第一章 『黒刃金』1
目が悪いのか、貧血なのか、あるいはその両方か。
ぼやけて歪む視界。
関節という関節がギシギシと、何か詰まっているように
固まっていて動かしにくく、無理矢理動かすと針を刺されたような
激痛が走る。
お腹も減っているが、それ以上に胃が焼ける様に熱く、痛い。
悪い部分ばかりのこの体、良い部分があるのかすら疑わしい。
レンガ造りの家の壁に身を預け、這いずるように裏路地から出た。
薄暗く、カビ臭い裏路地から、
刺すような痛みを感じるぐらい明るい大通りへと。
そこで目にした光景は、賑やかで華やか。
行き交う人々が、何故か羨ましく思えた。
服装的には中世ヨーロッパあたりに近いようで、近くない。
部分的に鎧つけてたり、魔法使いのような格好してるのもいたり。
どちらかというと、ベタなファンタジーの服装というべきか。
そんな人達が賑わう大通りへと出てきたのだが、
壁が無くなっているのに気付かずに、前のめりに倒れこんでしまう。
倒れた後に見た自分の腕は、枯れ枝のように細く色白だ。
贅肉が全く無い、皮の下はダイレクトに骨かと思える。
…少し包帯女を呪った。もう少しマシな死に方した奴に
魂を移してくれてもなぁ…と。
早い所、ルゥベルカの所に行きたいが、現状の優先順位は
自分自身だ。なんとかして体を…。
起き上がろうとしたが、ヤバイ位に言う事を聞かないこの体。
ほっといたら今日一日でお陀仏するんじゃないかと思えた。
なんとか近くの白い壁へともたれ掛かり、地面を力なくみやる。
体が思うように動かない、此処が何処か判らない、
知り合いが居ない、お金も食料も無い。
「無理ゲーだろ…」
本当に何でこんな体を選んだんだ包帯女…。
…いや、頼みごとを聞いてくれたんだ。
恨み言はお門違いだ。問題は今、何をどうするかだ。
…。 親父にサバイバル技術とか教えて貰っとけば良かったな。
いや、街中だぞここ。
よし無理だ。どうしよう。せめて体が普通に動けば…なんとか。
などと、現状打破を必死で模索する俺の目の前で、
キンと言う金属音が一度響いた。
何かとそれを見ると、一枚の金貨が落ちたようだ。
さらにその金貨に人影がかかっている。
…。俺は物乞いじゃない。こんなのでもプライドはある。
然し、これがあれば助かるかもしれない。
「拾わんのか?」
低く野太い男の声。この金貨を投げた人だろう。
俺は金貨よりも声の主を見た。
歳は40から50ぐらいの男性だろう、
白髪交じりの茶髪はボサボサで、皮製のプロテクターを
つけたチュニックに長ズボン。無精ひげも凄まじく、清潔さとは無縁。
その瞳は青く澄んでいて、見た目のイカツさとは裏腹に穏やかだった。
そんな男に俺は、言い返す。
「お…ね…は、はたら…ぐへ」
喉もやられてるじゃないか。言葉が巧く出せない。
この体の持ち主の記憶も引き継いでるらしく、言葉は問題無いようだが。
「ふん。金はいらんと?」
金は働いて手に入れるもんだ。 間違っても地面に投げられた金を
四つん這いで拾うなんて出来るか。
明らかな怒りを持って、彼を見上げる。
「ふむ…良い眼をしているじゃないか。
死にかけの分際で良い覇気だ…気に入ったぞ小僧」
「な…」
ひょいと片手でつまみあげられ、まるで荷物のように肩に担がれた。
服の上からだと判り難かったが、この人、筋肉すげぇ…。
「ふはは、これはいい拾いモンをしたもんかいな」
モノ扱いすんじゃねぇこのオッサン! と、反論して暴れたいが、
勝ち目ゼロなので、今はこの流れに従う事にした。
それから暫くして、大きい木造の家へと連れていかれる。
「おい店主。コイツにメシを食わせてやってくれや」
「ゼストーカさん? あらやだ…瀕死じゃない」
はい瀕死です。何故か危機感薄いんですが、瀕死なんです。
危機感薄いというか、余りの無理ゲーに諦め入っているというか。
危なくなったら包帯女が助けてくれるんじゃ? と、思っているのかも。
そのまま俺は店のオバサン…厚手のチュニック(緑)に白いエプロン。
それはいいとして、なんでオバサンはパーマあてたがるんだろう。
そこが不思議でたまらないが、椅子に下ろされた俺。
「何処から拾ってきたんだい?」
「ああ、其処の路地裏の入り口でぶっ倒れてた。
金貨恵んでやったら中々どうして殺意をぶつけやがった」
「まぁ、金貨を…って、あの状態で?」
「おおさ。そこが気に入ってな。
コイツは使える男になる。そう俺は見た」
「成程ねぇ」
使われる男になるそうです、俺。
テーブルに力なくもたれかかり、暫くしてほんのり甘い匂いが漂う。
目の前に木製の容器から立ち昇る湯気。この匂い、コンポタ!?
無理矢理に体を動かして、木製のスプーンを手に取り、口へと…。
いや、これも…。口へと運ぶ手前でピタリと止まる。
そんな俺を見てゼストーカと呼ばれた男が一言。
「自分の状態も判らなくなる。そんなプライドは捨てちまえ小僧。
施しが惨めか? なら今のテメェのザマはなんだ?
それ以下があるのか? 今のテメェはド底辺の糞だ」
う…正論過ぎて何も言えない。有り難くこの施しを頂戴する。
「うぐ…」
「今の自分が悔しけりゃ、這い上がれよ、小僧」
口に入れて飲み込んだ瞬間、胃が強烈に痛くなり、喉を焼くような痛みが
口へと昇ってくる。
「おげ…ぐうぇぁぁぁあ…」
少しだけ飲み込んだコンポタを吐き出し、あとは焼ける様に熱く感じる
粘ついた透明の液体のみ。
「げはっ…ぐ…はぁっ…く、は…」
「あらやだこの子。一体何日食べてないの…。
慌て無いで、少しずつゆっくり、ゆっくり噛んで
飲み込むんだよ。出ないと胃が驚いて同じ事になるから」
彼女の言う通り、俺は少しずつ口に含み、噛み砕き、飲み込んだ。
それでも幾度か吐きそうになったが、口を手で抑えて無理矢理飲み込んだ。
食わないと、マジで死ぬというのが判ったから。
食べるのと、吐くを幾度か繰り返し、なんとか完食。
その直後、強烈な眠気に逆らえず、テーブルに倒れこんでしまった。
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ひんやりとした空気に、小鳥のさえずりと、木々のざわめき以外、
何も聞こえない。とても心地の良い静寂。
目の前には見た事のある湖畔が広がっている。
此処は…まさか。 呆然として座る俺の横に、薄紫の長い髪をした少女が
寄り添うように座っている。
ルゥベルカだ。なんで? ここは? どうして?
困惑する俺に、コツンと頭を当てて寄りかかってきた。
…えと。なにこの状況。
第三者視点で見たら、俺は凄い挙動不審になっているだろう。
まず間違いなく目が泳いで、右手を上げたまま硬直してる。
肩を抱いていいの? いやそんなことしたら…と、葛藤している。
そんな中、不意に彼女と目が合う。
やはり、とても悲しい目をして微笑んでいる。
まるで何かを無理矢理押さえつけているような。
どうしようかと悩んでいると、彼女の頬に一筋の涙が伝う。
涙の一滴がポトリと地面へと落ちた。
「ごめんね…」
その言葉と共にルゥベルカは立ち上がるのだが、
その表情は、とても悲しく。微笑みは失われていた。
その瞬間、ルゥベルカの足元から闇が広がり、木も草も湖も空も蝕んでいく。
あたり一面が闇に染まり、彼女は溶けるように消えていく。
俺は彼女の名を呼び、立ち上がり、消え往くルゥベルカを掴もうと―――
「おい小僧。離れろ気持ち悪い」
「ふげ!?」
…掴んだのは筋骨隆々なオヤジさんの上腕二等筋だった。
慌てて離れると、自分がベッドの上だと言う事に気付く。
暫く、なんとも言えない空気が漂うが、
ゼストーカがゴホンと咳払いをして、尋ねて来た。
「テメェ、今。ルゥベルカ…と言ったな?
知り合いなのか?」
「え…あ、は…い」
「何だ、喉がまだ治らねぇかよ。
まぁいい。 はい、いいえ、で答えろ」
「は…い」
「テメェは凶彗星の娘と面識があるのか?」
「はい…」
「そうか。無理させて悪かったな。
今は、ゆっくり休め」
そう言うと、彼は部屋から出て行った。
何だったのだろう。判らない。
だが、先程の夢の事もあり、得も言えない焦燥感のようなものが、
胸の奥深い所でザワつく。
然し、現状どうにもならない、ただ早くこの体を治さないとだ。
それから十日程経ち、体力が僅かに回復し始めた頃。
俺はこの体の持ち主の記憶を探っていた。
妙な感覚といえばそうなる。
知っている事をわざわざ本棚から本を出して調べる、と言う感じに近い。
年齢は15歳。ルイエンと言う名で、ファミリーネーム無し。
物心ついた頃には一人だったようだ。つまり孤児。
この街はカーゼレンという港町で、主に海賊達の砦として有名らしい。
そして彼は子供の頃に闘技奴隷として拾われ、不治の病にかかる。
殺人病と呼ばれる風土病らしく、致死率100%…どんなだよ。
この病気は死ぬと治るらしく、現状で言えば彼は死んだので、
恐らくはウイルスか寄生虫だろうか、
判らないがそれも死滅したのかもしれない。
まぁ、病気にかかったので、捨てられたのだろう。
その後は行き倒れて死亡…か。
ありがたくも部屋で介抱される俺は、ベッドの上で考えていた。
今後どうやってルゥベルカの元に辿り着くかだ。
この少年の記憶には、凶彗星の娘に関する事がほぼ無い。
ただ在るのは、出会いたかったという強い思いと、
『黒刃金』という特異な力を有している事。
この世界の男。その一部は生まれ持って異能が備わっている。
その証として、右腕の何処かに黒い痣がある。
この少年もその一人。
然し黒刃金? と、軽く首を傾げる俺の耳に、豪快にドアを開ける音が
飛び込んできた。
「おう、小僧! 具合はどうだ?」
まだ少し喉が治りきらずなので、軽く頷いて、頭を下げた。
「そうか。…まぁ、早く治れよ?」
そうだ、この人は黒刃金について知っているかな?
と、俺は尋ねる事にした。
黒刃金。その言葉に彼は目を丸くして硬直する。
何か判らず、ただ俺は彼の返事を待つ。
「その力を所持して、知らないのかテメェ。
いや、凶彗星の娘と面識があるのも頷けるが…」
不信、その一言に尽きる。ただ訝しげな眼差しで俺をみやる。
「いや、殺人病に犯されて…生きている。
ふむ。で、テメェは片割れに会いに行くと?」
「片割れ…うん。喉も大分良いみたいです。
片割れというのが、ルゥベルカならば」
「そうか、行く当てはあるのか?
大陸クローゼアへは海を渡る必要がある」
…海を越えないといけないのか。
船に乗ろうにもお金も無い。知り合いも居ない。
大きく溜息をつくと、ゼストーカが俺の肩を叩いてきた。
「当ては無しか。なら話は早い。
小僧、商談…ビジネスだ」
そう言うと、ベッドが跳ね上がるかと思うような
体重が座り込んでくる。いやちょっと近い、近すぎる。
「商談…ですか?」
「おうよ。テメェは黒刃金。その力がマジモンなら、
闘技奴隷に出ろ。今の状態なら間違いなくオッズは偏る」
「それに勝てたら、連れて行ってくれるのですか?」
「おう。約束しよう。このカーゼレンの海賊が運んでやろう」
海賊なのか…、まぁ単純に黒刃金とかいう力で勝って、
オッサンは大金を手に入れる。その礼としてルゥベルカの居る
大陸へと送ってくれる。極めてシンプルなビジネスだ。
ありがたく礼を良い、今は体調を良くする事に専念した。
更に三日過ぎ、ようやくフラつきながらも、歩けるようになる。
幾度か外で黒刃金なる異能を試している。
重く、重く、ただひたすらに重く。
そう強く念じるとその意志の強さに比例して、重量と硬度が増す。
オッサンが投げつけた石が、俺の頭に当たるが、砕けたのは石の方だ。
逆に、軽くなれと強く念じると、重量が軽くなり、柔らかくなる。
軽く跳躍するとその異常さに気が付く、滞空時間が長い。
加えて降りてきた所に、オッサンが殴りかかると、宙に舞う羽のように
しなやかにそれを受け流す。
「おわー…前者は使い勝手悪いけど、後者はいいな」
「阿呆。前者こそ無敵の力。かつて凶彗星とその娘ともども
を滅ぼした力だ。テメェの力は空から落ちる星そのものだ」
「自前メテオかよ…命中精度悪そうだ」
などと言うと、軽く頭を殴られるが、
色々と細かく異能について教えてくれるあたり、良い人なんだなぁと。
そして更に二日過ぎて、俺は円形闘技場の中央付近に立っている。
目の前には健康第一を絵に描いたような黒光りマッチョが立っている。
上半身裸に膝まで届く半ズボン。髪は緑色でウドン、いや、ドレッドか。
普通に無理だろう? 殴ったらこっちの腕が折れそう。
周囲の客席もそう思っているのか、笑い声が聞こえる。
賭けにすらなってない、とか、大人と病人の戦いだとか。
最早これは茶番だ。などと声を張り上げて言う者も。
「少年、怪我したくなけりゃ、今からでも遅くないぞ」
親切心だろうか、リタイアを勧めてくれた大男。
然し、顔はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
少しイラッと来たのか、こう言い返した。
「いやぁ、すっげぇ美少女が待ってるんで…
さっさと終わらせて…むふふ。わかるっしょ?」
「テメェ…」
「いやぁ、モテ期到来ってやつ? え? オッサン過ぎちゃったの?
そりゃ御愁傷様。ちーん」
「遺言はそれだけか…」
煽った。変に警戒されてフットワークから小刻みに打撃を
叩き込まれると厄介。なので怒らせて大振りの一撃を打たせる。
それを受けきって、現状可能な最大重量で押し潰す。
という作戦の元、試合開始のゴングというか、鐘の音が鳴り響く。
ここで怒りに任せた渾身の右ストレート―――
「ぐはっ…」
気が付けば、彼の左拳が腹部にめり込んでいた。
余りの威力に体が宙に浮き、更に大ハンマーのような彼の右が振り下ろされる。
振り下ろされるが、なんとか身を軽くして、受け流し、着地。
それを見た大男が不思議そうに右拳を見たあと、コチラを見た。
「ちぃ…異能持ちか」
「御名答。けど、怒っても冷静とかすげぇな、マジ尊敬もんだよ」
「ふん。こちとらこれで生きてんだ。
つまらん挑発には乗らん」
互いに距離を取りつつ、間合いを…計るなんて出来無いので、
取り合えずそれっぽく動いていると、つまづいた。
「あ…しまっ…」
…おもっきりバランス崩してこけかけた。
なのに大男は様子を見て動かない…あぁ。罠かと思ってるのか。
このまま暫く膠着状態が続き、周囲からブーイングが…。
主に大男に向けての…だ。
異能に警戒しているのか彼は動かない。
そして俺も決め手に欠けていて動けない。
どうやって組み付こうか…。
などと考えて、彼から意識を離した瞬間、一気に詰め寄られ、
右の拳が腹を打ち、10M近くはなれていた壁まで一気に吹き飛ばされた。
背中をマトモに壁に打ちつけ、呼吸が出来無いし、手足も痺れてる。
何よりも痛みが激しく、吐き気まで…。
「うぐぇ…」
ガタイのわりに速度が凄い。瞬く間にまた詰め寄り、顔を鷲掴みにされる。
「このまま、顔を握りつぶされるか、
地面に叩きつけられて、踏み潰されるか、選べ」
両方とも御免だ。と言いたいのだが、息も出来無いし、言葉を喋れない。
ただ、彼の右腕を左手で掴み、右手で親指を地面へと突きつけた。
「負けず嫌いだけは褒めてや―――何!?」
掴んだ。思わぬダメージ喰らい過ぎたが、掴んだ!!
これを離せばもう勝機は無いだろう、ただ全力で重くなれと念じた。
「テメェ…まさかレーゼン…離せ、離せえぇぇぇぇええっ!!!!」
彼の残された左の肘や拳が幾度も俺の胴を打つが、
余りの硬さに破壊されたのは、彼の腕だった。
「ぐ…がぁぁぁあああっ!!!」
更には頭突きまで食らわしてくるが、前頭部では無く、顔面。
相当慌てているのか、幾度も幾度も顔面を打ちつけ、血まみれに。
そして俺は尚も重量と硬度を増し続け、ついに大男に膝をつかせる。
この男のプライドが倒れるのを拒んでいるのか、尚も抵抗するが、
両脚の骨が折れ、肉を突き破り、ついに地面へと圧し付けた。
その瞬間、勝負ありの鐘が鳴り響き、周囲から悲鳴ともとれた歓声が巻き上がる。
多くの人が両手を振り上げ、涙を流して喜び、中には倒れ込む人も。
「「レーゼン・レイヴ!」」
レーゼン・レイヴ? なんだそりゃ? と、ただ呆然と繰り返される
言葉を聞いていた。そんな中、観客席の最前列に居たゼストーカが
飛び降り、俺の傍へと駆け寄り、肩へと抱えあげた。
「ちょ…」
「レーゼン・レイヴの再来だ!!
我等の海を取り返す時が来たのだ!!!」
へ!? は!? ナニコレ!?
「訳がわからないよ!?」
「小僧!約束通り、クローゼアへと共に往くぞ。
そして、その往く手を阻む、
大海威『クレンヴェリス』を共に討ち果たそうや!!」
余りの展開に脳がついていかない。
俺はただ勝てば、船で連れてってくれると思ってたのに。
そういう商談じゃなかったの?
そういう商談だったの?
ハメられたぁぁぁぁぁああっ!!!
と、嘆くも、考えてみれば、海を取り返すと言っていた、
大海威とやらが居る限り、大陸間の航海は不可能だったのだろう。
ならば遅かれ早かれ…か。
諦めて俺は、酷く痛む右腕を掲げて、場の空気に合わせつつ溜息を吐いた。
その後、程なくして、俺はこの大陸を船で離れる事になるのだが、
離れていく港町から周囲へと視線を移すと、
何十隻いるんだろう、帆船の大艦隊。壮観だ。
彼との商談、一つ、勉強になった事があった。
あの言葉『カーゼレンの海賊が運んでやろう』
その意味は、良くもあり、悪くもあった。
いや、そもそも言葉の真意を見抜けない情報不足の俺が悪い。
海を渡るには邪魔者を排除しないといけない事、それを知らなかった。
少なくとも、感謝すべき事だろう。
俺はただ沈む夕陽に向かい、進む大艦隊に向けて、静かに頭を下げた。