貸し借りなしだべ!
「すごいべ、人族が青竜族様をあんなに簡単に!」
「んだべ、信じられないねぇべ!」
里の者達は興奮冷め止まぬ感じで、俺の方へと集まってくる。
「んだべ、サクタすげぇべ!」
「これで、貸し借り無しだからな」
俺の言葉にミミは、「うふふふ、気にするなって言ったべさ! だけど、それじゃあ、おめぇの気がすまなそうだし。よしっ! サクタの言う通り、これて貸し借りなしだべ!」
照れながら右手を差しのべる。
「だべ!」と、俺はミミの小さく柔らかい手を握り返す。
「いつまでミミの手を握ってるべか!」
タムタムが繋がれていた俺とミミの手を無理矢理引きちぎる
「男の嫉妬は見苦しいぜ?」
「うるせぇべ! とにかく、ミミから離れるべ!」
「はいはい、分かったよ!」
「その、なんだ、助かったべ……」
「うん? なんか言ったか?」
タムタムは、元から赤い顔が更に赤くなったかのようなそんな表情で、ボソボソと口を動かしている。
「助かったべと言ったんだべ! おめぇがいなかったら、ミミも里の皆もあの、青竜族に連れていかれてたべ……タムタムも無事じゃなかったべ」
「そっか! ははは。どうだ? 人族も中々やるだろ?」
俺はタムタムの肩に手を回し、ぐいっと引っ張り込む。
「やるどころじゃねぇべ! 規格外すぎるべ! どうすればおめぇみてぇな人族が……」
「そんなの気合いと根性だよ!」
としか言えね……言ってみれば俺チートみたいなものだし。
「気合いと根性だべか……」
うそ? 信じちゃうの?
もう後に引けない俺は「お、おう!」とだけ答えた。
いかん、話題を変えねば!
「そう言えば、お前さっきミミに告白したのに、返事聞かなくてもいいのか?」
「な、な、な、な、なにを言ってるべ? タムタムがいつそんな事を」
この里にいるみんなが証人なのに、往生際の悪いヤツだ。
しかも、誤魔化したいなら、クールになるべきだ。
そんな大慌てのタムタムの顔を下から覗き込むミミ。
「ミミ!?」
「タムタム、さっきのはウソだったべか?」
妙に身体をくねらせる赤兎が気のせいか可愛く見える。
「ウソじゃねーべ! タムタムはミミの事を愛しているべ!」
「ふふふ、ミミはおめぇの事嫌いだったべ。だけど、その言葉を聞いたら凄く胸の暖かくて、嬉しい気持ちになるべ。多分だけと、ミミもおめぇの事、満更でもねぇべ」
「ミミ……。ミミッ!」
さて、邪魔物は消えることにしよう。
抱き合いあってるミミとタムタムを置いて、俺は蜥蜴に近づく。
寸止めではあっが。ヤツの腹の中はエゲツない事になっているはずだ。
何か治癒薬の様な物がないか聞き回っていると、ギギが万能薬だと言って俺に木製のコップを手渡したきた。
雪兎族は、薬の調合にも長けているらしく、特にギギは、最高の作り手と言われているらしい。
俺の事情を交えて里のみんなを説得し、万能薬を蜥蜴に飲ませる。
ぱちんと目を剥いた蜥蜴は、まさか俺に助けられるとは思わなかったのか訝しげな表情を向ける。
「何で助けた……」
「言っただろ? お前とあれに用事があるってな」
「何をやらせる気だ?」
「俺をアイツでイトまで送ってくれ、めっちゃ急ぎで!」
トカゲがブルブルと震え、俺に向けて怒鳴り散らす
「俺様達を足にする気かッ!?」
「イトまで連れてってくれたら、お前らは家に帰っていいから」
「断れば?」
「諦めて大人しく森を抜けるさ」
「ーー !?」
「何をそんなに驚いているんだ?」
「驚くも何も、貴様はそれでいいのか? 人族は弱者に対してひどく残酷だと聞く。俺様を痛めつけても言う事を聞かせるのではないのか?」
俺は不思議そうにしている蜥蜴に小鼻を膨らませる。
「そんなダセー奴らと一緒にすんなよ! それは、弱虫がやる事だ。俺はそんな奴らとは違うんだよ。さぁ、決めてくれ。俺をイトまで連れていくか、とっととこの里から出ていくか。あっ、そうだ。この里にまたちょっかい出したら、地の果て迄追いかけてその首貰うからな?」
俺は最後に若干怒気を含む。
そんな俺の事を蜥蜴は真摯な表情で見つめる。
「分かった。貴様をイトまで連れていこう。そして、約束しよう。俺様は、再びこの里に足を踏み入れたり、この里の事は誰にも口外しない事を」
「良かった! 断られたらどうしようかと思ったぜ! 俺の名は咲太だ!」
俺はホッとした表情で右手を差し出す。
「フッ。ガンゲルグ、それが俺様の名前だ。そして、こっちはピッピだ」
ガンゲルグも右手を差し出し、力強い握手を交わす。
「よろしくな! ピッピも!」
「グゥア!」
ピッピとも良好な関係を築けそうだ。
「急いでいるようだし、すぐに行くか? 今出発すれば、遅くても明朝には到着するだろう」
「頼めるか?」
「任せておけ。ピッピ!」
ガンゲルグがピッピの名を呼ぶと、ピッピは乗りやすいように地べたに張り付く様な体制になる。
「行ってしまうべか?」
ミミとタムタムをはじめ、里の皆が俺の方へと集まってくる。
「すまねぇ、時間が無くてな。こいつもこの里にちょっかい出さないって約束したから、安心してくれ」
「そうだべか。急ぎの用事が住んだらまたこの里にくるべ!」
「あぁ。タムタムと仲良くな!」
あからさまにミミもタムタムも恥ずかしそうに互いの目を合わせようとしない。ただ、2人の手はしっかりと握られていた。
俺はそんな2人の様子に微笑ましいものを感じながら雪兎族の里を後にした。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
新作執筆中で、更新頻度が落ちてしまっております。
出来るだけ間隔を空けないで更新できる様にいたします。
ブックマーク、評価など。
何卒よろしくお願いいたします。