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許しはしない……けど

「もう、ダー君はせっかちなんだから」


 ララは、ほっぺをプクーっと膨らませ、ダーメリックをポカポカと叩く。

 この人は、本当に俺と同じ年頃の子を持つ母親なのだろうか。

 

 いや、考えてみれば母ちゃんもこんな感じだ。

 そんな事で納得してしまう。


「先程も申した通り、どの道こやつは処刑される身であります。それなら、少しでも早くレウィシア嬢の呪いを解いて上げた方がよろしいかと思い」

 

「それはそうだけどさぁ。もっと色々あるじゃん、生まれてきた事を後悔する位虐め抜くとかさ~」


 うぉっ、さらっと怖い事を……。


「まぁ、いいか。レウィちゃん、身体はどう?」

「いえ、まだ何も……で、でもあの薬を飲んだ時も時間が経ってから熱が出たので」

「そうか、少し様子を見てみよう。サクタのあの指輪の効果が違うとは思わないからね。それにしても、よく【尋問の指輪】なんて稀少な遺物を持っているね」


 うん? 稀少? 

 まぁ、真実を暴くという面で確かに凄い効果のある物だとは思っていたけど、ワタルがポンポンくれるから稀少な物だとは……。


「これって高いの?」

「サクタ……そんな事も知らないでバンバン使ってたの? 遺物には一~六等級とランク分けがされていて、使い道のない六等級の遺物でさえ結構値が張るんだよ。【尋問の指輪】は一等級。その指輪一つで、あの屋敷十邸は買えるよ!」


 ララの指差す方を見ると、恐らくギムレットの屋敷だろう……馬鹿デカイ迎賓館の様な屋敷が建っていた。


 あの屋敷十邸って……THE庶民の俺にとってあの屋敷一邸でも一生掛けて建てられるか分からないのに……十邸って……。


 鏡を見なくても分かる。

 俺は今真っ青な顔をしているだろう。

 そして、恐る恐る指輪の持ち主であるワタルを見ると、

 ワタルはいつもと変わらない涼しげな表情で、「気にしなくていいよ。君の役に立てるなら安い物さ。もう僕にはこの世界のお金なんて必要ないしね」と嬉しい事を言ってくれる。


 いや、日本で売ればと言ったら、「そんな事したら、フミトに迷惑が掛かるから」と言い首を横に振る。


 相変わらずの男前である。

 容姿も性格もイケメン。エリートで家柄も良い上に気前も良い。

 何だこの完璧超人は!


「ふふふ。良い友達を持ったねサクタ」

「友達と言うよりは、ライバルだけどな」


 ララの言葉に少し気恥ずかしくなった俺は、最大限強がってみる。

 まぁ、何だ。

 ワタルが良いやつなのは間違いないけどな。


「あ、あの……」


 そんなやり取りをしていると背後から、少ししゃがれた中年男性の声がした。


 振り返って見ると、目を真っ赤に腫らしたレウィの父親である、ランバルトがランディスの首根っこを掴んで申し訳無さそうに立っていた。


 ダーメリックが何か言いたそうにしていたが、ララが手を横に出して制す。


「何かな?」

「わ、私は愚かでした。ありもしない事に踊らされて、勝手に娘に失望し、拒絶し、トーレス家の恥としてこの手で……」

 

 ランバルトの両目から、再び涙が溢れ出す。


「今更だよね? ユーがしっかりレウィちゃんを守って上げてればこんな事にはならなかったんだよ? 別に髪の色が紫でも、魔法が使えなくてもいいじゃない。ユーにとって、レウィちゃんは可愛い娘なのだから」


「お父様」

「れ、レウィ……まだ、この、愚かな私を、父と呼んでくれるのか」


 レウィに呼ばれたランバルトは嗚咽交じりに答える。


「私がお父様達を許す事は金輪際ないと思います」 


 レウィの表情は酷く冷めたものだった。

 その言葉に、ランバルトの顔は絶望に染まる。


「だけど、お父様達を恨んだりはしません。あの一件が起きるまで、私に注いでくれた愛情は本物だと信じていますので……あ、兄様は別です、死ぬまで恨みます」


 許さないと言った時とは打って変わって、無邪気な笑顔。

 

 俺から見たら正直甘すぎると思うのだが、それがレウィの器の大きさなのかも知れない。

 いや、優しさと言うべきか。


 それから俺達は、ダーメリックの屋敷へと向かった。


 当主の命を持って償ったドゥオ家とは違い、トーレス家も何かしら罰が下されるだろう。ランディスも謂わばギムレットと同罪、かなりキツい罰が下されるのは間違いないだろう。自業自得だ。


 レウィは、トーレス家に戻るつもりはないらしく、しばらくは俺達と行動を共にしたいと言い出した。


 別に断る理由もないので、俺達は快く彼女の気持ちを受け入れた。


 ダーメリックの屋敷に着いたとたん、レウィはふらふらと倒れ込んだ。

 熱を帯びた真っ赤な顔は、凄く辛そうだったが、当の本人が「大丈夫です、あの時と、同じです」と声を振りしぼる。


 俺達に心配しないで欲しいと訴え、そのまま眠りについた。


 ワタルに魔法で何とか出来ないかと言ってみるが、レウィのこの現象は、病的な物ではないため自分に出来る事はないと言われた。


 客室のベッドに運ばれたレウィに付きっきりで居たかったのだが、恋人でもないのに若い娘の寝床にいるもんじゃないと、ララに注意され泣く泣くその場を離れる事にした。レウィの面倒は、屋敷のメイドさん数名で当たってくれるらしい。


 レウィの事は気になるが、取り敢えず俺達は今後の事を話し合う為に、ダーメリックの応接室へと通された。

読んで頂き、誠にありがとうございます。

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