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17戦







 一応、しぶしぶとだが、イシュー様は話し合いに応じた。王様達が並んで椅子に座っていく。私と同室の変態だけは立っていた。……いちいち私と同室の変態と呼ぶのは嫌だな。まるで変態が私の関係者のようではないか。私と彼との間には何の関わりもないわ! ……駄目だ。否定すれば余計怪しく聞こえる。


 王様達とは向かいの長椅子に私達も座る。イシュー様に抱えられたまま。

 ……おかしくないだろうか。

 でも、誰も止めない。おかしく思う私がおかしいのかと不安になり、ちらりとシャルルを見る。シャルルは私に気づき、静かに頷いた。私も頷き返す……え? 何が解決したの?



 私の疑問も状況も何も解決しないまま、話し合いが始まった。さっきの頷きは何だったのだ。もしかして、諦めろとの頷きだったのか。

 ちなみに、アーグレイ親子の手には未だ杖が握られたままだ。つまり、戦闘態勢は解かれていない。そうそうたる面子が揃っているこの場で、武器を握りしめて話し合いに挑んでいるのはまずいのではないだろうか。でも、王様達が何も言っていないのだから構わないのだろうか。田舎娘には何も分からない。私達と王様の間、テーブルの上に浮かんでいる少年も本当に分からない。胃が痛い。帰りたい。




「双方、言いたいこと、聞きたいことがあるだろうけれど、これは俺が始めたことでもあるから、まずは俺に進行役を譲ってもらいたい。構わないだろうか」


 少年の言葉に、王様達は頷いた。次いで少年は私達を見た。シャルルと私はイシュー様を見る。私達側の代表者は、イシュー様であることは間違いないだろう。イシュー様は少し考え、一応同意した。

 少年はほっとした顔をする。


「ありがとう……。俺は、この世界の神なんだ」


 私とシャルルとイシュー様の心が、凄まじい速度で彼から離れた。

 元から近くはなかったけれど、様子を窺っていた範囲からすら離脱する勢いである。ドン引きだ。どこの世界に、自己紹介で自分を神呼ばわりする人に心を開く人間がいるというのだ。

 それが分かったのか、少年と王様達がとんでもなく焦った顔をした。


「ち、違う! 頭がおかしいわけじゃなくて、本当に神なんだ! え、えっと、神官長! どうやって説明したらいいと思う!?」

「も、黙示録です! 黙示録! 現在三巻まである黙示録!」

「そうだ、あれだ!」


 顔の丸いおじさんが慌てて立ち上がった。今更だけど、よく見たらおじさん達顔の形がそれぞれ違う。王様の顔は四角く、宰相の顔は三角、神官長の顔は丸だ。

 私は心の中で頷いた。うむ、分かりやすくて大変よい。



 懐に手を突っ込んだ少年は、ばんっと机に何かを取り出した。

 そこにあったのは三冊の書物だ。何だろうと覗き込んだ私は、ぎょっとした。細い線で描かれた人物達。その上に、書かれた文字。

 愛の哀 思い出の檻 1~3。

 漫画だ。アイあいの、漫画だ。どうしてこれがこんな場所に? というか、どうしてこれが現実に? 漫画なんて初めて見た。


 硬く分厚い表紙の本ばかり見てきたので、目の前にある書物はやけに弱々しく見える。紙はつるつるだけれど薄く、なんとも儚い。


 私は漫画を見て引き攣った。私の頭の中にしかなかったはずの物語が、どうしてここにあるのだ。それもやんごとなき方々が神妙な顔をしている前に並べられて。神妙な顔をしているおじさん達の前に並べられている少女漫画。何かがおかしい。何がおかしいかはっきりとは言えないけれど、強いて言うならこの状況の全てがおかしい。


「やっぱり知ってたな」


 私の顔を見て、少年は言った。はっと顔を上げれば、彼は私が予想していた物と全く違う表情をその顔に浮かべている。彼は、ひどくほっとしていた。まるで、大事にしていた落とし物をやっと見つけられたようなそんな顔だ。


「俺達はずっと君を探していたんだ……やっと、見つけられた……」


 両手で自分の顔を覆い、深い息を吐いた少年に、私は拍子抜けした。だが、イシュー様とシャルルはまったく表情を緩ませない。それに気づいたのか、元よりさほど時間をかけるつもりはなかったのか、少年はぱっと顔を上げ、表情を引き締めた。



「今から言うことは、到底信じられないことであり、またこの世界で生きる以上信じてはならないことだ。世界の根底が覆され、生が揺らぐような内容だ。けれど、君はその事実を知っていて、また誰よりもその事実の影響を受け、尚且つ誰よりも自由だ。そしてアーグレイ家もその事実を……いや、君を信じている。だからこそ、俺はこれからこの話を君にする。その結果どうするかは、聞いてから決めてほしい」


 酷く静かな彼の言葉に、私は頷いた。たぶん。正直頭の中がぐるぐるしすぎていて、なんかとんでもないこと言ってるなこの人、としか思わなかったのでよく覚えていない。真剣な顔で承諾を取ってくれた彼には悪いことをしたとは思っている。







「この世界は、一つの世界から生み出された物語だった。君達も話は聞いているね。元は、ゲームだったんだ。人の空想から生み出された物語に過ぎなかった物が、沢山の人の目に触れ、心に残り、様々な感情と記憶に派生した。その結果、この物語は一つの世界としての権利を得た。だから俺が生まれた。神が生まれた世界は、元が別の世界から生み出された只の物語であっても、一つの世界としての権利を得るんだ。俺が生まれた時点で、この世界は一つの世界として独立した」


 少年は、浮いたまま話し続ける。とんでもない話を、淡々と進めていく。


「それは別に珍しい話じゃない。だけど、問題はそこじゃない。世界として独立したはずのこの世界に、元の世界からの介入が続いているんだ」

「それは、どういう……」

「この世界を生み出した世界の人間が、この世界に混ざり込んでいる。理由は俺にも分からない。だが、生みの親である世界と関わり深いだけあって、影響力はとんでもない。その力は俺をも勝る。そもそも、この世界が生まれたときその人間は既に生まれていた。つまり、この世界でどれだけ時が巡ろうと、向こうが先に生まれていた事実は変わらない。俺は彼らより若神なんだ。俺は彼らに劣る。どう足掻いてもそれは事実だ。だが、いつまでもこの世界に影響し続けてもらっては困るんだ。彼らが望む物語の形を得ようと、ずっと介入が続いている。彼らがこの世界にいる理由は分からないが、介入が続きすぎてこの世界の基盤が不安定になっている。このままだと、この世界は一つの世界としての権利を失い、ただの物語に戻ってしまう。そうなれば、もう君達が自由意志で動くことは出来なくなる。俺が消えれば、この世界はこの世界を作った存在の介入とそれによる改変から逃れる術がなくなってしまうんだ。簡単に言えば、シャルルが生まれた事実を消そうと思えば今この瞬間に消せるし、シャルルが他の娘に恋をする事実を作ろうと思えば今すぐにでも出来るし、結婚だってさせられるし、そのことに気づきもしないということだ」


 さらっと言われるには、とんでもない内容だった。アーグレイ親子の眉間の皺が凄まじい。私の眉間の皺だって負けてはいない。眉間の皺を競う大会があれば私達三人が表彰台独占だ。

 例えとして出されているだけと分かってはいるが、そこでシャルルの名前を出さなくてもよかったじゃないか。せめて私のほうにしておいてほしかった。シャルルが存在した事実が消されても、シャルルの心がねじ曲げられても、私は怒り狂う。あと、全く知らない女の子と結婚されたら怒り……いや、泣く。号泣する。ギャン泣きだ。そしてドン引きされる予定だ。



「俺はこの世界の神だ。だから、本当はティブルー国に肩入れするのはよくない。だが、この問題が解決しないことには神としての通常業務に戻れないんだ。元の世界の守護はレカリフ国についている。元の物語が、レカリフ王女の話だからだ。ティブルー国はどう足掻いてもその影響から抜け出せない。ティブルーがこのまま国としての形を保てるか、属国に成り下がるか、名前すら失うのか、全てレカリフにかかっているのが現状だ。それは、あまりに歪だ。ただの歴史として、国同士の力関係でそうなったのならともかく、そうなるべく世界の介入があるのなら話は別だ。不公平という問題じゃない。そんなことをされては、この世界が独立した世界として成り立たなくなる。だから俺は、ずっと介入を断ち切ろうとしてきたんだが」


 一度言葉を切った少年は、自分の両手を持ち上げて苦笑した。その手は、反対側が透けている。手だけではない。身体全部があやふやだ。輪郭は確かにあるはずなのに、所々景色に溶けてしまったようになくなっている。その場所すらもあやふやだ。さっきは脇腹が透けていたのに、今は太股が透けている。


「何度繰り返しても、俺より向こうが強い。当たり前だな。俺もあの世界から生み出された一つと言えるんだから」

「何度も、繰り返した?」


 初めてイシュー様が口を開いた。少年は淋しげにイシュー様を見る。


「そう……お前達には、本当に申し訳なかった。もっと早く気づくべきだったな…………何度も繰り返し、俺は結局あの世界からの介入を断ち切ることが出来ず、やり直すことしか出来なかった。俺に出来ることといえば、それくらいだったんだ。やり直してやり直してやり直して、これを手に入れた」


 示されたのは、三冊並んだ漫画だ。この状況で主役を張るには少々頼りない表紙と存在である。だけど誰も笑わなかった。やんごとない人々も、真面目くさった顔どころか苦々しい顔で漫画を睨みつけている。

 その表紙できらきら輝く男の子と、謎の空白。ちなみに、謎の空白、シャルルを含めた男の子達、そしてその一番上に、目元が隠れた私が描かれている。何だこれ。私、魔王みたい。


「……凄いだろ。やり直し百回につきに一冊手に入れた。三百回超えたから、三冊」

「三百回!?」


 黙っていようと思っていたのに、堪えきれず叫んでしまった。


「やり直したなんて、まさか……本当に?」

「ああ。この世界が物語だったときの話で例えるならごーる、そこに辿り着く一歩手前で世界を巻き戻した。あの世界の介入を許した状態で未来へ繋がれてしまえば、この世界の独立権が失われるからだ。何度もやり直して……こいつらと話が出来るようになったのが二百回を超えた頃だった。まあ、こいつら自身の記憶が次回に引き継がれる訳じゃない。俺が今している説明を信じるまでの期間が短くはなったけどね。たまに、引き継いでいる場合もあるけれど、確率は低い。今回は珍しく神官長が覚えてた。俺に近いと介入力をもろに受けるから、こいつらの記憶は大抵吹っ飛ぶんだけど、今回はついてた」


 こいつら、と、親指で指されたのはこの国のやんごとない人々で。


「こいつらと話が出来はじめて、この本の存在に気づいた。本は元々人間が生み出した人間のための物だから、俺が持っているだけじゃ存在を認識できなかったんだと思う。それで俺達は、君の存在が鍵だと思った。君が物語に大きく関わると。だが、君の情報はほとんどなかった。俺達は毎回君を探したけれど、君はあっという間に死んでしまって存在が明るみに出てこない」

「ま、待ってください! その漫画があったのなら、私の存在は簡単に分かったのではないのですか!?」


 アイあいの漫画を読んだことはないけれど、三巻まであれば私の名前くらいは出てきたはずだ。何せゲーム内では、何を置いても隙ある事に、隙が無くてもアルテミシア・エルシャット(※死亡済み)だったのだから。

 だけど、少年と王様達は疲れ切った顔をした。


「文字がね、読めないんだ」

「は!?」


 日本語が読めないのだろうか。確かに漫画は絵と文字を読む物だ。そしてこれは日本の漫画だから日本語で書かれているだろう。タイトルも日本語だし。けれど、それくらいは研究できない物だろうか。何せアイあいと言っていたくらいだ。全部は完璧に読めないまでも、学者さんなどが研究すれば多少は読めるようにはなるのではないか。

 そんな人任せな事を考えていた私の前に、ずいっとアイあい一巻が差し出された。手に取れということらしい。黙示録だなんて大層な名前で呼ばれていた書物に触るのを躊躇っていたら、私より先にイシュー様が手に取った。

 そして、ぱららと簡単に中身を見る。一緒に私とシャルルも覗き込み、納得した。

 漫画は、文字が書かれていなかったのだ。吹き出しはあるのに、文字は一切書かれていない。しかも、恐らくは主人公がいると思われる部分が全て空白なのだ。切り取られたかのように何も描かれていない。



「文字も、恐らくそこに描かれているであろう少女の姿が無いのも、俺の力があの世界の影響力に負けているからだ。やり直す度に、少しずつ変わっていっているのは分かった。これでも、情報が増えたほうなんだ。題名が出てきたのは最近だし。この世界自身にも意地がある。自分の在り方に他者からの介入を認められない意地だ。だからあの世界の目をかいくぐって俺にこれを与えることが出来た。だけど、まだ足りない。どう足掻いても駄目だった。理由は君だ」


 皆の視線が私に集中する。沢山のおじさんに見つめられて、思わずイシュー様の服を握りしめてしまった。皺を作ってしまった私を咎めず、イシュー様は私を抱き直した。シャルルもイシュー様の服の影から伸ばしてきた手で、私の手を握る。その手は酷く冷え切っていた。だけど私だってお互い様だ。

 何だろうね。私達、学園生活を送ろうとしていたのに、どうしてこんな所でこんな話しているんだろうね。


「君が死んだ時点で、物語は回り始める。君が死んだ時点で、どう足掻いても物語は止まらなくなるんだ。だから俺達は君が死ぬ前に何とかしようとしていた。けれど、君の存在はどう探しても出てこない。ここに描かれている面子の誰かと出会うことは確実だったから、どれもに監視をつけていた。…………シャルル・アーグレイ以外には」


 ぴくりと身体を跳ねさせたのは私だけで、シャルルもイシュー様も身動ぎ一つしなかった。ただ、酷く冷たい瞳で彼らを睨みつけている。


「……君は必ずシャルル・アーグレイと関わり、死んでいる。だから俺達は、シャルル・アーグレイを押さえようとした。けれど、イシュー・アーグレイが頑なにシャルル・アーグレイを隠してしまう……俺達は、アーグレイはあちら側の勢力かと、思ったんだ。現に、やり直した世界の中でアーグレイがレカリフについたことは数え切れないほどあった」

「…………お前達が、僕に信頼されるようなことをしてきたとでも言うつもりか。この子をこっちに連れてきてからのことだけでも。この子にまで暗殺をさせようとしたことを僕が許すとでも思っているのか」


 唸るような声が、イシュー様の喉を揺らした。


「僕だけならばいい。それも仕事だ。綺麗事だけで国は成り立たない。そこでぎゃあぎゃあ言うほど夢見がちでもない。だが、シャルルにまで暗部の仕事をさせたら殺してやる。僕はそう言ったはずだ。それなのに、お前達はその協定を破ろうとしていた。……どうせ、やり直したというその世界でも、同じ事をやらかしたんだろう…………ベルガのことも、僕は決して許してはいない。そんなお前達の前に、シャルルを連れてくるわけがないだろう」

「…………当たり前だ。お前達が俺を許す必要は絶対にない」


 私を抱く腕の力が強くなっていて少し痛いくらいだ。けれど、視線を落としてそれでも手加減してくれているのだと分かった。イシュー様の手は、真っ白になっていた。こめかみにも掌にもくっきりと筋が浮き出ている。それほどの力をこめているのに、私に伝わっている痛みはほんの少しだ。


「……父様」

「――何だい、シャルル」


 小さな声で呼んだシャルルの声に、イシュー様はきちんと応えた。にこりと微笑んで、慈しみだけをこめた瞳で。

 私はイシュー様と会うのはこれで二度目だ。だけど、イシュー様は素敵な大人だと思う。事情はよく分らない。でも、凄まじい怒りを、憎悪とさえ呼べるかもしれないその感情を、シャルルを見つめる瞳には一切こめていない。なくなっているわけではないのだろう。だけど、大切だと、愛おしいと、その気持ちを優先しているのだ。


「出来るなら、話を、進めてほしい。今日、ミーシアの石が大量に割れたんだ」

「……何個だ?」

「ざっとだけど、二千個は割れた」


 イシュー様の目が見開かれる。弾かれたように私に視線が向いた。少し乱暴な手つきでがっと掴まれた襟元から首飾りを確認し、ほっと息をつく。

 大丈夫です、イシュー様。石の割れが収まってから、新しい首飾りを四個、腕飾りを左右で六個、足にも左右で六個つけています。物凄く重いです。

 心の中で答える。こんなにいらないと思ったけれど、シャルルはがんとして譲らなかったし、私もさっき割れた石の勢いを考えるとあまり強くは断れなかった。

 私と石をじっと見ていたイシュー様は、深い息を吐いた。


「分かった。ひとまず、お前達の話を信じる。それを前提として、話を進めよう」

「助かる」

「だが、信用したわけではないし、許したわけでもない。償いは必ずしてもらう。そして、償っても許さない」

「……当たり前だ」


 低い声で交わされた言葉と共に、一旦彼らの話は終わった。次は私達の話となる。私は、自分がアイあいのことを思い出したのか知ったのか今一分からないけれど、とにかくそのことが頭に浮かんだ事件から、今日までのことをシャルルとイシュー様に補足してもらいながら話した。

 相手は王様だとか宰相だとか神官長だとかは、一切気にしないことにした。もう既に一杯一杯なのだ。そんなことまで気にしていたら全部吹っ飛ぶ。誰もそれを咎めなかったから許されていると勝手に思っておく。



「そのすとーかーという存在は……すとーりーの中では違った役割かもしれないけど、ここでは介入力の一環かもしれない。万が一君が生き延びてしまったとき、すとーりーを回すための保険だ。とにかく、すとーりーを回すためには対象となる男達に傷が出来なければならない。その傷に、ぷれいやーがつけこまなければならないからだ。だからお前は死ななければならなかったんだろう」


 それは、何とも酷い話だ。


「……だけど、駄目だ。この世界に俺が生まれた以上、ここはもう独立した世界だ。すとーりーを回す必要はないし、そんな理由で命が潰えることを、誰が許してもこの世界の神である俺だけは許してはいけないんだ」

「僕は許していない」

「僕も許していない」

「ルルと父様の前に、私も別に許してませんからね? 嫌ですからね、死ぬの。そもそも、誰の許可があっても嫌ですからね?」


 ちなみに、最後まで話してもイシュー様は私とシャルルを抱えたままだった。困ってイシュー様を見上げてもしれっとしている。シャルルは少し背伸びをして、イシュー様の頭の後ろに自分の頭を持っていき、その体勢で私に手招きした。呼ばれたので私も同じ場所に頭を持っていく。


「父様は、この部屋からいつでも離脱できるように僕らを抱えてるんだ。だから、諦めたほうがいいよ」

「そうなんだ……最初にルルが私と一緒に壁に張り付いてたのもそれ?」

「うん」


 耳元で、シャルルがこしょこしょ話す。私もこしょこしょ話す。王様達を前に内緒話。失礼ここに極まれり。イシュー様には聞こえているだろうけれど、くすぐったそうに笑っているだけで、咎めるつもりはないらしい。それどころか、仰向けに頭を動かしてこっちを見てくる、


「父様も混ぜて」

「やだ」

「そんな……」

「父様、今度、今度三人で内緒話しましょう? ね? ルルも意地悪言っては駄目よ」


 しょんぼりした様子に慌てて言えば、嬉しそうに笑ったイシュー様は、本当にシャルルに似ている。

 シャルルはもう少し、イシュー様に手加減してあげるべきだ。思春期だから反抗期は仕方ないのかもしれないけれど、イシュー様はシャルルに関しては大層打たれ弱いようだから、致命傷になる前に誰か補ってあげないと再起不能になりそうな儚さがある。








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