第一話「邂逅(かいこう)」
五十嵐 燈真は移り変わるはずのない景色を車窓から見ていた。
彼は橙色の髪の毛をで暗い緑の瞳を持つ少し幼さを残している青年だ。
彼が今何を考えているかは分からない。
彼が乗っているのは車でも電車でも飛行機でもない。ましてや船でもない。
彼が乗っているのは宇宙へ向かう軌道エレベーターの中だ。
軌道エレベーターと言っても普通のエレベーターとは違い2日掛けて宇宙へ向かう。そのため軌道エレベーターには宿泊施設が設けられている。
彼が乗っている軌道エレベーターは国際宇宙ステーション゛バベル゛へ向かおうとしていた。
「―――――ま!」
「とう――――!」
「燈真!もうすぐ駅に着くから降りる準備しとけよ!」
突然名前をそれも耳元で呼ばれた彼はビクッと体を振るわせた。
その後、彼は声の発生源を見た。
そこには金髪で青色の瞳をした青年が立っていた。
「なんだ...ジャックか。突然耳元で声をかけるなよ。ビックリしただろ。」
「いや...俺、お前を何回も呼んだけど反応しなかったんじゃん...」
「えっ、マジで?それはすまんかった。」
「まぁいつもの事だから良いけどさ。」
ジャックと呼ばれた青年は半ば諦めているようにも見えた。
「ん?どうしたんだ燈真。何か嬉しそうじゃん。」
「そりゃ嬉しいさ。だってこれから国連軍の...しかも特殊部隊に配属されるんだぜ?それにCAPにも乗せてもらえる。そう思うと楽しみでさ。」
「子供かよ...気持ちは分かるけどさ。それにお前制服もらった時、凄く嬉しそうだったしな。ただ月まではまだ時間がかかるけどな。」
彼らは今その制服を着ている。
黒色の生地で襟元や袖に白色の折襟の物だ。
「うっ...それを言わないでくれよ...と、とりあえず降りる準備をするぞ!」
「俺はもう終わらせたから手伝うわ。」
彼らは燈真の部屋へ向かって歩いて行った。
彼らが準備を終えてしばらくすると艦内にアナウンスが入った。
ポーン
『間もなく本艦はバベルに到着します。乗り換えのお客様は1番ゲートへ、軌道ステーションへ参られるお客様は2番ゲートへお集まり下さい。』
「急ぐぞ燈真!すぐ乗り換えないと次の便が来るの30分後だ。乗り遅れると遅刻で隊長にしばかれるぞ!」
「ああ。分かってる。」
彼らは放送が入るや否や走ってゲートへ向かって行った。
「ふぅ何とか間に合いそうだな」
「はぁ...はぁ...はぁ...そ、そうだな...はぁ...」
燈真は日頃から運動をしないせいか肩で息をしていた。
「お前疲れすぎだろ...CAPのシュミレーションばっかやらずにもうちょっとは運動したらどうだ?」
「嫌だよ...俺は運動が嫌いなんだから...知ってて言うなよ...」
燈真は息が整い始めたのかまともに会話が出来るようになっていた。
「基地にはトレーニングルームもあるだろうし明日からトレーニングだな。」
ジャックはニッコリと燈真にとって地獄のような事を言った。
「えー...」
燈真は絶望の瞬間に立ち会ったような顔をしていると
ポーン...ポーン...
『ゲートが開きます。ご注意ください。ゲートが開きま...』
そうアナウンスを流しながら カシュッ と音を立ててゲートは開いた。
「よし!行くぞ!」
「あーもう分かったよ!走りゃいいんだろ!走りゃ!」
燈真は自暴自棄になったかのように走り始めた。
彼らが走り始めてしばらくたった時
ドンッ
突如、バベルは衝撃に襲われた。
さながら地震のような揺れだ。
「燈真、派手にコケたけど大丈夫か?」
燈真は前のめりの状態で顔からコケて行った。
これはいかんとジャックが燈真の元へ駆け寄り手を挿し伸ばした。それを燈真は受け取り立ち上がった。
「ああ。大丈夫だ。一体何が起きたんだ?」
「分からな...」
ビィー!ビィ―!ビィ―!
『緊急事態発生!緊急事態発生!当ステーション゛バベル゛はエクリプスからの襲撃を受けております!ご利用中のお客様は至急、避難用ポッドへご搭乗ください。また出動可能なCAPは撃退とポッドの護衛へ回ってください。繰り返します...』
「なってこった...エクリプスが襲撃してきたって?燈真!急いでポッドに乗るぞ!」
「ああ!」
彼らは走り始めたその時
「――――――――!」
ふと聞こえた声に燈真は立ち止まってしまう。
「さっきの声...こっちか...」
その声に懐かしい感じがした燈真は思わず声がした方向に走り始めていた。
そう燈真はジャックとは別の道に入ってしまったのであった。
一方ジャックは...
「脱出ポッドはこちらでーす!」
脱出ポッドの搭乗口に着いたジャックは安堵した。
「よしっ!着いた!良くついてこれたな燈...」
ジャックが振り向くとそこには燈真の姿はなかった。
「燈真!おいどこだ!燈真!くっ...まさか置いてきてしまったのか...俺としたことが...今行くぞ!」
ジャックが燈真を探しに行こうと走り始めると
ガシッ
誰かに腕を掴まれてしまった。
「待つんだ!ジャック!」
ジャックが鬼のような喧騒で振り向くとそこには士官学校の先輩がいた。
彼は宇宙服を着ていて髪型とかは分からないが顔は認識することが出来た。
「クリス先輩...でも!燈真が!」
「どこかで保護されているはずだ!お前が死んだら燈真が悲しむだろ!お前は乗れ!後でアイツに連絡を取ればイイだろ!」
「くっ...」
ジャックは苦虫を噛み潰したような顔で渋々ポッドに乗った。
「燈真...死んでんじゃねぇぞ...」
ジャックは祈りながらバベルを後にした。
燈真は気づくと格納庫に辿り着いていた。
慌ただしく警備兵が機種は分からないが緑色のCAPに乗って発進していく。
燈真が格納庫に入ってきたのを見たガタイのいい警備兵は
「そこの少年!ここは危ないから関係者以外は立ち入り禁止だ!それにポッドは無いぞ!」
警備兵の声を耳に止めずに奥へと進もうとする。
「声が...声が聞こえたんだ。」
「――――――――!」
「また聞こえた...こっちか...」
燈真は声の発生源へ向かおうと格納庫の奥へ向かって行く。
「お、おい!そっちは...」
警備兵の制止を押し切って辿りついたのは01と扉に書かれた場所であった。
「ここか...」
「待てここから最高機密だ!なんでも新設された特殊部隊に配備される機体が...言っちまった...」
警備兵はうっかり口にしてしまった嘆いていると
「なら俺は関係者だな。」
「おまえは何を言っているんだ...まさか...その制服...」
「俺は特殊部隊に配備された人間だ。」
それを聞いた警備兵は扉の管理人に連絡をし扉を開けてもらった。
するとそこには白衣を着た学者のような人がいた。
だが燈真の視線は彼には向けられておらずその後ろにある白亜のCAPに注がれていた。
燈真はその機体に魅入られていた。
白をベースにした機体で体には胸元に被さる形で藍色の分厚い板のようなものがある機体だ。
「よくぞ来てくれました。ですがここには残り1機しか残っておらずあなたに配備される機体かどうか分かりませ...」
燈真は学者の声を遮るように呟いた。
「...声が聞こえたんだ。」
「はい?」
「ここから声が聞こえたんだ。だから多分アイツが俺の機体だ。」
燈真はここにある白亜の機体を見上げた。
「あははははっ!良いですねぇ良いですねぇ!良いでしょう試してみましょう!おっと失敬私の名はジョージ・ウィーリー。さあ搭乗してください。あなたの生体データが登録されているかもしれません。搭乗したら目の前にあるパネルに手を置いてください。それで起動出来たならあなたの機体です。」
「熱心に説明してもらってるところ悪いんだけどさ...どこから乗るんだ?」
「あそこの...」
ドゴォォォォン!
さらなる爆発がバベルで起きた。
「まったく...警備軍は何をしているんですかねぇ...それはそうと乗る場所はあそこの顔の下にある青色の所からです。椅子は出しますね。」
「了解した!」
そう言うと燈真は階段を駆け上りコックピットに到着した。
「こいつが俺の機体...最高だな...」
燈真が自分のであろう機体を見て興奮をつのらせていると
「椅子を出しますよー」
ウィーン カシュッ
と音を立てて椅子が出てきた。
「椅子の右下にあるスイッチを押せば下に下がりますー。下げたら起動できるか試してくださーい!」
燈真は椅子を下ろしパネルに手を当てると
ヴォンッ
カタカタカタカタとOSが表示されて燈真の周りにモニター越しにさっきいた格納庫が見えた。
「起動完了したぞ!」
「本当に起動できるとは...良いですねぇ良いですねぇ!さあ!その機体゛天ノ叢雲゛でエクリプスを討伐してきて下さい!さあさあさあさあ外に出しますよぉ!」
ジョージがそう言うと天ノ叢雲に繋がれていたケーブルが切り離され、腕や足に付けられていた整備用のだろう足場が格納庫の壁へと吸い込まれるように収納された。
そして天ノ叢雲は緑色の目を光らせた。
天ノ叢雲の前の扉が閉じ、そして上のハッチが開かれた。
燈真は格納庫の先を見上げた。
そこには無数の星が浮かんでいた。
「了解!天ノ叢雲 五十嵐燈真!エクリプス討伐に向かう!」
燈真は思い切りペダルを踏んだ。
突然かかったGにうめき声を上げるも燈真は気にもとめず進んでいった。
天ノ叢雲は勢い良く宇宙へ飛び出たのであった。
イラスト付きで投稿するつもりでしたが完成に間に合わずやむを得ず小説の方を投稿させていただきました。
また、イラストの方は完成し次第Twitter、pixiv等の方に投稿させていただきます。
次回更新は2週間後辺りを予定しております。
Twitter:@cathedor2026