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プロローグ
蝶の様に舞い、蜂の様に刺せ。
日本に古来から伝わる、戦いの手本の様なこの言葉は多分、『蝶に美しく、そして蜂の様に攻撃的に戦え』というようなことを示しているのだろう。
蝶と蜂。どちらも六本の足を持ち、飛べない人を嘲笑うかのように空を滑空する昆虫だった筈だ。
それ以外の共通点は、えぇと、あぁ、短命であることとかだろうか?あまり博学で無い僕は、残念ながら二匹の共通点をホイホイと出すことは出来ないのだ。
美しく、攻撃的に。あまりこの戦いのない社会に馴染み、平和ボケにボケた日本で使うことはまず無い言葉だと、僕は今更この古めいた文章を脳内でなぞりながら確信した。
それ故に。だからこそ。
僕は受け伝えられたこの言葉を。
現代に不似合いなこの言葉を。
現代に不似合いで物騒な“それ”は、彼女に似ている気がするのだ。
蝶の如く可憐で、蜂の様に狂暴で、そして少々短命であった彼女を、言葉に照らし合わせて、僕はふと考えたのだ。
彼女は蝶に、蜂に似ていると。
彼女は蟲に似ていると。