魔王財閥
「さて、今後の事を話す前に確認したい事があるんだ」
ダーメリックの応接室にあるソファーに着席するや否や、ワタルがララに視線を向ける。
その様子を見る限り、ララに対して何かを確認したいという事なのだろう。
ララ自身も、それに気づいたのか、ワタルの言葉に「何?」と返す。
「ララ。君はガレイスの手下にワザと捕まったね?」
「どうしてそう思うのかな?」
ララは何故か嬉しそうな、そんな顔をしている。
「君程の実力者が、いくら酔っていたからって、たかがチンピラに遅れを取るとは思えない」
「何でミーが実力者なの?」
「簡単な事さ、油断していたとは言え、君は【殺戮者】と呼ばれていたサクタを軽くあしらっていたからね」
そういえば、宿でララに投げられたんだっけ。
気が動転していたからあまり深く考えていなかった。
「「【殺戮者】!?」」
何故か、【殺戮者】というワードに食い付くララとダーメリック。
「え? 知ってんの?」
「知ってるも何も、オルフェン王国はアー君に対しても宣戦布告をしていたからね。カケルちゃんの様な強者が二十人以上いるという事で、戦々恐々としていたんだよ」
馬鹿だろあのデブ王……まさか、この世界全土に喧嘩を売っていたなんて
「まぁ、こっちにちょっかい出される前に滅んでくれたけど。てか、【殺戮者】と言えばその中でも最後まで生き残った三人……全員処刑されたって聞いていたけど」
「処刑される直前に元の世界に戻れたんだ。俺だけ……」
紗奈や三上も戻っているが、元の姿で戻ったのは俺だけた。
いや、もしかすると俺達が知らないだけで、他にも俺と同じ様な奴がいるかもしれない。
「じゃあ、ワタルは? ワタルも異世界の人なの?」
「うーん、僕は少しややこしいんだよね。ララ、君は僕の祖父の事を知っている様だし……」
「祖父?」
「僕の名前は、ワタル・タマキ。カケル・タマキの孫っていえば分かるかな?」
「――っ!?」
何か俺の時より驚いている様な……。
「ウソ? 本当に? カケルちゃんの孫なの?」
「あのカケル殿の……」
「厳密に言うと今の僕はそうだって言えるかな」
「どーいうこと?」
「僕はこの世界で一度死んでいるんだ。そして、祖父の故郷である異世界、日本に魂だけが渡った。そこで、この身体の持ち主であるフミトと融合したのさ」
「そ、そんな事があり得るの?」
「うん、あり得るんだ。僕達が何故魔王アーノルド・ルートリンゲンに会いに行こうとしているのか、その理由を伝えていなかったね」
あ、確かに。ただ、魔王に会いに行くとしか伝えていなかったな……。
「うん、正直何でアー君に会いに行くのか気にはなっていたけど、話してくれるまで待っていたんだ」
決して深く踏み込まない。
古い考え方かも知れないが、ララのこういった所が凄く良いと思う。
「魔王は、俺達の世界に魂を送り込んでいるんだ。その魂が、向こうの世界の人達に憑依して、暴れ回っているんだ。俺達は奴らを【憑依者】と呼んでいる」
「う、そ?」
「まさか、魔王様が……」
ララもダーメリックも信じられないという表情をしていた。
「本当さ。実際に僕も魔王に誘われたからね」
ワタルは、実際に魔王に勧誘された時の事を説明する。
「そんな、アー君が、なぜ?」
「カケル殿との一件以降、我が王は他国に攻め込むような事は……」
「だけど、実際に俺は向こうの世界で【憑依者】達と戦った。その中には、オルフェン王国の元戦闘奴隷もいた」
三上の事だ。
俺の言葉に、ララは俯き、何かを考え込んだ後、
「ユー達の事をアー君に送り届けるだけと考えていたけど、最後まで付き合う事にするよ。ミーもアー君の真意が知りたい」と何か決意した様なそんな表情をしていた。
「さて、話を戻すね。ミーがあの場所にいたのは、ワタルの想像通りだよ」
「目的はガレイスのコレクションかい?」
「うん、正解。ある筋からの情報で、ギムレットが人族に魔族の少女を送っているという情報を掴んだんだ。だから、ミーは、ワザと捕まってガレイスの屋敷に潜り込んだのさ。そこに、ユー達が現れ、事件を解決してくれた。助かったよ、その指輪がなければ、あの娘達の意識を取り戻す事が出来なかったからね」
「だけど、ララは【尋問の指輪】に引っ掛からなかった」
「それは、そうだよ。元々ミーはその指輪の効力を知っていたし、ミーの名前がララであり、商人である事。そして、ガレイスの手の者達に捕まってあの場所にいた事はウソじゃないからね」
確かに、言われてみれば……でも
「何で王妃様が商人をしているんだ?」
「ふふふ。元々クロアーデ家はこの大陸一の大商会なんだよ。アー君のお嫁さん達は、少なからず、この大陸で何かしら名のある名家の者達なんだ。謂わばこの大陸の全てを牛耳っていると言っても過言じゃないよ」
金融、運送、建築、鍛冶、農業等々、各方面で一番名のある家の娘を娶っているという。
財閥みたいだな。
魔王財閥……あんまり取引したくない相手に思えるのは俺だけだろうか。
「そういう訳なのさ。ごめんね、別に騙すつもりは無かったんだけど、色々説明するとややこしくなるから隠していたんだ」
ララは両手を合わせて、クリーム色の頭をペコッと下げる。
「別に騙されたとは思っていないよ。ララのお陰で、レウィの問題も解決したし、魔王にも会わせてくれるって言うし。少なくとも俺達にとってマイナスではないからな」
ララがいなかったら、こんなに早く事が進まなかっただろう。
未だに俺達は右も左も分からず、イトの町をさ迷っていたかも知れない。
「そう言ってくれると助かるよ」
それから、俺達はこれからのスケジュールについて話し合った。
読んで頂き、誠にありがとうございます。
上手いサブタイトルが思いつきませんでした……。
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