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……私も変わりたい。
なんでいつも弱気になっちゃうんだろう。
みんなの幸せを考えるといつも私が引き下がっちゃう。
今日だってせっかく勇気を出したのに、その後は何も言えなかった、手も出せなかった。
私は痛い思いをしたのに、何もやり返せなかった。
悔しい、悔しいよ!
私だってあの子みたいに不満をぶつけたい!
なんで私があんなこと言われなくちゃいけないのって!
ばーかばーか! 好かれてないだって?そんなの私もだっての! 可愛いから楽してる? そんなわけない!
私は可愛くない、そりゃあ多少は良い顔つきをしているよ、でも私のこと悪くいうあの子だって良い顔つきをしてるよ!
私のこと劣ってる人間に失礼だって言ってるけど自分はどうなのさ!
自分だって失礼じゃないか!
……なんて直接言えたらいいのにな。
ジャーン!とピアノを叩くように引き終わらせる。
あんなことを考えてたから、演奏も暴力的だった。
「……ねぇ言峰さん何かあった?」
隣でピアノを弾いていた、少年に話しかけられた。
いつもなら何でもないと答えるけど、今日はなんだか人に優しくされると話を聞いて欲しいとワガママになってしまった。
「……陽一くん実はね、私今日学校で嫌なことがあったの」
「そうなんだ……あっそうだ! ならこれあげるよ!」
彼はチリンチリンと鈴を鳴らして見せた。
「いい音だね、でもこれ何?」
「最近はやってるおまじないグッズ。これが割れると自分の心配事が全て無くなるって話さ」
「へぇー……いいの? 本当に貰っちゃって」
「うん、流行ってるから何個も買っちゃっただからあげるよ」
「ありがとう、大切にするね」
そう言って未来は鈴をカバンにぶら下げた。
「紗香、焼き鳥いっこくれ」
唐揚げを頬張りながられっくんは私の串にかぶりつこうとする。
「えー! その唐揚げ1個と交換だよ! あっ! 勝手に食べないで! 喉に刺さるよ! あー! 食べちゃったよこの人!」
「中々のもの、作ったやつは天才だな」
「ちょっと! 幸せにもきゅもきゅ食べないでの! 唐揚げ貰うからねれっくん」
「あー! ちょっそれ大きいやつ!」
「焼き鳥の恨み果たしたり……あれ?あの子は」
目線の先の雑貨屋の前でうろつく見た事のある茶髪。
雰囲気から冷たさが漂う女の子。
げっと思わず声を出すほど嫌な奴だと思い出す。
話しかけようか……いやでもうーん。
「なんだ知り合いか?」
「今日の事件に凄く関わってる子」
「なら、話に行くか。落とし前付けようぜ」
「れっくんが行ったらややこしくなっちゃうでしょ私が行くよ」
勇気を振り絞って店の中に店の中に入る。
そして気さくに話しかける。
「あっ中南さん! 偶然だね! 何買うの!?」
私の声をきいた相手は嫌そうな顔をして振り返る。
やってしまったと思ったけどめげずに笑顔を保つ。
そう!れっくん精神を見習って諦めない!
「……これ恋愛のチャーム笑わないでよね」
諦めないで笑顔を見せ続けた私を見て、少しため息をついて少しそっぽを向いて照れながらそう言った。
諦めなかったおかげで、少し印象が良くなって答えを返してくれた。
やったね。諦めなければ思いは伝わるんだ!
「笑わないよ!そっか好きな人いるんだ!叶うといいね!」
すると相手は驚いて、クスクスと笑いだした。
「貴方って変わってるのね、……今日はごめんなさい。私恋愛になると周りが見えなくてそれでよく友達を失うの」
「うんうん、気をつけた方がいいよ。私の師匠も言ってたけど気をつけなきゃ恋愛は身を滅ぼすよ」
「ふふっ、気をつけるわ。じゃあレジに行くわさよなら東雲さん」
ふふっと笑顔をみせてレジへと向かっていった。なんだか氷がとけて春がやってくるような気がした。
「すいません、これくださいあとこれも」
「……毎度あり、早くつけるといい。そうするとすぐ願いが叶う」
中南さんはチャームをカバンに2つともつけ軽い足取りで帰って行った。
「大丈夫だったか?喧嘩になってないか?」
「うん、なんか仲良い感じになった」
「意外だな、そういうタイプの女ってヒステリックに騒ぐと思ったぜ、声が聞こえたら一発殴りに行こうかと思ってたとこだ」
「ダメだよれっくん女の子に手を出しちゃ」
「俺は男女平等主義」
「うわーれっくんだからモテないんだよ」
……初めて女の子と普通に喋れた。
嬉しいな、私も少しはかわれたのかな……。私もあの子みたいに優しくて素敵な子になりたい。けど無理だ。私には。
言葉一つ一つに刺がある。今日だってあの女の子に酷いことをしちゃった。本当ただ恥ずかしい話だったから誰もいないところで聞こうとしただけなのに……自分が嫌いだ。直ぐに嫌な気分になって喚く自分が嫌いだ。
あの子みたいにいつも笑顔で私にだって優しくしてくれるそんな心が欲しい。
……胸が苦しい。自分を悪く思うと駄目だ。
チャームに自分を変えたいと願い今日はもう寝よう。