第二章 ④/双子から手紙が届いて
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イアンへ
伝令兵が名誉挽回のチャンスを与えてくれとうるさいから、こちらの近況報告をかねて手紙を出した。
伝えたいことは全部で三つ。
こちらとしてもあまり時間がないので簡潔に説明する。
一つ目。
姫さまが嫉妬に狂ってる。(お前の過去の話を聞いて幻滅&浮気寸前だ!)
二つ目。
かくかくじかじかで、シュテン王国リュカ王子殿下からのプレゼント(すげぇでかいサファイアのネックレス)を姫さまが受け取った。
三つ目。
姫さまと侍女のミリィ殿が喧嘩中。(全部お前のせいだからな!この女たらし!)
以上の理由により、近日中にそっちに行くことになったから、よろしく。(首を洗って待ってろよ!)
黄公 チェイス (緑公 ルイス)
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やりきった顔の伝令兵より届いた書簡に目を通すなり、イアンは渋面を作った。
(なんだこのふざけた内容は)
怒りまかせにぐしゃぐしゃに丸めて捨てる。
綺麗で丁寧に綴られた文字はチェイス。
割りこむ形でいちいち書き足している汚い字はルイス。
おもに後者の一言多いつぶやきがイアンの苛立ちを煽った。
自分が今置かれている状況により、向こうで何かしらの事態が発生するだろうなとは思っていたが。
(浮気寸前に、ネックレスを受け取って、あの侍女と喧嘩しただと?)
想像以上だった。
(かくかくしかじかって何だよ。 そこが一番大事なとこだろ)
理由はわからないが、全部を繋ぎ合わせた結果。
(俺がいないあまり寂しさに狂ったレイシアが、あの変態野郎の強い押しを前に断れず、浮気寸前。しかもプレゼントまで受け取った。侍女は……まあ、いいか)
すこぶる不愉快な事態が起きている。
一刻も早くレイシアの元に戻らねば。
そう思うのに。
「ねえ、イアンてば〜! さっきからずっと難しい顔してどうしたの? チュウしてあげようか?」
「………………」
「あ! チュウじゃ物足りない? じゃあね! ユナと一緒にベッド行く?」
「…………ユナ王女殿下」
「もう! そんな堅苦しい呼び方はイヤ! 昔みたいにユナって呼んで! あとあと! いっぱいチュウして!」
「…………お前いい加減にしろよ」
「うわ〜ん! イアンが乱暴な言葉使ったあ!」
深いため息をひとつ。
イアンの背中にぴったりとくっつき、惜しげもなく胸をあてつけて、おまけに頬をすり寄せているユナをはがしながら、眉間に皺を寄せる。
おそらく、これを見られたら最後。
間違いなくすべてが終わる。
怒鳴りたくなる衝動をなんとか堪え、イアンはにこやかな顔を作った。
「ユナ王女殿下。お立場をよく考えて行動してください」
「なによう! 迷惑だって言いたいの⁉︎ イアン変わった! 昔はもっともっとユナのこと甘やかしてくれたのに!」
「もう子供じゃありませんからね」
「ユナだって子供じゃないもの! 十七歳よ⁉︎ もう結婚だってできるわ!」
「では、私などではなくしかるべきお相手と」
「イアンじゃなきゃイヤって言ってるでしょう! ……それともなに⁉︎ この国の年増お姫さまがそんなにいいの⁉︎」
「おい」
「やだあ! またイアンが怖い顔したー!」
離すどころかさらにぐいぐい抱きついてくるユナに半ば呆れ、半ば諦めかける。
どうしてもこのひっつき虫が離れない。
あの手紙を受け取り、嫌な予感がして早々に手を打つべく王宮から飛び出してきたはいいが。
(これじゃ逆効果。どころか……)
最悪な結末が頭に思い浮かぶ。
さらに悪いことに、ユナの兄はレイシアのことがかなり気に入っているとかいないとか。
(くそが)
俺のレイシアに。手をつけようとするなど。
「イーアーンー!」
「ユナ」
「えっ⁉︎ なになに⁉︎ どうしたの⁉︎ やっとユナと結婚する気になった⁉︎」
背中側からユナがくるりと正面に回ってくる。
昔見た、妹みたいだった彼女はもうそこには居ず、すでに一人の女性になっていた。
だから、腹が決まった。
たとえ傷つけても、このままうやむやにしてはいけない。
「誰が何と言おうと、俺はレイシア王女殿下と結婚する。ユナの気持ちには応えられない」
「待って! イアン!」
呼び止める声を無視し、早足でその場を去る。
廊下の角を曲がったところで、ふと足を止めた。
(レイシア……)
「会いたい」
夜空に輝く月を見、そっと独り言をこぼした。




