ハシャギ過ぎた代償
新章スタートです。
ハーヴェストの街を出航して多分六日が経過した。
多分と言うのは、今現在本当に六日が経過したのか定かではないからだ。
そこんとこハッキリさせるため、記憶を思い返してみよう。
最初の二日目までは生まれて初めての船旅という事で期待に膨らんだ胸の鼓動を止める事が出来ずにいた。
四方八方に果てしなく広がる青い海、客室のベッド、レストランの上手い飯と酒――見るものすべてに感動し、年甲斐もなくはしゃいで過ごした。
そんな俺の様子に、ワタルはやれやれと言った感じで呆れ果てながら読書に勤しんでいた。
レウィは、船酔いが酷いらしくベッドから動けない状態で、読書の合間にワタルから治癒魔法を掛けてもらい、大袈裟な言い方ではあるが、辛うじて生き延びていた。
――航海三日目
代り映えのしない海に飽き飽きし、狭い客室に息苦しさを感じ、馬鹿の一つ覚えみたいな品数の少ないレストランの献立――期待に膨らんだ俺の胸の鼓動を止めるには十分な環境だった。
そんな俺の様子に、ワタルはやれやれと言った感じで呆れ果てながら読書に勤しんでいた。
レウィは、船酔いに対する耐性がついた様でベッドからは解放されたが、まだ完全に船酔いを克服した訳ではないらしく、軽食なら口にする事が可能になった。
――航海四日目
俺の退屈は極限に至っていた。
もう船から飛び降りて、そのまま魔大陸まで遊泳しようとしたら、船員数名に全力で止められ、めっちゃ怒られた。
そんな俺の様子に、ワタルはやれやれと言った感じで呆れ果てる事はなく、かなり怒っていた……。
これ以上ワタルの機嫌を損なう事はできないので、俺は退屈を我慢して大人しくしていたのだが、そんな中、唯一の救いはララとの談話だった。
流石に大陸を股に掛ける商人と言うべきなのか、彼女の豊富な情報量と巧みな話術は、毎日聞いていても飽きることなく、俺達に有意義な時間を与えてくれた。
レウィは完全に船酔いから解放され、いつもの調子に戻っていた。
――航海五日目
この日は祭りだった!
ハーヴェストを出て四日目までは快晴続きだったのだが、この日は朝からポツポツと雨雫が落ち始めたと思ったら、まだ午前中にも関わらず夜の帳が落ちたかの様に辺りが闇に包み込まれた。
横殴りの豪雨に加え、なぜマストが折れないのか不思議に思う程の激しい暴風が吹き荒れ、船の数倍の高さはあるだろう荒波が幾度なく船を包み込む。船は今にも転覆しそうなくらい傾き、他の客室からはパニック混じりの悲鳴が聞こえるのだが、俺はアトラクションを楽しむかの様に大はしゃぎだった。
そんな俺の様子に、ワタルはやれやれと言った感じで呆れ果てながら読書に勤しんでいた。どうやら機嫌はなおったみたいで何よりだ。
てか、こんな時でも変わらず読書に勤しんでるってどんだけマイペースなんだ!
しかも、コイツ魔法で浮いてやがる……。
レウィはここ数日で戻った調子が嘘だった様にベッドから起き上がれず横たわっていて、本片手のワタルに治癒魔法をかけてもらっていた。
外はどんな感じなんだろう? ふとそう思ったのが間違いの始まりだった。
俺は自分の力を驕っていた。
荒れ狂う嵐の中でも、鍛え抜かれた俺の両足であればビクともしないと思っていた。
もし、海に落ちたとしても、俺だったら荒海の中を波のプールが如く余裕で渡っていける確固たる自信があった。
「ちょっと、トイレ行ってくる」
俺はそう言い残し、部屋を後にした。
甲板に向かった俺は、想像を絶するような光景に声を失っていた。
真っ暗な空からは、数秒単位で何本もの稲妻が駆け巡っていた。
荒れ狂う波は、まるで巨大な蛇の様にうねりをあげ、船を飲み込むかの様にその巨大な口を開いて襲い掛かってきていた。
その襲撃によって俺達の船はあらゆる方向に揺れるのだが、絶妙なバランスによって船は転覆を免れていた。
そんな状況なので、もちろん甲板には人っ子一人いなかった。
そう、俺を止める者はいないのだ!
「すっげええええ! なんじゃこりゃあああああ!」
俺は興奮冷めやらぬといった様子で、張り巡らされているロープを伝い船首へと向かった。
「うおおお! すげぇ! すっげえええええ!」
船首に辿り着いた俺は、身を乗り出し前方に拡がる巨大蛇の群れに歓喜した。
「こんなの見たいと思って見れるもんでもないぞ! ひゃっほー!!」
俺は調子に乗り過ぎていた。
興奮しすぎた事でアドレナリンが出まくって、まともな判断が出来ていなかったんだと思う。
パキッ!
「あっ……」
元々傷んでいたのか、俺の馬鹿力が凄いのか、身を乗り出していた柵が壊れ俺はバランスを崩す。普段であれば鍛え抜かれた体幹により余裕で持ち堪えるのだが、タイミング悪く船が上下に揺れ俺は海へと吸い込まれるように落ちて行き、波に抗う事も出来ず、俺の意識は途切れた。
――そして今に至る。
体感的には一日くらいしか時間は経っていないはず……。
「舐めてた……自然舐めてた……」
まさか、こんな事になるなんて……はぁ~これからどうするかな……。
「いや、それよりも……」
俺の今の状況だ。
「ここはどこだ?」
海に落ちたはずの俺が、なぜかベッドに寝かされている。
俺は上半身を起こし、キョロキョロと周りを確認する。
ベッドの周りには、木製の机とセットの椅子。
小さな出窓からは光が射し込んでおり、その眩しさに眉をしかめてしまう。
とりあえずベッドから出ようとしていると、ガチャッと部屋のドアが開かれる。
「あっれぇ、起きたべか? どこも痛い所はねぇか?」
俺の目の前に現れたのは、ピンと立ったウサミミを携えた白髪頭の老人だった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
色々悩みすぎてしまい時間がかかってしまいました。
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