第2章 注意は端的に。
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ついカッとなって声をはりあげてしまい妾は後悔した。あれしきのことで感情を荒げるとは、まだまだ修行が足りぬ。
男たちを見ると、今度は素直にひれ伏しておった。
軽薄男なぞ、さっきの余裕もどこへその、顔を俯けながらブツブツ「俺死? 死ぬ? 死ぬとき。俺死ねば。死ぬ」とか、ちょっとおかしな言葉を呟いておった。
ふう、とため息をつき、無意識にはいっていた肩の力を抜く。
この場をどう治めるか困って、アキタを見る。忠実で有能な側仕えは、妾の意図をすぐに読み取ってくれた。
「この無礼者ども。月皇女様に対する非礼の数々、その命で償うだけで許してやること、光栄に思うがいい!」
――ちょ! そんな展開望んでおらぬぞ!
アキタの声に反応して、男たちが顔をあげる。
その顔は真っ青を通り越して真っ白になっていた。
アキタは微笑み、護身用の光線銃を取り出す。安全装置を解除する音が、静かな廊下に響き渡った。
「アキタ、やめよ」
急展開についていけず、少し戸惑っていた妾だったが、念のため止めることにした。
流石にいくら過保護なアキタといっても本当に私刑で命をとるとは思わぬが、声をかける。ここは第一士官学校であるのだし、生徒は全て貴族以上しかおらぬ。
舐められるのも困るが、わざわざ事件を起こすのも厄介なことにしかならぬ。
「月皇女様がそうおっしゃるなら」
アキタは構えていた光線銃をしぶしぶしまい、「優しい月皇女様に感謝することね」と言った。
――アキタ、そなた思いっきり悪役なんじゃがー!
怒らせると恐ろしいやつじゃ、と内心青褪めつつ、男たちに声をかける。
「以後、気をつけよ」
妾的には、小さいって言うなとか、人のどうしようもない身体的特徴を貶めるのは止めよとか、何を食べればそんなに身長が伸びるのかとか、言いたいことはいっぱいあったのだが、今は何を言っても聞こえてなさそうなので、端的に注意しておくことにした。
以後、気をつけよとは、便利な言葉じゃ!
何に気をつけよとかいうと、それだけしか注意を促がせないが、敢えて言わないことで、全てを網羅できる。魔法の言葉じゃの。
妾は、これでよしと内心でガッツポーズをしてアキタに声をかけ、講堂に向かうことにした。
初日から遅刻なんぞしたくないからの。
新入生代表挨拶なるものを頼まれておるし、がんばらねば!