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恋よ、はじめまして。  作者: 夏平涼
第二部
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第二章 ①/緊急対策本部設置


「ではただいまよりシュテン王国第二王子リュカ殿下の急襲における緊急対策会議を開きます。一同、礼」


 レイシアの一言で重々しく会議は始まった。

 集まった顔ぶれをぐるりと見回す。


 議長席にはレイシア

 書記席にミリィ

 その他、ヴィオラ、チェイス、ルイス


 計五名が名を連ねた。


「なお! 本来ならば虹会議が開かれるのが通常ですが! 髪にも使える良質な黒染め粉が紫州で開発されたとのことで、全員が昨日から視察に出ており、あと三日は戻らないとの報告があがっておりますわ!」

「これは書いておいたがよろしいですの? 王女殿下」

「書かなくていいわ」


 肝心なときにいやしない、とレイシアは内心舌打ちをした。


「それで? リュカさまはどうしたの?」


 はい、と手を挙げたのはチェイスとルイスだ。


「ミリィ殿お手製の睡眠薬を拝借し、布にたっぷりと含ませ、もし殿下が薄目でも開けようものなら、勢いよく布で鼻と口を塞げと部下に命じております」

「俺の部下に、身体を縛る特技を持つやつが一人いて、そいつに変人野郎の全身を縛らせておいたから身動きはしばらく取れないはずです」


「でかしたわ。それでしばらくは持ちそうね」


 全員で安堵のため息を漏らす。


 気を失ったリュカを図書館からずるずると引きずり、ひとまず適当な空き部屋に放り込んだまではよかったけれど。


 驚異の生命力を持っているのか、いきなり起き上がって「マイハニー! マイハニー!」と叫び暴れだす始末で。


 キレたチェイスとルイスがもう一発ずつげんこつをかました、とのことだ。


 よほど暴れたのか、二人の騎士服がよれよれのよろよろになっている。

 あとで新しく新調してあげなければと頭に書き留め、とりあえず会議に集中する。


「しかし、いくら変人といえど、シュテン王国の王子殿下相手にそのような扱いをしても大丈夫ですの?」

「「いいと思います」」


 ミリィの心配もよそに、双子が全力で肯定した。

 正直な話、レイシアもそこは懸念したが、もうやってしまったものは仕方がないと頭を切り替える。


「一週間後、つまりは五日後に来る予定だったはずよね? どうして今日、しかも一人で王宮に?」


「三十分前に帰ってきた伝令兵によれば、馬車や荷馬車で行列を組み、遅々として進まないことを嫌った殿下が一人単身で王宮に向かったと」

「必死で馬をかって、なんとか追いつこうとしたけど誰も追いつけなかったらしいぜ。伝令兵の面目丸潰れだって、意気消沈してる」


「さすが! ペットは飼い主に似ると言いますが、乗り手が変人なら馬も変馬なのですね!」


「まだお会いしたことがありませんけれど。ヴィオラさまレベルの脳内錯乱ぶりですの?」


「「「いい勝負すると思う」」」


 実際にリュカに対峙したレイシアと双子が神妙に頷いた。

 できればヴィオラとリュカを顔合わせしてはいけないことも本能的に悟った。


 おそらく、二人が顔を合わせれば最後。

 王宮が爆発する。


「それはぜひ会って勝負したいですわね! きっちり決着をつけなければ!」


「……それで、リュカさまはどうして私のことを“マイハニー”だなんて呼ぶの?」


「無視ですの!」


「いいから。早く情報!」


「まああ! 王女殿下! 聞いていらっしゃいませんでしたの? ヴィオラさまが前に言っていたではありませんか。炙ったイカを食べながら」


「? なんのこと?」


 婦人会をした夜にそんな話題はあったっけ、と首を傾げるも思い出せない。

 家系図うんぬんの話ではなかったか。


「ではもう一度改めまして! 『長年結婚できずに独身をこじらせた殿下はレイシア様と結婚できると聞き、たいそうお喜びになっているそうですよ!』です!」


「そんな大事なことをよく炙ったイカ食べながら言ったわね! ヴィオラ!」


「イカおいしかったですからね!」


「うふふ。御歳は二十九歳らしいですよ? ひとつ年下の第三王子にはすでに三人の妻がいますが、 リュカ殿下は初婚で、ずいぶん気合いが入っているのだとか」


「地獄か!」


 ぜーはー肩で息をしながら、ようやく事情を把握した。

 イアンとユナ姫のことだけで頭がいっぱいだというのに、どうして自分まで!


「やってられないわ! 早々にお帰りいただいて!」


「今すぐは無理だと思われます。少なくともユナ王女殿下が王宮に到着せねば、兄一人で帰ることはないでしょう」

「それに、だ。まとめてシュテン王国に帰さないと意味ないだろ? 兄はいらないが、妹はイアンにひっついていつまでも滞在、なんてなってみろ。どエライことが起こるぜ?」


 戦争、の二文字が頭をよぎったところでレイシアは頭をかいた。

 婦人会では勢いで言ったが、そうなるとこちらが負けるのは目に見えている。


(もう! なにかあれば戦争なの! ややこしいわね!)


 国を治めることはいかに大変なことかをまざまざと突きつけられたレイシアだった。


「じゃあ、ユナ姫が王宮に着くなり話をして、婚約話を破談にする。お詫びに二、三日最大限のおもてなしをして帰っていただくのが一番良いんじゃないかしら?」


「それも少し厳しいかと」


 レイシアの渾身の提案に、難色を示したのはチェイスだ。


「これも伝令兵が伝えてきた報告なのですが」

「チェイス! 気を使うのはわかるが、隠しておいてもいいことなんてないんだし、とっとと姫さんに言えよ!」


「なに? どうしたの?」


「……シュテン王国からの一行が王宮に向かう道を逸れまして。イアンの生まれ育った藍州を通過し、王宮に向かうとの報せがありました」


「どうしてもと駄々をこねたらしいぜ? 夏のこの時期にちょうど藍州では祭りをやってるし」


 知ってる。

 イアンと行きたいな、なんてレイシアも思っていたから。


「しばらくイアンが実家にユナ王女殿下を招き、藍州を案内して回ることになったらしく。その、ですね」


「早い話が到着がだいぶ遅れるってさ!」


 ーーーー誰か、嘘だと言って。


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