第1話 勇者③
《side:澪羽》
「リューヤ、リオン、ミウ…いいか?この国にいてはいけない。 …逃げろ」
(ヴァーちゃんは流石に可哀そうだから…)ヴァルはそう言ったの。
「…それはどういう事?」
いつも微笑をたたえているルー兄が真剣な表情で問いかける。
リュウ兄も…心なしか少しだけ、顔が引きつっている気がする。
「…君達の世界からこれまで何回か召喚してきたが…」
言葉に詰まっている。それほど言いにくい事なのかな…?
ルー兄が顎を使い促す。
ヴァルは少し躊躇った後…ぽつぽつと話し始めた。
要するに…
・召喚を受けると原因は不明だが、強力な身体能力強化や特殊能力強化や追加を受ける。
・もし、一般的な5属性(火・水・風・土・雷)の人は少なくともこちらの人間よりは強い為、大抵は騎士や魔道士になる事が出来る。
・光属性や特殊な属性の場合は勇者と呼ばれ大々的に公表された後、戦争に巻き込まれる。
・闇属性の場合、魔王の使いとされ…処刑。
…つまり、結局の所政治や戦争の駒にされて良い様に使われるというオチみたい。
魔界や魔族もいると言う事には驚いたけど、魔王は争いを好むような人では無いみたいで意外だった。
むしろこの国が魔国と言われても可笑しくない位に壊れている…気がするんだよね。
ヴァルのお父さん…国王は“土地と資源が欲しい”それだけの事で他国を魔国呼ばわりして戦争を起こしているような人みたい。
更にはそんな環境で育ったせいか、ヴァルのお兄さんやお姉さんは、人の命の重さをわかっていないし、我侭し放題。
それに…ヴァル曰く、私達の誰かから闇属性を感じたみたいで、咄嗟に水晶を割ったらしい。
ルー兄怪力じゃなかったんだ…残念。
で、次の水晶が届くまでに国から離れろって事みたいだけど…
この国がやばそうだったり、身体能力が上がってたのは此処に飛ばされてから薄々気づいていた。
普段の私だったら…この部屋に来るまでに息を切らしている筈なんだよね。
寧ろ体の体調は好調で、比喩ではなく本当に羽が生えたみたいに軽かった。
それに…私の“超能力”が…触れなくても発動したの。
ただ…あの時王女様に一瞬気を向けただけなのに、身体の一部が接触した時以上にその人の記憶が見えた。
他人の記憶を覗いたり、思考を見たりするのって結構精神的に負担が来て…吐き気がしたんだけど、表情に出さない様にして、耐えた。
お陰でお兄ちゃんたちには気づかれなくて済んだんだけどね。
気づかれてたら、お兄ちゃん達は、ほら、過保護だから…ね?
その時の一瞬でわかったのは沢山あるけれど、特に重要だと思ったのが…王女様が私たちの事を“おもちゃ”と思っている事、ルー兄を気に入っている事、そして…王族以外の人を人間だと思っていない事。
こういう環境で育ってきたからかもしれないけれど…でも、ね…。
「…なるほどね…いくつか質問しても?」
「ああ、私が答えられる事なら」
それまで何やら考え込んでいたルー兄は、では…と切り出した。
「僕達が元の世界に帰る方法は無いかな?」
「ある事にはあるが…基本的に無理だと思ってもらった方が良い。 昔、とある魔術士が1人だけ成功した人がいたが…既に亡くなっている」
「その方法が分かるものはある?」
「いや…」
「薄々そうじゃないかなとは思ってたけど…帰せるなら逃げろなんて言わないだろうしね」
ルー兄は苦笑して、しまったなぁ…頬を掻いた。
「私は君達がこの国から確実に逃げられる様、手配しておこう」
それは嬉しい、嬉しいんだけど…彼からは違和感を感じる。
何だろう…と思っているとルー兄もリュウ兄も気がついたらしく、眼を細めた。
「ねぇ、ヴァル…君は何かをしようとしてるんじゃないのかな」
「…っ!な、何の事だ…?」
ルー兄の鎌に反応したヴァルはビクリと肩を揺らす。
…嘘がつけない体質なのかな?
「…この国、変えたいなーと思ってる。 で…内乱起こそうとか考えてるんじゃないのかな?」
ヴァルはこの言葉に顔をずらす。
…見事に図星みたい。
「ああ…そうだ」
暫く間が空いた後、小さく掠れた声が聞こえた。
「勝算はあるのかい?」
「……一応」
ルー兄はズケズケとツッコミを入れる。
…ヴァルが涙目になってるけど…多分気のせいだね。
「ヴァル側にいる人は?」
「全員あちら側だと思ってくれていい。 私側についているのは国民だ」
「…国民ね~」
ヴァルの言葉に何か意味を感じ取ったのか、ルー兄はニヤリと口角を上げる。
『澪羽と兄さん…どう思う?』
『この国腐ってるなー潰した方が後々良くないか? 俺達みたいな目に遭う奴がいるかもしれないしな』
『そうだね~私もその方が良いと思うよ?』
ルー兄私達の意見を聞くと、微笑した。
そして、そのままヴァルに向き直る。
その笑顔に気おされたのか、ヴァルはやや逃腰気味でルー兄に顔を向けた。
「僕達、やっぱ此処に残るよ」
「何故っ…!」
「で、傭兵として雇ってほしい」
「…は?」
ヴァルは唖然としている。
その顔がとてもマヌケだったから思わずリュウ兄と念話で爆笑していたのは…秘密!
「報酬は前払いで僕達に魔法を教える事かな。 成功報酬は…ヴァルにお任せするよ」
「な…」
うわぁ、ヴァル更に顔が…
暫く放心状態だったけれど、はぁ…と大げさに深くため息をつくと苦笑しながら頭を掻いた。
「…わかった。 そうしよう」
私には、その表情が心なしか嬉しそうに見えた。