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そのころ

 突如として夜空に現れた怪物と、ソレに襲われているらしき住民は、当然酷く目立っていた。


 そもそも、真夜中に突然【イデア】が一層眩く輝き出したかと思えば渦を巻き、瞬く間に海の上に大地が出来上がるという、大いに幻想的かつ衝撃的な────それまでの常識を何処かに置いてきたような出来事の直後のことだった。

 その大地と成った輝きの残滓が集まり、ついさっきまで人々の最後の拠り所であった島────通称「最後の島」の上空に怪物が現れたのだ。そうなれば必然、大地の創造に気付き見物していた人々は、怪物の誕生の見物人にもなった。




 人類に【理想素(イデア)】を齎した観測者兼その研究主任(チーフ)鷹司(たかつかさ) (けい)もその見物人の一人だった。


 本来、これから数十年の時間を掛けて、予想される人口増加に合わせて創造される予定だった人工大地、仮称【アルマ】。

 約一年掛けて大凡の計画を建て終わり、後は造りながら考えようとした保留部分も多いソレが、突如として創造されたのだから全く以て訳が分からなかった。あまりの事に、初め佳は目の前で創られたモノが【アルマ】だとは分からなかったほどだ。


 しかし冷静になって目の前で起こったことから推測するに、つい先日を以て仮の完成とした設計図に【イデア】が何らかのきっかけで反応し......結果、【イデア】による大地の創造が成ったというところか。

 だとすればこれは完全な「事故」であり、【イデア】研究のチーフとしては不用意な【イデア】の大規模な利用は未だに予測が付かず、事例が()()()()ので避けたい所であって......研究棟の一角、研究室(自分の巣)でひとときの休憩を貪っていた佳は頭が痛かった。


 (後でこの事件の犯人はキツくお仕置きだなぁ......)


 などと少々現実逃避も混じった思考をしていた佳は......やはり冷静にはなっても平静には戻りきれていなかったかもしれない。


 と、その時、怪物が動き出した。


 その怪物────トカゲをベースに竜の頭にコウモリの羽、大鷲の足と蠍の尾を取って付けたような異形のソレ────は空高くから一鳴きすると、勢いよく最も手近な獲物......付近のマンション群で最も高い一つの屋上へと突っ込んでいった。

 すると狙われた屋上の二つの人影のうち、片方がもう片方を引き寄せ、飛び退った。小柄とはいえ人ひとりを抱えたままでの、無理な姿勢からの離脱とは思えない、異常な機敏さで以て。


 佳は驚いた。この島の住民は人類の数少ない生き残りであり、同時にその殆どが研究者や学者などであって、あのような動きのできる者は居るはずが無く......よってあの二人は助からないだろうと思っていたからだ。

 もっと言えば、この「最後の島」の研究主任────即ち残り少ない人類の集団的なトップでもある佳は、あの怪物が二人を襲った()()()まで、そのよく回る頭で以て、最悪の想定と覚悟をもしていた。




 ......しかし実際、彼らは見事に難を逃れた。それだけでなく、その後も三度、執拗な怪物の攻撃を避け続けた人影は、逃げ場を失くし......反撃に出た。

 先ほど海の上に造られたばかりの大地とよく似た巨大な盾とただ殴ることさえ出来れば十分と言わんばかりの武骨な大槌を立て続けに造り出し、それを用いて怪物を、文字通り殴り倒したのだ。


 それら一連の攻防を見た佳は、ただでさえアクシデント続きで痛めていた頭を、またしばらく酷使し続ける未来が見えた。


「姉貴!」


 その時、弟にして優秀な助手の守雨(シュウ)が研究室に入ってきた。


 「あぁ、シュウか。ノックもしないで入ったら驚くじゃないか。......取り敢えずここから一通り見ていたけど、状況を聞かせてもらえるかな?」


 佳は守雨を穏やかに窘め、先を促した。


 「了解......一言で言えば、どうしてこうなった、だな。

 見ていたなら細かい事は省いて一連の流れを説明するよ。

 まず、【アルマ】の仮設計図を書き上げた後、そのままそこで延長戦を始めたヤツらが居て......とは言っても、休む時は休めっていうチーフの言いつけは守ってて、ほぼ雑談のアイデア交換だったらしいけど。」

 「ふむふむ。それで?」

 「それで、その雑談の中でどうやって造ろうかっていう話が出て、【イデア】はどうか、って話になったらしい。

 あぁ、勿論、ある程度研究が進んだとはいえ奴らも馬鹿じゃないし、あくまで雑談だったらしいんだが......」


 オチは見ていた通り、


 「何故か、【イデア】が反応し......か。」

 「あぁ。まさかこんな事になるとは、だな。こんなケースは流石に想定も実験もしてなかったしな。」

 「しかし、仕方なかった、で済ませる訳には行くまいよ。」

 「そうだな。幸い謎の少年が撃滅したらしいが......それにしたってイレギュラーだろうな。何故一般人の、それも以前ならいざ知らず、こんな島の少年にあのバケモノが倒せたのか。」

 「今日はイレギュラーだらけだな、全く。......取り敢えず、まだたった一例でこうするのも早計かとは思ったが事が事だ。あんなバケモノが現れる可能性がある、という事でこちらで対応しよう。

 ............また【イデア】ありきの発明が増えてしまうが......致し方なし、かな。」

 「あまり無理は......」

 「ああ、解っているさ。ワーカーホリックな皆に休め休めと言っている私が倒れては、ね。」



 結局、佳の研究室の明かりは朝まで消えなかったとか。


戦闘シーンを書くと、どうしても長く続かない......

かと言って無理やり長引かせるのも......

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