表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サヨナラ銀河鉄道  作者: 響 嵐
1/2

喫茶店 イーハトーブ

夜をかける銀河鉄道と、オフィスひしめく街にある小さな喫茶店。

二つの間を行ったり来たりする「私」と、「私」を取り巻く人々の物語。

 ビルがひしめくオフィス街の片隅に、その喫茶店はあった。

 三階建てのこじんまりとした建物に看板が一つ。名前は「イーハトーブ/銀河鉄道購買部」

 扉を開けると、そこにはカウンター席と右手の窓側に席が二つあるだけの、とても小さな喫茶店だ。

 二階には小さなギャラリーがあって。そこは不定期ではあるが個展等をやっている。


「いらっしゃいませ」


 私は、そんな小さな喫茶店の、しがないマスターだ。

 このお店にくるお客様は多くはない。大体が常連の方か、サラリーマンかたまに学生。ごくごくたまにそれ以外の、例えば夫婦とか、お友達とか。がよく来る。


「マスター、今日のお勧めは?」

「本日はクロックムッシュです」

「いいね、それもらうよ。お前はどうする?」

「同じのでお願いします」


 今日は会社の先輩後輩らしき二人組。先輩は「ここの珈琲は美味しいし穴場なんだぜ」と得意げに胸を張った。

 後輩もきょろきょろとあちこちを見つめている。


「あれ?二階もお店なんですか」

「二階はギャラリーになっておりまして、今日はお休みなんです」

「たまに面白いもの売ってるんだよな」

「へー」


 話している間にクロックムッシュは出来あがり、珈琲とサラダと共にお出しする。

 二人は美味しそうにそれを平らげ、珈琲を飲みながら午後の打ち合わせを始めた。

 どうやら営業先にあいさつ回りに行くらしい、後輩らしき青年は緊張してるようだ。


「大丈夫だって、俺を信じろ」

「先輩。それ昨日も言ってましたよね」


 それを合図に二人はひとしきり笑っていた。


「はー、じゃあ行くか。マスターごちそうさま」

「ごちそうさまでした。凄く美味しかったです」

「ええ。またお越しください」


 二人組はお店から出て行った。彼らはまたやってくるだろう、そんな予感がする。

 食器をかたずけ、珈琲でも飲みながらのんびりと新聞でも読んでいるとカウンター席にふわりと何かが舞った。


「博士」


 私が博士と呼んでいる猫はとても大きく(おそらく雑種だと思うのだが私は猫に詳しくない)黒いたっぷりした体毛のせいか更に一回りも大きく見える。


「マスター、お腹が減ったので食事を所望したいのですが」


 その猫の口から、セロの音色のような低く落ち着いた声が流れた。

 博士。ブルカニロ博士は先代からこの店にいる古株猫で、私はとても逆らえない。


「昨日のささみでいいですか?」

「ええ、お願いします」


 冷蔵庫に入れてあるささみのフレークに軽くスープ(猫用のものだ)をかけ、お出しする。

 博士は満足そうに鼻をひくひくさせて食べ始めた。私も珈琲を一口すする、うん自分が淹れたものではあるがとても美味しい。


「時にマスター、今日はあちらに?」

「ん?ええ、今日は確か牡牛座に停車する予定と聞いているので」

「成程。何をお出しするつもりで?」



 博士は顔を上げて期待の眼で私を見る。どうやらあちらで出すおやつがご所望の様らしい。

 私もそういえばそろそろそれを考える時間か、と思いつつ何にしようか。と宙を眺めて。そして思いついた。



「そうですね、ドーナツでも作ろうかと」

「ドーナツ!!素晴らしい、あの穴には神秘がたっぷりですからねえ」


 ぴんと耳としっぽとひげを伸ばした博士は嬉しそうにつぶやく。よっぽどドーナツが好きらしい。

 これはたくさん作るしかなさそうだ。私は頭の中で材料の算段を付けながら新聞読みを再開する。



 喫茶店は結局、あの二人の若者以外お客が来ることがなかった。

 店の立場上、それでも給料自体は変わらないのだが、なんというか、とほほな気分になる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ