺だ。
当時、母ちゃんの親父、つまり、俺のじいちゃんから俺を産む事を猛反対されたらしく、母ちゃんは学校を辞め、親父と駆け落ちしたらしい。
そういう事で、俺はじいちゃんをはじめ両親の家族に会った事がない。
まぁ、俺の存在を無下にした人達だ、別に会いたいとも思わない。
両親がいつまでも仲睦まじい事は良い事だろう。とイチャついてる二人を見て沁沁思った。
そして、数日後――
「じゃあ、行ってくるね」
「戸締まりはしっかりするんだぞ? まぁ、盗まれる物もないけどね、あはははは」
「うん、楽しんできて! お土産よろしく!」
深夜遅くまでゲームをして寝落ちしていた俺は眠気を堪え、玄関先で両親を見送る。
脛は齧りたくはないが、お土産をねだるくらいは許されるだろう。
二人が出発した事を確認し、また部屋に戻りコントローラを握る。
眠気はいつの間にか去っていた。
「今日中にはクリアして、次のゲームをやらないとな」
俺の視線の向こうには、袋も破られていないゲームが山積みになっていた。
だからこのゲームをクリアしても、大した喪失感はないだろうと思った矢先だった。
「な、何だあれは……」
俺の目の前に禍々しいタイア大の黒い渦が、何の前触れもなく発生したのだ。
見るからに吸い込まれそうな、奥が見えないブラックホールの様なそれに俺の頭に何かが過った。
「は、ははは……もしかして、この渦に吸い込まれたら異世界に行けるんじゃ
……」
そう。異世界転移だ!
俺はテンプレ的なチート能力を授かって、あっちの世界で無双し、ハーレムを築く事が出来るのではないのか!?
そう思うと心踊らずには居られなかった。
そして、渦に飛び込みたいという衝動に駆られ、渦をジッと見つめるのだが。
「ヤッパリ無理だ! あんな得体の知らないものに飛び込める訳がない。異世界に行ける保証もないし!」
ビビってしまった俺は、「よし」と小さく呟き、渦から視線を切らずゆっくりとドアの方へと移動する。渦に対する打開策が思い浮かばなかったため、とりあえずこの部屋から出る事を選択したのだ。
抜き足、差し足、忍び足といった感じでドアの前に辿り着き、ドアノブに手を掛けたその時! 渦がゴゴオォォと低い重低音を出しはじめたと思ったら、俺の事を吸い込み出したのだ!
「うおぉぉ! 引っ張られる!」
俺は必死にドアノブを握りしめ渦の吸引力に抗っていた。
ただ、不思議な事に、渦は的確に俺だけを吸い込もうとしていた。
なぜなら部屋にある家具やゲームなどは微動だにしなかったし、コーラの入っているコップについている雫は真横ではなく、つーっとコップの底に向かって滑り落ちて行ったのだから。
「くそっ、いつまで続くんだよこれ!」
俺は強風に煽られる鯉のぼりの様に身体が真横になっていた。
そして、俺が抵抗しているせいか、引っ張られる力が段々と強くなっていく。
「くっ、もう無理だ……」
ドアノブを握っている右手から握力か無くなりはじめた。
「こ、これなら行っとけば良かった、沖縄……」
母ちゃんと親父の顔が過る。
「ごめん、母ちゃん……親父……もう、限界……」
とうとうドアノブから手を放した俺は、渦の中に飲み込まれた。
渦は任務完了と言わんばかりに部屋から姿を消し、主の消えた部屋の中では、次のコマンドの入力を待っているゲームの音がやけに響いていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ、ブックマーク、評価などもよろしくお願いいたします!