暗(?)転
さて、この後どうしようか。
そんなデート中の男女の会話みたいな事を、頭の中で呟いていた。
調子に乗ってワイバーンをぶん殴ったは良いが、足場は現在進行形で折れ傾いでるし、肩が限界で振り切った巨大ハンマーももう持ってられねぇし、これは不味いのでは?頑張って元の足場に戻れねぇかな?いや大分上の方にあるし厳しいか......?いっそあそこに......
などなど下手すればさっきよりも回っている頭で考えるも確実な方法は見付からず、そろそろヤバイかな......と真剣に詰みかけの現状に焦り出したとき、それらは起きた。
先ず真っ先に感じた異変は、掌中にあった。
第一のそれはついさっき造り出した馬鹿みたいに巨大な質量兵器が消える感触。
思わずそちらを見やると、手元から次第に【イデア】へと還っていく巨大槌と、第二の異変が目に入った。
第二のそれはついさっき殴り飛ばした飛竜の輪郭が端から滲み、水に溶けた極彩色の塗料の様な......例の【イデア】に戻ってこちらへ向かってくる光景。
それらはある種幻想的で美しい光景ではあったが、しかし身の危険が差し迫っている今は見惚れているわけにもいかず、取り敢えずは避難......文字通り難を避ける事を選択した。
「海天、最後だ、しっかり掴まってろよ?」
一声かけてイメージを練って、思い切って屋上だった場所へととんぼ帰りした。
そしてさっきから反応のない海天を見てみると、グッタリとして目が死んでいるが......まぁ、なんとか無事なようだ。
「おーい、海天?大丈夫か?」
「一周まわって大丈夫だよお兄ちゃん......どうもありがとう。」
「......お疲れ。」
なんだか険のある妹さんを一旦足場に置いて、やっと人心地つけ......
なかった。
ワイバーンの成れの果て、極彩色の【イデア】の残滓は、はじめ俺達に向かって昇って来たように見えたが、それは相対的な位置関係......つまり俺達の方が上にいたからだという希望的観測に基づいて、勿論現在崩壊中のあの足場もだが、何よりあの不気味な【イデア】から避難したのだ。
しかしその希望は外れたようで、ある程度......俺たちと同じくらいの高さにまで昇ってきたあの【イデア】はそのまま俺達めがけて追尾してきた。
「やっぱどうせなら隣のマンションにお邪魔するのもアリだったかなぁ......」
数秒前の咄嗟の決断を早くも疑いつつ、しかし逃げ場は無いので諦めて追いかけてくる極彩色が怨念の類でないことを祈りながら待つことしばし。
そこそこ素早い動きで俺達の元へ辿り着いた極彩色の【イデア】の奔流は俺達を中心に渦を巻き、徐々にその円を狭め......
────俺達の視界は完全に極彩色に染まった。