2-6
「もしもしれっくん、今すぐ中等部の校舎に来て!」
カバンの中にこっそりしまわせておいたスマホで連絡をとる。
「おっ出番か!おっしゃあ!腕がなるぜ!」
……この人やっぱり戦いたいだけなんじゃ。
魔物化した、彼女たちから一旦距離をとり校舎内で逃げ惑う。
今回の2人は前のやつ見たく無差別に人は襲わない。
じゃあ狙いはなんだ?彼女達の負の感情の原因はなんだ?あの喧嘩?いやそれなら魔物になっても彼女たちは潰しあう。
「ミツケタ、サヤカチャン」
首を45度くらいに傾け、ハイライトの入ってない目で私を見つめてくる未来ちゃんだった物。
だが攻撃してくる様子はない。こちらに話しかけに来たようだ。
しかしなんで話しかけてきた。返答によっちゃ私はお陀仏してしまうわ。
「サヤカチャンはワタシのみかたダヨネ?ソウダヨネ?なんでワタシから逃げるの?ソンナメデミルノ?ワタシはワタシだよ?ただちょっと変わっただけ。いまのワタシヲ受け容れて」
「まって、未来ちゃん。私は未来ちゃんの友達で味方だよ。逃げちゃったのは謝るごめん。でも落ち着いて……」
「……コウフンナンテしてない!スコシダマレ!」
赤色の瞳がかっと開く。凄まじい目力でこちらを凝視する。
……魔眼か!体が動かない!
「ねぇ受け容れて、受け容れて。チョットワガママなワタシを受け容れて?サヤカチャンソレトモあいつの方がいいの?」
……応えようとしてと魔眼のせいで喋れなくなってるんでしょーが!もう理性が残ってないから仕方ないか!どうしよ、このままだと私死んじゃうよ!
「ミツケタ」
どこかから悲しい声が聞こえたと思ったら、黒いモヤがかかりギャイギャと魔物の声が聞こえてきた。
「チッ!アイツのシワザカ!……ヤメロ!」
未来は魔物に取り囲まれ、もみくちゃにされている。
「ミツケタワ、サヤカ。そしてオマエモ」
「ナカミナミ、オマエ……ワタシのサヤカチャンダゾ!」
未来の髪の毛が蛇のようにうねり中南の体にまとわりつく、中南の従える魔物は未来にかぶりつく。
そこらじゅうに響く魔物の悲鳴。
一旦危ないと思い、紗香はその場から立ち去った。
……なんで私がターゲットにされてるのよ!2人ともどうしちゃったの!
「ギャイイイ!」
逃げる先には中南が作り出す魔物が沢山いた。魔物は人にちょっかいを出し始めた。
「作り出してる本人は、他人に害を与えないのにコイツは無差別に人を襲うなんてね!」
手に木の枝を持ち、イメージしながら枝に念を送る。枝は剣へと変化し、私はそれを思い切り振るう。
「全く!あの二人を止めないといけないのに!コイツらに時間を割いてる場合じゃないのに!」
「……キエロキエロ!」
未来は息を思い切り吐いて、衝撃波を出す
「……ムダヨオマエコソシンデシマエ!」
中南は未来のいる場所の重力を重くし未来を潰そうとした。
あの二人の戦闘は激しくなり、建物が壊れ、近くの人々を巻き込んだ。
「このままじゃ、本当に死人が出ちゃう」
「ギャイイイ!ギャイイイ!」
疲れて少し立ち止まっていた紗香に魔物達がしがみつく。身動きが取れなくなり剣も扱えなくなってしまった。
……手にまとわりつかないで!これじゃ魔法も使えない!
やばい、大ピンチだ。みんなも死んで、私も死ぬ。魔物になった2人はあのままでほかの魔道士に殺される。絶望的状態だ。
……でもれっくんが来なくてよかった。
この状況じゃあの人私を守って死んじゃうもん。
目を閉じ、ここにいる人達へ心の中で謝罪をして私は殺されるのを待つ。
「……おいまだ諦めんじゃねえ!」
「ギャイイイ!」
魔物達が次々と悲鳴をあげて空に打ち上げられていく。
金属の音と魔物達の壊れる音が耳に入ってくる。
私にまとわりつく魔物も何個か剥がされた。
剥がされ視界が見えるようになった。
そうすると、私の瞳には金属のバットを持った赤髪の英雄が映りこんだ。
「れっぐん、じぬどぅごばっだよ!」
びえええんと泣きじゃくりながら、彼の方に走りよる。危ない所に助けに来てくれたのが嬉しかったのと死の危険から脱出することができた安心感を得て涙が止まらなくなった。
「すまない、お前が必要としている時にここに来れなくて」
その言葉を聞いて、私の心は暴走する。
思ったことが口からボロボロと出てくる。
「来なくてよかったって思ったけど本当はめちゃくちゃ来て欲しかった!助けて欲しかった!来るのがおぞいよぉ!」
アニメでよく見るグルグルパンチを食らわせながら大きな声で言った。
仲間と出会えた主人公。
けれどこういう展開があったら次にくるのは更なる試練と相場がきまっています。
「……サヤカチャンソレはダレ? ワタシイガイガサヤカチャンのトナリにイタャダベダンダヨ?」
黒い波動を、私達目掛けて打ってくる未来ちゃんだった物。もうだった物とは言えないくらいに黒い魔法に侵されていた。
うねる髪に魔眼、黒いドレスをまとった魔物。それはメデューサのようだった。
「れっくんごめん、そっちは任せる。早く浄化しないと彼女人間に戻れなくなる!」
「おう!雑魚は任しとけ!」
互いに目を見合わせ、ハンドサインを送る。
そしてそれぞれの戦場へと向かう。
「……ワタシのテシタヲザコヨバワリとはそれにオマエナゼサヤカト共にいる?」
「……何だかわかんねぇがお前もぶっ飛ばせばいいんだな、こいよ相手してやる」
遅れてやってきたもう1人の魔物。
黒いローブをまとい、魔物を従える冷たい魔法使い。
そのオーラに怯まず、烈斗は相手にバットを振るう。
「サヤカチャンサヤカチャン」
「……どうして、そんなにも私に執着するのさ。貴方は今何がしたいの」
狂った友達を元に戻すため、私は剣を振るう。
こんなに闇に落ちてしまった彼女を浄化するには少々手荒い真似をしなければならい。
剣を振るうと、彼女の髪の毛が私の手にまとわりつく。そのまま私を拘束し、剣を吹き飛ばす。
「ワタシ……アナタガカノジヨト、イツショニイルノミタ」
……!
「ワタシノコトヲイジメタカノジョ、ナノニアナタワカノジョヲキニカケルノ」
髪の毛で私の体を無理やり彼女の前に持ってこられ、その恐ろしい瞳で私を覗き込む。
「なんでなんでなんで!なんで貴方はそんなに優しいの!私は今の自分が嫌だった!酷いこと言われても何も出来ない自分が!少しくらいワガママになりたかった!中南さんを見て羨ましく思った!けど私はそうはなれなかった、だって1人になるのが嫌だったんだもん!彼女はあの性格だからいつも1人!なのに貴方はあの子に優しく手を差し伸べた!」
彼女の悲しき叫びは、狂った言葉ではなくちゃんとした人間の言葉で私には聞こえた。
そうか、私のせいか。私が彼女を陥れてしまったのか。
「私が欲しくても捨てたものを持ちながら私が失いたくない物を手に入れたあの子が憎い!私はどうすればよかったの!?」
「……そのままで良いんだよ」
私は少し考えてから、重々しいトーンで静かに言った。
……彼女を救うためのイメージはできた。
だから私は素直な言葉を彼女にかけた。
「ごめんね、未来ちゃん。貴方の抱えてるものに気づかなくて。でも大丈夫だよ生きていればなんとかなる何も確信はないけどね」
「サヤカチャン……」
「だからその悲しみ私が払ってあげる」