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6戦






 そんなこんなで、シャルルのお父様へ話が通されて三日。

 我がエルシャット家は、まるで葬式でもあるのかというような雰囲気を漂わせていた。


 シャルルのお父様はとてもお忙しい方で、一人息子であるシャルルを心配しているものの、そうそう職場を離れられない。かといって、こちらから王都へ向かうにも少々問題があるらしかった。両親とシャルルはその理由を知っているようだが、私には教えてもらえなかった。まだ早いと言うことらしい。

 シャルルも自分のことなのに言いたがっていないようなので、じゃあ今度とその話は終わった。


 話を戻そう。


 すぐには会いに来られないシャルルのお父様は、エルシャット家からの手紙の内容を「何を馬鹿な」と一笑に付したりしなかった。

 にわかには信じがたいがと注釈はついていたらしいけれど、お父様がそんな洒落にならない嘘をつくことはないだろうと信じてくれたのだ。お父様への信頼が凄い。まあ、シャルルにお父様呼びして貰いたくて、私やシャルルがとっくに卒業したギャン泣きを披露する人だ。疑いようがないとも言う。


 シャルルのお父様からは、我が家に速達で小包が届いた。手紙を出して一日半の頃だ。



 返信と一緒に届いたその小包には、綺麗な腕飾りが二つ入っていた。お守りなのだそうだ。

 透明で色とりどりの石は、ちょうど私の手首を一周するほどの大きさだ。石の数は一つの腕飾りに十四個あった。

 これらは一個一個が身代わり石と呼ばれる貴重な魔石だ。貴重といっても自然界から採れるものではなく、魔術師が作り出す物である。だが、制作に手間暇と莫大な魔力が必要な為、作れる魔術師が極端に少ないのだ。

 だから、王族や名のある貴族しか持っていない。私も初めて見た。


 大変貴重な物だから、王様でさえ三つの石がついた首飾りしかしていないのだそうだ。それなのに、私の為に二十八個。

 これだけで、信じがたいと言いつつも、シャルルのお父様がちゃんと考えてくれていることが分かる。シャルルがいつも、現場にいないからその場では全く役に立たないけど、ちゃんと大事にして貰っていることは分かってる、と言っている意味が何となく分かった。同時に、現場にいないからその場では全く役に立たないことも。



 まあそれはともかく、そんな貴重な物を頂いた私達は、申し訳ないと思うと同時にほっとした。私の言っていることの信憑性はともかく、一度死にかけたのだ。保険はあるに越したことはない。

 そう意気揚々と過ごして、一日半。エルシャット家では緊急の家族会議が開かれた。




 私の前には、全ての石に罅が入った一つの腕飾りがある。無言で二つ目の腕飾りに付け替えた。


「十四回……僕の可愛い娘が十四回死んだ…………ぼぐのがわいいむずめがぁ!」

「え……待って……一個いくらになるのかしら……一日半で十四個……三日で二十八個? ……一年でざっと三千四百個……どうやって捻出しようかしら……私も内職をして、屋敷を売って……? いえ、子爵の地位を手放しては余計に払えなくなるわね…………ミーシアはいま六つで、百まで生きるとして、三十一万九千六百個、大体三十二万個と考えて………………分かったわ。星の数ほどの金貨を用意すればいいのでしょう! あなた、出世しましょう! 目指すは公爵ですわ! 大丈夫! 遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁の遠縁くらい探せば、どこかで公爵への道も転がっていますわ!」

「がんばるぅうう!」


 資金調達に燃えるお母様と、顔面べしょべしょに濡れるお父様は、それぞれ両手の拳を握りしめた。それ知ってる。がっつぽーずっていうのだ。


 お母様は、最初は一個いくらかを心配していたのに、最終的には四百個を誤差として大雑把に数えている。理解の常識を越えた数は、こうして略されていく。



 そんな二人と向かい合って座っている私とシャルルは無言だ。シャルルはずっとビシビシに割れてしまった腕飾りから視線を離さない。離さないし話さない。黙りこくったまま、腕飾りを睨んでいる。


「あはは……どうしよっか」


 私も肩を落してしまう。







 これで一安心。そうにこにこして部屋を出て、階段で足を滑らせた。目を見開いたシャルルに手を伸ばすも、残念私達の手はどちらも短い。結局見事階段から転がり落ち、一個割れた。

 このときは物理的に割れたのだと思っていたが、いやぁ失敗失敗勿体ないことをしたと反省し、今日は大人しく空でも眺めていようとシャルルと一緒に窓から外を眺めていたら、空高くから落ちてきた石が私に当たって石が割れた。ややこしい。

 どうやら鳥のいたずららしいが、いたずらで死にかけた……実際には死んでいた私は笑えない。


 ならばもう引きこもろうと、シャルルの聖地図書室で一緒に過ごし、何故か急に倒れてきた棚の下敷きになって一個割れた。

 仕方なしとシャルルと一緒に部屋に引きこもれば、何故かいた毒虫に刺されて一個割れた。この辺りには生息していないはずの虫だったのに、本当にどこから入ってきたのだろう。

 終いには、何もしていないのに突然割れた。シャルルと話しているだけだった。結婚したら、自分達で家の規則を決められるから、おやつの時間は一日三回にしようねって約束したら、石が割れたのだ。



 その瞬間、シャルルは酷く傷ついた顔をした。私はそんなシャルルに傷ついた。シャルルのそんな顔を見たくなくて、慌ててシャルルを自分の胸に抱き込んだ。そうしてまた一つ、石は割れた。



 そんなこんなで、私の石は二日と持たず全部割れてしまった。防御力が失われた私は、ただのアルテミシア・エルシャットである。

 私の命、危うし。


 いざというときの予備にしましょうとお母様が言っていた腕飾りを無言で装着した。そして、一日半で十四回死にかけた私を全て目の前で見せられたシャルルの精神の安定も、大概危うかった。



「お父様、お母様」

「なあに?」

「なあに?」


 拳を握って金策に燃えていた両親は、シャルルからの呼びかけにころっと笑顔を見せた。その顔は嬉しそうに綻び、頬は赤くなっている。喜びの興奮は顔色を明るくし、さっきまで見せていた青ざめた色はどこにも見られない。

 その変化に、シャルルも頬を赤くした。あなたが好きよ、大好きだよとこうもあからさまに見せられているのだ。照れないのは難しいだろう。


 ……あれ? おかしいな? 私が呼ぶといつも、何やらかした? ん? 言ってごらん? 何やらかした? んん? って顔が返ってくる気がするけど気のせいかな?



「僕も、あの人に手紙を書きます」

「あの人だなんて呼んだら、彼も泣いちゃうよ……僕だったら、そう呼ばれたと思うだけで、おもうだげでぇ」

「お、お父様も手紙を書かれると思うので、それと一緒に出して頂けますか!」


 またじわりと涙ぐんだお父様に、シャルルは慌てて続きを告げた。確かにお父様は、私の現状を書いた手紙と砕けてしまった残数0の腕飾りを送る予定だとさっき言っていた。それと一緒にシャルルの手紙を送るくらい容易だろう。


「あと……僕………………あの人、父親が来るまで、ミーシアと一緒にいないようにします」

「ええ!?」


 予想だにしていなかった言葉に、黙って二人の会話を聞いていた私の声が跳ね上がる。突然なにとんでもないことを言い出すのだ。

 びっくりして何度も大きく瞬きする。そんな私を、シャルルはまっすぐに見つめていた。手が伸ばされて、反射的に握る。ぴしりと、石が割れた。それを見たシャルルの顔も、割れたようにくしゃりと歪んだ。



「僕といると、君、死ぬんだ。だったら、僕は君といない。少なくとも、それに対する対しょ方法が見つからないかぎり、ぜったい一緒にいない!」

「え……やだぁ――!」


 呆然として、理解が少し遅れた。その言葉の意味を理解した途端、私の口からは絶叫が漏れた。悲鳴のように叫んだ私を一度も振り向かず、シャルルは部屋を飛び出した。


「やだ! やだぁ! そんなのやだぁ! シャルル、やだ、いや――!」


 追いかけようとした私を、お母様が止めた。お父様は慌ててシャルルを追いかけて飛び出していく。

 お母様の手を振りほどこうとしてどんなに力をこめても、その腕はびくともしない。


「お母さま、はなして! お母さま!」

「貴女もシャルルも、ちょっと落ち着きなさい! シャルルのことはお父様に任せて、貴女はお母様の話を聞きなさい! いいわね!」

「いや!」

「おやつ抜きますよ!」

「っ…………ルルと食べられないなら、おやつなんて、いらないもん!」

「それはシャルルも同じでしょう。貴女達、少し落ち着きなさい! 親の前で愁嘆場演じるんじゃありません!」

「じゅうだんばっでなにぃいいいい!」


 卒業したはずのギャン泣きが戻ってきてしまい、わんわん泣きわめく私を、お母様はやれやれとだっこして慰めてくれた。





 結局シャルルは、昼食にも夕食にも顔を出さなかった。自分の部屋に閉じこもったまま一歩も出てこない。部屋を訪ねようとした私は両親に止められた。


 シャルルの言い分も否定できない。だからひとまず今日はシャルルと会わずに過ごして、石の割れを確認してみなさいと言うのだ。

 何よりシャルルは言い出したら聞かない。それを覆したければ、納得させるだけの材料がいる。

 そう言われ、私はぶすっとしたままお母様と食事を取った。お父様はシャルルと一緒に食べるのだそうだ。出来るだけ食事は揃って頂きましょう。エルシャット家の家訓である。




 その日は、両親と同じベッドで眠った。今の私を一人にするのは心配だとのことだ。両親と眠るのは随分と久しぶりだけれど、ちっとも嬉しくなかった。だって、大きくて温かい身体に抱きしめられて、ぬくぬくすればするほど、シャルルはいま一人で丸まっているんだと胸がしくしく痛むのだ。


 虚ろな瞳で、部屋の中をうろうろしていたらどうしよう。枕すら持たず、冷たい場所で丸くなっていたらどうしよう。私が来るのを待っていたらどうしよう。私を探していたらどうしよう。いつのまにか私からのだっこを当たり前のように受け入れ、寒ければ擦り寄ってくる、自分と同じ体温のシャルルを思い出したら、じわりと涙が滲んできた。


 それを拭った腕に嵌まった腕飾り。石はまだ三つしか割れていない。全部割れてしまえばいいと思った。どうして割れていないのだと腹立たしい。全部割れてしまえばいい。それなら、シャルルは一緒にいてもいなくても変わらないと思ってくれるのに。



 シャルルがいないなんて嫌だ。シャルルと一緒にいられないなんて嫌だ。死んじゃうより、もっともっといっぱい嫌だ。

 シャルルと遊びたい。シャルルとおやつ食べたい。シャルルと本を読みたい。シャルルとかけっこしたい。シャルルと手を繋ぎたい。シャルルといたずらしたい。シャルルと雲の形の当てっこしたい。シャルルと眠りたい。シャルルとお話ししたい。

 シャルルに、会いたい。


 シャルルがいないと、私、いっぱい泣き虫になるのに。なのに、ここにはシャルルがいない。シャルル、もう私と一緒にいないって言った。



「ふ……」

「ミーシア?」


 眠っていたお母様とお父様が身動ぎした。起こしてしまった。でも、無理だ。だって、シャルルが、私ともう一緒にいないって言った。


「ルルが、私と、ぜ、ぜった、ぜったい、いっしょにいないって、言ったぁ……」

「ああ、もう、時間差で衝撃が追加されるのね、貴女は」


 お母様は苦笑して、私のほっぺたを両手で包み、額にキスをした。お父様は枕元にあった紙を取って鼻をかんでくれる。


「シャルルは、対処法が見つかるまではって言ったでしょう? 貴女だってつらいでしょうけど、シャルルだってつらいわよ。自分といると貴女が死んでしまうだなんて、絶対に許せないことだもの。シャルルが貴女のことを大好きだから、許せないの。分かる? 貴女だってそうでしょう? 貴女が一緒にいたらシャルルが死んでしまうのなら、貴女はどうする?」

「…………ぞのりゆうを、なぐりに、いぐ」


 ずびっと洟を啜る。シャルルは大人しくて、女の子みたいに可愛いから、屋敷の外に遊びに行けばよくからかわれた。

 そのたび、家から分厚い本を持ち出していじめた子を撃退してきたのは私だ。シャルルは本がそんな使われ方をすることに悲鳴を上げていたけれど、私は本よりシャルルとシャルルの名誉が大事なので問答無用でいじめっ子に叩きつけ、勝利を収めた。

 彼の敗因は、貴族の女にはこれでいいってと豪語し、貧弱な木の枝を武器としたことであろう。貴族には貴族の戦い方があると知らなかった彼の拙さが、彼を負けさせた。金に物を言わせて物理で殴る。貴族の戦い方は強いのだ。



 その後、本も箒も木の棒も全部禁止されてしまったときは椅子を武器に戦った。自分の身体より大きな椅子を引き摺りながら現れた私に、いじめっ子はその場で降参を申し入れた。私は貴族として、その降参を受け入れた。貴族には寛容さが必要なのだ。私は立派な淑女なのである。



「…………僕の娘はガキ大将」

「あなた、嬉しそうな顔をしないでください」


 お母様はきっぱりと言った。


「……でも今は、ルルに、おこってる。だって、ルル、私の言いぶん、ひとつもきいて、くれなかった」

「いいこと、ミーシア。シャルルだって貴女を死なせる理由を殴りにいきたいけれど、まだその理由が分からないの。だから、色々混乱するし、手順を間違うこともあるし、貴女を傷つけることだってあるわ。だけどそれは、どんなことでだって一緒よ。皆、色んなことが手探りなの。一杯一杯で相手を慮ることが出来なくなって、自分の気持ちだけで行動しちゃったり、説明不足だったりするし、相手の理解まで請け負えなかったりするの。それを責める権利は勿論あるけれど、責めない選択もあるのよ。許せないことは許さなくていいわ。けれど、許せることを執拗に責めては駄目よ。相手を傷つける為に言葉を放つことは絶対にしては駄目……拳は勿論駄目よ? いいわね? 拳は駄目よ? 拳は勿論だけれど蹴りも駄目よ? 投げても駄目よ? 噛みつくのはもっと駄目よ? いいわね? 分かったわね? 令嬢として、女の子として、人間として駄目よ? 野生動物じゃないんですからね? 分かったわね?」


 私がルルを懸けていじめっ子と繰り広げた戦闘内容を何度も繰り返し制止したお母様は、私の頭を丁寧に撫でた。


「それを踏まえた上で、あなたはシャルルに会えたらどうする?」


 お母様はいつも、私やシャルルに分かりやすいよう言葉を選んでくれるのに、時々難しいことを言う。だけどそういう時は、とっても大切なことを言っていると知っているので、私は一所懸命考えた。考えて考えて、うんうん唸って考えて。

 辿り着いた結論は、一周巡って最初に戻った。


「大すきって、言う」


 ぴしりと、石が割れた。







 同時に、何やら屋敷が騒がしくなる。こんな時間なのに、あちこちに明かりついていき、人の気配がどっと増えた。お父様とお母様は顔を見合わせ、身体を起こした。


「どうしたんだろう。僕、ちょっと出てくる」


 上着を羽織り部屋を出ようとしたお父様が開けようとした扉が、激しくノックされた。


「ひぃいいいい! お化けぇええええ!」


 飛び上がって驚いたお父様は、べそを掻きながら後ずさりをした。

 なるほど、昨今のお化けはノックをするのか。なかなか自己主張の激しいお化けである。


「誰がお化けだ、グーリン」

「へ? その声」

「入るぞ」


 ぽかんとしたお父様の返事を待たず、扉が開かれた。寝室の扉を主の返事を待たず開けるのは失礼だ。だけど私は、そんな常識を一瞬忘れてしまった。



 そこにいたのは、黒髪の男の人だ。大きなフードのある外套を羽織っている。

 綺麗な人だなと、思わず見惚れた。だってその顔は、シャルルをそのまま大人にしたみたいだったのだ。


「あらまあ、イシューじゃない。貴方忙しいのに、大丈夫だったの?」

「先触れもなく申し訳ないと思っているよ、アディリーン。事態は急を要するようだと思って…………ああ、君がアルテミシアだね」


 男の人は、お母様に抱かれている私を見てふわりと微笑んだ。そして、ベッドの横に膝をつく。お母様はそんな男の人の前に私をよいしょと置いた。もう、重くなってと文句を言われたけれど、成長とは中身が増えて重たくなることなのでもっと喜んでほしい。


「こんばんは、アルテミシア。君とは赤ん坊の頃に会ったきりだから、僕のことは覚えてないだろうね。シャルルを預けに来たときは、君は眠っていたしね。僕はイシュー。シャルルの父親だ。お近づきの印に、これを受け取ってくれ」


 シャルルのお父様だったのか。道理でシャルルによく似ている。

 イシュー様は、きょとんとしている私の首に何かをかけた。手に取って見ると、沢山の身代わり石がついた長い首飾りだ。

 じゃらじゃらしていて少し重いし、ちょっとだけ邪魔だった。だけどとても安心する。まるで、シャルルとぎゅうぎゅう抱き合っているときみたいだ。



 首飾りを見たお母様は、ぱぁっと満面の笑顔になった。でも、笑っているのに、泣いちゃった後みたいな声だ。


「まあ、イシュー! ありがとう!」

「いや、僕こそ事態の深刻さに気づかず、あの程度しか送らずごめん。足りなくなるかもしれないと焦ったよ……間に合ってよかった。…………グーリン、痛い。あと、濡れる」


 穏やかに話していたイシュー様の声が平坦になった。無表情になった視線が向けられる先を追い、イシュー様の背中に抱きついてめそめそ泣いているお父様を見て納得する。


「ありがどういじゅー、ありがどぉ!」

「分かった、分かったから背中に張り付いて号泣するのはやめて、冷たい」

「うわぁああああああん! ありがどぉおおおおおおおおお!」


 背後に手を回し剥ぎ取ろうとするもお父様はびくともしない。お父様の頭や顔を押しのける、首根っこを掴み上げる、脇腹をくすぐるなど、色々試したイシュー様は最終的には諦めた。

 号泣するお父様を背中に貼り付けたまま、私に柔らかい笑顔を向ける。


「シャルルと仲良くしてくれてありがとう。あの子がプロポーズしたと聞いて、慌てて飛んできてしまったんだ。僕だけ仲間はずれにされるのは悲しいからね」

「イシューさまは、ルルによくにていますね!」

「シャルルに……ふ、ふふっ、そうだね。僕はシャルルによく似ているんだ。そう言ってもらえて嬉しいな」


 本当に嬉しそうに笑うイシュー様に、私もシャルルが嬉しそうになっているように見えて嬉しくなる。


「シャルルがイシューに似ているのよ……逆よ、逆」


 呆れたお母様の言葉に、なるほどそういう考え方もあるのかと感心した。




「さて、僕は朝までに帰らないといけないから、あまり時間がない。これからのことを話し合いたい。グーリン、悪いがあの子を起こしてきてくれない、か」


 イシュー様が、シャルルみたいな顔でシャルルのことを起こしてくれと言った。

 シャルル……私が起こしにいきたい。だってベッドで眠っていないかもしれないのだ。そう思った瞬間、石がぴしりと割れた。イシュー様の目が鋭く細まる。


「割れた……ちょっとごめん」


 そう言って、イシュー様は二本の指を私の首に当てた。イシュー様の肩に顎を乗せたお父様も、固唾を呑んでその様子を見守っている。


「……体調に異常はなさそうだ。それなのに、いま君は死んだのか……?」

「………………僕が、来たから?」


 ぽつりと落ちた小さな声に、全員が視線を向けた。開けっぱなしの扉の向こうには、裸足のシャルルが立っていた。







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