紗奈の夏休み ④
予告した期日より更新が遅くなりすみません。
紗奈のパートも終りませんでした……(>_<)
裏路地を進んだ先には廃ビルと言われても納得がいく程にボロボロな建物が姿を現しました。
「ここですかー?」
「あぁ、ここの二階で零夜さんが待ってる」
そういって、瑠偉は我先と建物の中に入っていきます。
もちろん、建物にエレベーターは設置されておらず、アタシ達は階段を昇って一つ上の階へと向かいます。
建物の二階にはレトロな緑色の鉄製の扉があり、経年劣化のせいでしようか、所々塗装が剥れ落ち錆びが見えます。
瑠偉が備え付けの呼び出しベルを鳴らし「零夜さん、瑠偉です」と扉に向けて到着を報せると、ガチャ、ガチャと鍵が開く音がした後に、中から小太りの男が顔だけを出し短く「入れ」と親指を部屋の中へと向けます。
想像していたより広い室内を見渡すと、業務用デスクで忙しく電話を掛けている者、麻雀卓を囲んでいる者、筋トレをしている者、寝てる者と統一性が全然ありません。
いえ、皆が皆、明らかに全うな人生を送ってはいなそうな顔をしているという面では、統一性があると言えるでしょう。
普通の女の子なら震え上がる様な状況ですが……アタシにそんなものは無用です。だけど、隣で震えているつばささん同様怖がる素振りでもしましょう。
そんな中、ソファーに座り込み加熱式タバコ片手にスマホを弄る男に目がいきます。
明らかに他の者達と毛色の違う派手な見た目の男—―この男が噂の零夜だろうと、直感が教えてくれます。
まぁ、アタシの隣で目を輝かせているつばささんを見る限り、間違いないでしょう。
「零夜さん、遅くなってすみません」
「あぁ、別にいいよ」
手をひらひらと振り零夜は、涼しげな切れ目をつばささんに向けます。
「つばさ、僕、困ってるんだよ。君の掛けの為にこの怖い人達にお金を借りて、今日まで返さないと僕はこの人達に殺されるかも知れない」
「ご、ごめんなさい……でも、すぐには無理なの……八十万円までは用意できたんだけど……」
「僕が殺されてもいいの?」と零夜は泣きそうな顔でつばささんの両肩に掴みます。
「い、いや……いやだよ」
それにしてもこの零夜って男、よく言いますね。
殺されるかも知れない男が、我が物顔でソファーでふんぞり返っていますかね。
「そうだよね? 僕が殺されるのは嫌だよね」
「うん、いやだよ」
「なら、一回だけAVに出てくれない?」
「……えっ?」
「それなら、君が持ってきた八十万円と合わせて三百万がチャラになって僕は殺されずに済むんだ」
「そんな……AVなんて……私……」
つばささんは、明らかに狼狽えています。
ここまでですね。
「あのー、AVなんてあり得ないんですけどー」
軽い口調は未だに続いてます。
「うん? あぁ、君がつばさの友達の……紗奈ちゃんだっけ?」
「そうでーす」
零夜はアタシに近づきじっと目を見詰めて来ます。
一瞬、零夜の目が光り、アタシの脳内に何かが入り込んで来るような感じがしましたが……。
「つばさとの話がまだ終ってないから少し待っていてくれないかな? 君の相手はその次にしてあげるよ」
くくくっと笑いながら、零夜はつばささんの方へ振り向きます。
「あのー、別にアタシは貴方に興味なんてないので、相手してくれなくてもいいですよ?」
「――っ!?」
零夜は驚愕した表情を浮かべて、再度アタシに近づきじっと目を合わせます。
またもや、零夜の目が光り何かがアタシの脳内に入り込もうとします。
予想通りですね。この男は、他者を魅了する力を持っています。
何度もしつこくアタシと目を合わせようとするのを見ると発動方法は目を合わせる事なのでしょう。
アタシの身体はあの忌々しいオルフェン王国のせいで状態異常に掛かりにくい身体なので、心配ないでしょう。
「なんですか? 気持ち悪いんですけど~」
「う、うそだろ? あり得ない……」
先程まで気持ち悪いほどナルシストをきめ込んでいた零夜の顔は、面白いくらいにアホになっていました。
「つばさっちからきーたんですけどぉ、そもそもそのお金ってつばさっちを酒で潰して、勝手にボトル入れたのが原因ですよね? 自分達で勝手に飲ん全額こっちに請求するのはおかしくないですかー?」
「さ、紗奈っち、怖いもの知らず? この状況でよくそんな事言えるね」
クロスの言葉で周りをキョロキョロすると、先程まで統一性の無かった強面の男達が立ち上がってアタシの方を睨んでいました。
「アタシ、間違った事言ってないけどー?」
「ふ、ふ、ふざけんなあああ! 何なんだよてめぇはよ! どっちみちお前らはここで終りになんだよ! おい、早くこいつらをひん剥いて始めろ!」
アホみたいな顔から鬼の形相に変わった零夜のその言葉に、強面の男達がアタシ達に向かってジリジリと迫ってきます。
「零夜君……ウソでしょ? 違うよね? 零夜君はこんな事しない!」
「うっせーよブス! ウソもクソもあるかよ! てめーらはただじゃおかねーからな! 薬漬けにしてこの世界から抜け出せなくしてやるからよおおお!」
なんとまぁ程度の低い……メッキが剥がれましたね。
「つばささん、これがあの男の本性です。一旦、アタシの後ろに」
「うぅ……っ、そんな……零夜君……」
あぁ~これは重症ですね。
何とかつばささんに掛かっている魅了を解除しないとですね。
男達との距離が目と鼻の先になったその時――
「おいおい、テメェら何だせぇ事してーんだ?」
全員の視線が声のする入口の方へと向きます。
そこには、服の上からでも分かる程鍛え抜かれた体躯を持つ坊主頭の男が立っていました。両脇に先程路地裏でスレ違った二人を抱えたまま。
「何なんだてめーは!」
零夜が声を荒げます。
「俺か? 俺は、元【壊し屋】佐久間健一様だ! てめぇの悪事は、コイツらから聞いた! 大人しくその子達を解放するんだな!」
「ぷっ、何が【壊し屋】だよ? 聞いた事もねーよそんなダセェ通り名! おい、アイツからやっちまえ!」
「地元では結構有名だったんだけどな。まぁ、いいか」
【壊し屋】佐久間健一……あっ! サクから聞いた事があります。
こっちの世界に戻ってきて間もなく拳を交えた相手。
これは見物ですね。
いつも読んで頂きありがとうございます!
次こそは……終らせます!