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恋よ、はじめまして。  作者: 夏平涼
第二部
41/54

序章 /報せは突然に

ここから読み始めても、話の内容はつかめると思いますが、キャラの性格やこれまでの経緯、情景描写などを詳しく知りたい方は第一部から読むことをオススメします。

「なんですって⁉︎ もう一回‼︎」

「ですから! 結婚のお申し込みがありました!」


 “トーリアの奇跡”から早二ヶ月が経ち、蒸し蒸しと暑い日々が続く、鬱陶しい夏。


 ヘッドピースがない生活にもだいぶ慣れた。


 額からしたたる汗も貴人らしく侍女であるミリィに拭ってもらって。

 今日も執務室で書類整理に精を出していた矢先に、ヴィオラが届けてきた報せ。……がレイシアの度肝を抜いた。


「驚き桃の木山椒の木」

「古いですわ! さすが元引きこもり! 巷の流行を知らなさすぎます! いったい何十年前のギャグですの⁉︎」

「現実逃避はそのぐらいにして。真面目にお考えにならないといけませんわ、王女殿下」

「だって! ……だって!」


 動揺のあまり幼子みたいに語彙力が乏しくなる。

 ついでに、がっつり頭を抱えた。


「こんなことってある⁉︎」

「わりかしあることですわ。先の一件で、王女殿下はさらに国内外で有名になりましたし。興味を持つ輩も増えましたから」

「便乗ホイホイってやつですわ! まったく! どこぞの害虫みたいですわね!」


 まさかの名前を言ってはいけないGに例えるあたり、さすがヴィオラだとは思うけれど。

 相手が悪い。

 だって。


「シュテン王国の王子って! 大陸一の大国じゃないの! それがうちみたいな小国にいったい何の御用なの⁉︎」

「そんな大声で言いますと、国王であらせられるお父上が泣いてしまわれますから。どうか小声で」

「事実でしょう⁉︎」

「ついでに、その大国の第二王子からレイシア様に結婚の申し込みがあったことも事実ですわ! ささっ! 早いことお返事を!」


 急かされ、レイシアは半眼になった。

 そんなもの、訊かなくても答えなどわかるだろうに。彼の、イアンの姉であるヴィオラなら。


「もちろん! 二つ返事でお断りします! 私には、イアンがい……る……もの……」

「あらあら。後半のモジモジ具合がいじらしくもあり、腹立たしくもありますわ、私。あいつ一発殴ってきましょうかしら」


 ごきっばきっとミリィが指を鳴らし始めたのを咳払いひとつでやめさせる。

 どうもミリィとイアンは折り合いが悪いらしい。正確には、ミリィが一方的にイアンを嫌っていると表現するのが正しいが。


「とにかく! 申し訳ないけれどお断りしないと。どうすれば波風立たずに事を済ませられるかしら?」


 まさかまさか、レイシアに好いた惚れたからと結婚の申し込みをしてきているわけではないはずだ。


 シュテン王国が持ち合わせていないものはこの世にない、と称されるほど潤った国力を持つ国。

 レイシアの父が治めるエルメルト共和国が差し出せる資源、特産品などとっくに貴国は持っているはず。


 だとすれば、噂半分に、きっと興味本位で言ってきているに違いない。


(丁寧にお断りすれば、国交を荒すことなく、水に流してくれると思うんだけど)


 ちらり、とヴィオラに視線を送る。

 この手の話は、外交官である彼女に一任するのが最適だろう。


「ね、ヴィオラ。お願い!」

「残念ですが、今回ばかりは私の手には負えないかもしれませんわ!」

「自信満々に胸を張って言う事じゃないから! どうしてよ⁉︎」


 チッチッチッとヴィオラが人差し指を左右に振る。

 長い黒髪を後ろにさっと払いのけ、高いヒールをものともせずに、だん、と一歩を大きく踏み出した。

 目と鼻の先に迫った彼女の顔に対し、レイシアは不満気に目を細めて対抗する。


「なによ」

「レイシア様がイアンを大事に想う気持ち、姉の私としては若干お尻がむず痒い気がしないこともないですけれど。ここでひとつお知らせしておかねばなりません」


 では、発表します! との掛け声から、ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルとドラムロールが部屋に流れ始めた。

 もちろん本物の楽器ではなく、ヴィオラお得意の一人芝居、口真似編で。


「もういいから! 早くしなさい! こっちは書類が溜まってるのよ!」

「ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル…………」

「こらっ!」

「ジャジャン! なんと! イアンにも結婚の申し込みがありました! お相手は、同じくシュテン王国の第一王女! ユナ姫です!」


 時が、止まった。


「はあああ⁉︎」

「まあ。嫌ですわ、王女殿下。お口が悪いですよ」

「ミリィ、なんだか嬉しそうね」

「気のせいですわ」


 他人事のように鼻歌を歌っているミリィはこの際無視するとして。


 なぜ? どうして?

 頭に疑問符が浮かんでは消えていく。

 確かにイアンはかっこいいし、もてるけれど。

 いくらなんでも大国の姫が小国の一貴族に結婚を申し込むだなんて、普通はありえない話だ。


「絶対に何か裏があるわよね」

「邪推、と言いたいところですが。私もそう思いますわ! 奇遇ですわね!」

「なんとしてでも阻止しないと!」

「重たい年上女の本領発揮!」

「……忘れているようなので再度言っておきますけれど。王女殿下にも結婚のお申し込みがあったのですよ?」

「そっちはどうでもいい!」

「それがよくありませんわ!」


 一段と声を張り上げたヴィオラにレイシアは眉根を寄せた。


「どうして? 私はその方に興味ないもの。会うつもりすらないわ」

「それは無理です! いらっしゃいますから。一週間後に。お二人揃って」


「え?」

「ですから! シュテン王国の王子と姫が二人揃って来国なさるのです! 一週間後に!」


 再び、時が、止まった。



レイシア(22)▶︎エルメルト共和国第一王女。瞳に不思議な力を持つ。容姿端麗だが、国内外から嫌われていた経緯もあって、元引きこもりだった。今も人と目を合わせるのは苦手。

ミリィ(43)▶︎レイシアの侍女&護衛。見た目はかわいい系十代後半なのに、実はババア。たまに年寄りが仕草に出る。イアン嫌い。

ヴィオラ(22)▶︎レイシアの親友&護衛。本職は外交官。常に頭のネジが一本外れてる脳内錯乱女。スキル“空気を読む”はたまにしか発動しない。イアンの実の姉。

イアン(17)▶︎虹騎士。藍公。レイシアのためにクールぶってはいるが、実は口が悪く、やんちゃ。酒に弱い。巨乳より尻が気になるお年頃。

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